王城侵入(三日ぶり三度目)
さて、そんな小噺はさておき。
綺麗な格好になった達也と共に俺は艦長室にて会議をしていた。
因みにイリィはミズリが遊んでくれている。艦内工場を用いれば遊具だって作れてしまうのだ。しかし、短期間でこれ程慣れるとは、子供の順応力とは恐ろしい。
それはともかく、会議の内容とは当然帰還方法についてである。
「魔王はどうなの? ほら、召喚された時に聖女が魔王を倒せば帰れる、みたいな事言ってなかったっけ」
「いやあれは確か"魔王を倒せば願いを叶えられる権利が与えられる"だった筈だ。つまり神次第って訳だ」
「あー、それじゃ駄目だね……」
案が1つ出れば消えていく。魔法という手段が封じられた今、取る事の出来る手段は非常に限られていた。
そんな訳で最終的に宇宙を放浪して地球を探そう、そんな流れになっていた時、達也が不意に何かを思い出す。
「あ……そういえば」
「どうした?」
「いや、この船に入った時に謎の既視感があって……それの正体を思い出したんだ」
彼は続ける。
「城だったかな……こんな風に辺りの雰囲気にそぐわないメカメカしい物を見た様な気がするんだよ」
「へえ……んじゃ、行ってみるか」
「か、軽いね」
城といえば、俺達にとっては悪い思い出しか無い場所である。俺はこれまで何度も訪れたと話は聞いていてもやはり受け入れがたいものがあるのだろう。
「まあシールドが破られない事は確認済みだからな。触れられないと分かっていれば怖くはない」
「……そういう物かな」
「そういう物だ。まあ来たくなければ来なくても構わないぞ、城を探し回るくらい訳無いさ」
俺が言うと、彼は俯いて考え込む。まあ仕方あるまい。
ここで行けば確実にアイツら───如月や安田に会うことになる。そして、奴らは達也が死んでいると思っている。
それはつまり、あちらから関わられる事は無いという事で……そして、生きていると知られれば標的に加えられるという事だ。それは確実に彼にとってマイナスになるだろう。
だが───
「……いや、僕も行くよ」
「いいのか?」
「うん。……逃げてばかりじゃいられないし」
「───と、いう訳だからイリィはミズリさんと一緒にここで」
「いやなのですー! あるじといっしょにいくのです!」
「うーん……」
ちらり、と困った様にこちらを見る。我儘な少女を何とかしてくれ、そう言わんばかりに。
しかしそんな事を言われても俺には甘やかす以外のあやし方を知らない。彼の期待に応える事は出来ないのだ。
「まあ、連れてってもいいんじゃないか?」
「夜空君」
「シールドもあるしな。それにイリィちゃんだって戦えるんだろ?」
「はいなのです!」
彼が言うには、彼女のレベルは既に50を超え、筋力は1000を超えているらしい。その五分の一にも満たない俺ですらこれまで生き残れているのだからまあ大丈夫だろう。達也は複雑な表情をしているが、保護者としては当然の事である。
それはともかく、連れていくとなれば準備をしなければならない。
まずは武器と防具。二人の物はあの時のダンジョンで失われてしまっているのだ。地上に買いに行ってもいいが、艦内工場で作成した方が質も良いし安く済む。素材は以前ダンジョンで手に入れたガイアドラゴンの鱗。それを加工し、ナイフとショートソード、胸当てや籠手にする。因みに俺は筋力が低いので着けられない。
また、達也には念の為にゲリエドラグーンも渡しておく。まあショートソードに慣れているので使う事はほぼ無いだろう。イリィは体格に対してあまりにも銃が大きすぎた為渡していない。
さて、それら諸々の準備が終わると俺達は大気圏再突入の準備をする。とはいっても戦闘機に乗り込むだけなのだが。
今回乗るのはコスモパンサー。ただしこれまでの複座型ではなく、複座に更に後部に銃座が設置された雷撃型コスモパンサーだ。達也がそこに乗り、俺とイリィは前部に乗り込む。
「発進するぞ、ベルトは着けたか?」
「う、うん」
「つけたのです!」
「よし、じゃあ衝撃に備えてくれ」
「え、それってどういう───ぎゃああっ!?」
「ひゃあああっ!?」
コスモパンサーは艦後方にあるロータリー型の格納庫に格納されており、発進する際には艦底部のハッチが下ろされ、そこに装備されたカタパルトに機体を設置、後ろ向きに射出される。
