日帰り海底2万マイル(後編)
「……測定完了。アダマンタイト100%から構成されています」
エッフェル塔モドキを見たミズリが言い、その内容に俺達は目を丸くする。
「あ、あ、あの大きさの物が全部アダマンタイトで出来てるの!?」
達也がそう言う。
アダマンタイトはこのイルミスで最も硬い金属であり、大抵は剣や鎧などに使用される。だがその埋蔵量は非常に少なく、使用される際も他の金属と混ぜ合わせて使われる。
純度100%のアダマンタイトなど余程の物にしか使われない。如月の使っている聖剣などがそうだが、それでも厳密に測定すれば不純物が5%程混じっている。イルミスの技術力ではそれが限界なのだった。
だからこそ、今目の前にある物が100%アダマンタイトだという事は信じられなかった。
「建造から約80年経過しています」
「80年前、か。案外魔法は昔の方が性能高かったり……いやそれでもこの量のアダマンタイトを集めるのは……いいや、考えるのはよそう」
考えていても何も変わらない。
「どうなさいますか?」
「あそこに入口っぽいのが見えるだろ、中に入って探索する。多分探してるのとは違うが……でも時間に制約がある訳でもないしな」
俺が指差したのは塔の下段部──丁度本物のエッフェル塔の第一展望台あたり。そこにはやはり展望台じみた構造物があり、入口らしき物も見えた。
そこにコスモクレインを横付けする。
そうして問題となるのが「どうやって外に出るか」である。ここは深海、生身で出れば苦痛を感じる間もなくペシャンコだ。
「やっぱりウェットスーツとか着るの? それとも深海だし宇宙服とかの方がいいのかな」
「そうだな……いやちょっと待てよ」
達也の疑問に俺は賛同しようとして、ある事を思いつく。
「ミズリ、シールドで水を防げるか?」
「可能です」
「よしっ、それでいこう」
「え……もしかして」
俺の考えを察したのか彼は顔色を変え、不安げな声を漏らす。それに対して軽い笑みで返し、俺はコスモクレインを消した。
「ぎゃあ──い、生きてる……」
「び、びっくりしたのです」
「ははは、ほんとシールド有能だな」
さて、そんな事もありつつ俺達は内部に侵入する。
そこはサッカーグラウンド程度の大きさの正方形の空間である。完全に割れてしまっている窓際には備え付けの机や椅子があり、またカウンターもある事からかつてはレストランだったのだろうという事が分かる。
バーの様な構造物に近付くと、棚には未だ瓶が残っていた。だが瓶は無事でも栓は完全に腐ってしまっており、中は海水しか入っていない。
そして、空間の中心部にはエレベーターの様な物がある。というか、明らかにエレベーターだ。塔の中心部を円筒が通っている。
エレベーター自体は動かないが、そこを登れば上階に行けそうだ。俺達は円筒に入り、重力制御で上に向かう。
エッフェル塔でいう所の第二展望台。そこは何やら研究施設の様な風体であった。
だが、中にあったのであろう物はその全てが腐り消え、残っているのは机や台、間仕切りのみ。軽く調査してみたが何も見つからなかった。
さて、そうして塔の最上部に到着する。そこはどうやら、居住空間らしき場所の様だ。
外が広く望める風呂、大きなベッドにタンス。きっとこの塔を作った者の部屋なのだろう。
「……? 何なのです、この模様」
「どうしたイリィ……こ、これって……夜空君!」
ふと、デスクを漁っていたイリィが首を傾げ、達也が声を上げる。
そこには、この二文字が刻まれていた。
"カミ"
「……片仮名、か。つまりこれを作ったのは召喚者ってことか」
それならばこの異常な建物にも納得がいく。要するにエッフェル塔に偶然似たのではなくエッフェル塔に似せて作られたのだから。そして、アダマンタイト100%なのも恐らくはそういった類のスキルによる恩恵なのだろう。
しかしながら、何とも意味深な二文字である。
「"髪"、"紙"……いや、"神"、か?」
その後もしばらく捜索を続けたが、結局それ以上に目ぼしい物は出てこなかった。
80年前に推定日本人が残したと思われる謎のダイイングメッセージ。これは一体何なのだろうか、謎が深まるばかりの結果となってしまったのだった。
さて、そんな寄り道もしつつ探索を開始してから五時間が経過した
目的地としていたオブジェクトは結局あのエッフェル塔以外は特に気になる物は無く──ただの海底遺跡や沈没船──若干の徒労感を感じ始めていた頃の事だ。
「……これ、は」
数える事十個目のオブジェクト。それは明らかにこれまでのそれとは雰囲気が違っていた。
何しろそれは──正しく、"宇宙戦艦"だったのだ。
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