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日帰り海底2万マイル(前編)

「やってきましたコントリール海!」

「広いなー、本当にこんな所探すの?」

「こんなにあおいうみ、はじめてなのです!」

「コントリール海、総面積約4200万平方キロメートル、隣接大陸、ゲリュバテス大陸及びニルシエント大陸。隣接海、ルベリス海及びプレファレンス海です。尚、プレファレンス海とは"世界の壁"で隔たれています」


 城から出た俺達はピラクテ海岸に来ていた。ジリジリと日光が肌を照り付ける。ここは赤道付近、今は11月だがそんな事は微塵も感じさせない暑さだった。いや、南半球では11月は夏……まあいいか。

 一面に広がる青い海、穏やかな海面は陽光を反射してキラキラと光る。空にはカモメによく似た鳥が舞い、潮の香りが心地良い。

 そんな大海を見た達也は捜索範囲の広さに困惑し、こんな状態の海を初めて見た───魔界の海は汚染されている───イリィははしゃいで海に駆けていく。ミズリはいつもの如く詳細情報を淡々と告げ、そして俺はスキルの備品欄を眺めていた。


「流石に目視で一々探してたらどれだけ時間があっても足りないからな。そこはスキップ出来る……筈」

「まあ、夜空君のスキルは凄いもんね……筈?」


 俺が最後に付け加えた言葉に彼が不安げな表情を浮かべる。


「取り敢えず暫く達也はイリィちゃんの様子でも見ていてくれ。ちょっと準備する」

「分かった」


 そう言うと、彼は海ではしゃぐイリィのもとに向かっていった。海では子供から目を離してはならないのである。

 それはさておき、ミズリに探す方法を尋ねてみる。


「ソナーによる地形探査を提案します」

「やってくれ」

「了解しました。コスモクレインを取り出します」


 彼女が紡錘形の大型の機体を取り出す。

 これはコスモクレイン。陸海空宙の如何なる空間でも行動する事が出来、多種多様な探査器具を備えた特殊探査艇である。ソナーもそこに装備されているのだ。

 それを海に入れ、ソナーを作動させる。単なる音響探査でなく次元波を交えた……説明を読んだがよく分からなかった。まあ要するに素早く終わらせる事が出来るらしい。そして、その説明に違わず僅か数十秒で地形図は完成した。それを解析にかけ、不自然な物が無いかを探っていく……が。


「……多い」

「沈下した都市や帆船なども含まれている様です」

「そういうのは出来るだけ除外してピックアップしてくれ。ある程度絞り込めたら後は人力でやる」

「了解しました」


 コンピュータがオブジェクトの1つ1つを識別し、除外していく。地形図に表示されていたオブジェクトを表す光点が次々と消えていき、最終的に十数個にまで選別される。これならばそこまで時間はかからないだろう。


「達也ー、終わったぞー」


 俺は達也を呼び、地形図を見せる。これがコントリール海底の正確な地形図であり、更に探査すべきオブジェクトまで絞り込んでいると聞いて彼は少し引いていた。なまじ理解出来る範囲にあるオーバーテクノロジーに触れた時の人間の反応がこれである。

 そういう訳で目的地も決まり、俺達はコスモクレインに乗り込む。コックピット内部は前後左右の複座式であり、四人でも楽々と乗る事が出来た。


「これでうみにもぐるのです?」

「ああ。海底二万マイルの始まりだぞ」

「?」


 尤もかかる時間はその古典文学よりも遥かに短いのではあるが。こういう物は気分が大事なのである。


 さて、潜航しサーチライトを灯す。キャノピーには画像処理されて鮮明になった景色が映し出され、水の濁りなどまるで感じさせない光景が目の前に広がる。


「ほわあああああ」


 深海という魔界に居たら絶対にお目にかかる事のないであろう景色を見てイリィが目を輝かせる。

 不思議な形をした魚が泳いでいる。マリンスノーが降り注ぐ白い砂の大地にはウミユリがたなびき、所々に光が灯っている。ゆらゆらと揺らめいているのであれは多分チョウチンアンコウだろうか。


「あ、あそこにアンモナイトが!」

「はえー、イルミスでは生き残ってるのか」


 地球では当の昔に絶滅したとされる生物も多数見る事が出来た。とはいっても恐らく似ているだけの別物なのだろうが。

 また、異世界特有の生物も。


「マスター、二時の方向、距離3キロメートルに大型の生命反応を感知」

「二時……うおっ」

「リヴァイアサン!?」

「おおきいのです……!」

 

 そこには巨大な"龍"が居た。3キロ離れているとは思えない程にそれは雄大で、存在感を発している。

 水色の鱗にヒレ、そして何よりも長い体躯。一体何メートル……いや、何キロあるのだろうか。気付いたのか気付いていないのかは定かではないが、それは俺達とは反対の方向に泳ぎ去っていった。

 また、少し進むと"森"があった。珊瑚礁に海藻が付いて形作られた海の森。三つ首の鮫やら小型のシーサーペントに襲われつつ進んでいくと、そこでまた新たな発見をする。


「街……?」

「街、だね……」

「まち、なのです?」


 珊瑚を積み上げて作られた建物が並ぶ街に遭遇したのである。因みに後から知った事だが、ここは先程除外した中にあった場所らしく、俺達は偶然来てしまった訳だ。

 そこに住むのは人魚───ではなく、人の形をした魚であった。多分、深き者。

 彼らはこちらに気付くやいなやある者は隠れ、ある者は勇気を振り絞って立ち向かってくる。彼らが持っているのは槍、こちらの兵装は水中用パルスレーザー。正面から戦えば勝ち目しかないがそんな野蛮人ロールはしない。

 俺は無断で彼らの領域に踏み込んでしまった事を心の中で謝罪し、大きく迂回して目的地へと進んだ。


 そこが一つ目の場所であり、感知していた二つ目の場所ではまた別の出会いがあった。


「今度は遺跡か……でも、これは」


 インスマス町から北に140km程行った場所にある海溝。最深部では深度12000mにもなるその底に、その遺跡は鎮座していた。

 通常海底遺跡と聞いて思い浮かぶのはピラミッドみたいな形の物だろう。アステカとかマヤとかムーとかアトランティスとか、とにかく現代人には全く馴染みの無い形と、構造。

 だが、今俺達の目の前にあるのは。


「東京タワー……?」

「どっちかって言うとエッフェル塔じゃないかな……でも何でここに?」


 所々崩れているが、細長い三角形のシルエット。それを構成しているのは不思議なことに錆びていない、表面を貝が覆っている鉄骨の様な何か。


 その見た目は、まさしくパリにあるエッフェル塔。そんな物が海底の暗闇の中、コスモクレインのサーチライトに照らされて妖しく鎮座していた。

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