その際にかかる負荷はかなり高い。俺も初めて体験した時は一瞬意識が飛びかけた程である。だが。
「お、驚いた」
「び、びっくりしたのです」
「……この超人共め」
達也とイリィは一瞬悲鳴を上げたもののその後は特に気絶などする訳でもなくけろりとしていた。あからさまに強そうな達也はともかく、内外共に幼女なイリィですらそれである。俺は少しショックだった。
これまで未来兵器が強過ぎてあまり実感が無かったが、ステータスが高いという事をまさかこんな所で感じさせられるとは思わなかった。
それはともかく、大気圏に突入する。イリィははしゃぎ、達也は悲鳴を上げる。なまじ知識として知っているだけ恐怖が高いのだろう。
「は、はやっ」
コスモパンサーは大気圏内では実にマッハ10という速度で飛ぶ事が出来る。音速の十倍、2人は体験などした事がなかっただろう。そして、イリィはよく分からずにただはしゃぎ、達也はなまじ理解出来るからこそ恐怖の方が勝ってしまう。
だからこそ、王都まで一瞬で到着してしまう。どのみちバレるのだからと直接城に乗り込む事となった俺達は最上部に機体を横付けし、降りる。
「な、な、な」
「ゲーハ国王陛下、お久ぶりです。そしてさようなら」
「えいへ───」
バチリ、俺の放ったショックガンが何かを叫ぼうとした彼の身体に直撃し、白目を剥いて気絶する。続けて近くに控えていた兵士も気絶させる。
贅肉のついたふくよかな身体、白い髭、そして頭髪が見られない頭。彼はこのレファテイン王国の国王であり、召喚された翌日に一度会った事がある。とはいっても直接話した訳でもなく、如月など筆頭生徒のおまけとして謁見しただけだ。そして、俺に本当に力が無いと分かった後は一度も謁見を許されなかった。
召喚を決めたのも彼である。今態々撃つ必要もなかったのに撃ったのはそれに対する反抗だ。以前からやってやりたいとは思っていたのである。
「このハゲ、だれなのです?」
「この人はこの国の王様だよ。……あとイリィ、あんまりハゲなんて汚い言葉使っちゃ駄目だよ」
「? ハゲはハゲなのです」
子供の無邪気さとはなんと残酷である事か。
彼女は気絶する彼の輝く頭をペチペチと叩きながら言い放つ。そんな彼女を困り顔で窘める達也を他所に俺はミズリを呼び出し、ここに来た目的───"剣と魔法の世界にそぐわぬメカメカしい物"の捜索に移る。外が何やら騒がしいが気にしない。シールドを張ってあるのでどのみち入れないのだから。
部屋の中を軽く見回すが、あるのは国章が描かれたタペストリーや宝石などばかり。イラつく程に煌びやかで豪華絢爛なその空間は、しかし典型的な"剣と魔法の世界の王の間"である。不自然さなど欠片も感じられない。
「綺麗なのです」
「1つくらい持って帰ってもいいんじゃないかな。どうせ押し入った時点で犯罪者だし」
「毒を食らわば皿まで、だな。まあ程々にしとけよー」
俺がそう言うと2人は物色し始める。
俺達を勝手にこの世界に召喚して、それでいて殆ど何も与えなかったのだ。このくらい貰ってもバチは当たらないだろう。
さて、そんなこんなで王の間での用は終わる。結局ここには宝以外は何も無かったのだ。まあ桃色の宝石があしらわれたリボンを着けたイリィの笑顔が見られたので良しとする。
シールドの範囲を狭め、部屋から出る。そこで待ち構えていた兵士達を気絶させて歩いていく。
「……何というか、僕らの出番無いね」
「まあ基本一発で気絶するからな……メイテルは気絶しなかったけど」
俺は小さな魔王の顔を思い浮かべる。あいつヤバいな、そんな言葉を引っ掛けて。
「となると、折角作ってもらったこの武器も無駄になりそうだね……」
「いやまあ、如月とか聖女が出てきたら───」
「"ガル・ブレイヴ"ゥゥ!!!!」
───と、談笑していた時、叫び声と共にシールドに斬撃が加えられる。それはヒビ1つ入れる事すら出来なかったものの俺達をひるませるには十分過ぎる程の迫力を内包していた。
そして、俺がそれをやった主を視認するまでの間にもう一度同じ斬撃が加えられ、更にもう一度───
「───なっ!!?」
───やる直前、その剣を止める剣があった。そこで漸く、俺は斬りかかってきたのが丁度話題に出していた"勇者"───如月である事を認識した。
そして、その剣を止めたのが達也の剣である事も。
「だ、誰だ君は!?」
「……」
まさか自分の剣が剣によって止められるとは思っていなかったのだろう。謎の白髪の剣士───彼は達也が生きている事を知らない───に驚愕するその隙をつき、俺は発砲する。
「くうっ……ふふ」
「えぇ……マジかよ」
だが、彼は気絶しない。一瞬額に皺を寄せるのみで、しかし彼は二本足でそこに立っている。
彼は体勢を立て直し、床を蹴って距離を取る。
「ハハハハハ!! 驚いたかい、櫻井君。もう僕はそんな物では気絶しない! 今の僕は君よりもつ───ッ!! 何なんだお前は!!」
「久しぶりだな、如月」
「ッ!? どうして僕の名を!?」
「分からないのか? だろうな、お前は俺の事なんて全く眼中になかったもんな!!」
そう叫ぶと、2人は強烈な斬撃を交わしていく。ぶっちゃけ俺には何をしているのか全く見えないのだが、達也が激昂しているのだけは分かる。口調まで変わってしまっているのだから。
一方の如月は何故怒っているのかすらも分かっていない様子だ。そもそも未だ彼が斉藤達也であるという事も分かっていないのである。まあ見た目だけならばまるで別人なのだから仕方がないのかもしれないが、それでも雰囲気には達也らしさがあると思うのだが……
「そ、そんな。どうして!!」
「お前がここでぬくぬくと過ごしていた間、俺は過酷な環境で生き抜いてきたんだ!!」
「ぬ、ぬくぬくと、だと!? ……ふッ、ざけるなあああああ!!!!」
「ッ!!?」
如月の剣戟が激しさを増す。
俺の起こした事件の後始末をずっとやっていたのだ。それを"ぬくぬくと"と表現された事で彼の怒りが刺激されたのだろう。達也の経験した過酷とはまた別のベクトルで過酷だった筈だ。
俺は苦笑し、イリィを見下ろす。彼女は目の前で繰り広げられる戦闘に釘付けになっていた。
「イリィちゃんはあの動きが見えるの?」
「……すこしだけ、なのです」
「そっか」
少しなら見えるのか。
「でも……ぜったいにはいっていけないのです」
「本能ってやつかな。正解だと思うよ」
多分この戦いはこの世界の中でも最高峰に位置する代物だ。幾ら才能に溢れているとはいえレベル50程度の彼女が入っていける物ではない。俺もさっきから援護射撃をしようとしてみてはいるものの、達也に誤射してしまいそうで撃てていない。
そもそもシールドがあるので戦う必要すら無いのだが、達也にその声は届かない。
「───また、来たのですね」
「……うげえ」
そうして現れたのは"聖女"エリスフィーズ。その背後にはクラスメイト共の姿もある。気付けば俺の背後にも同じくクラスメイトがおり、どうやら戦っている内に包囲されてしまっていたらしい。
どのみち接敵していたのだからそれが早まっただけ、そう捉えておくが、今俺は達也を連れて来た事を少し後悔した。
「この前は随分とやってくれたなァ、優等生サマ?」
「どんなスキルが出たか知らねェが、今度こそ殺してやる」
「安田に田中。お前ら凄いな、あっさり倒されといてそんだけイキれるなんて」
「「あァ!!?」」
怒りを滲ませた表情をしながら出てきたのは俺達を虐め、達也を罠に嵌めた安田達。取り敢えず煽っておいたが、それが酷く滑稽で最早怒りも湧いてこない。
「お前を殺してその女共を奪って引き裂いて犯してやる」
「野蛮人かよ。なあ安田、いつからお前は脳ミソまで猿になったんだ?」
「ッ、殺す!!」
そう言うと、彼は拳に炎を纏わせて殴り掛かる。だが、それはシールドに傷1つ入れる事すら叶わず、逆に───
「~~~っ!!」
「無理すんなって」
彼の拳はひしゃげ、血を溢れさせる。一切凹まない物を殴ってしまったのだ、その衝撃は全て彼の拳に返される。
「卑怯だぞ!!」
「卑怯?」
はて、一体コイツは何を言っているのだろうか。
「お前、達也を罠に嵌めておいてよく言えるな」
「あァ!?」
メラリ。冷めていた心に火が灯る。
俺は持っていたゲリエドラグーンを握り締め、そのモードを変える。気絶で済ませるショックモードから、殺傷力を伴うパルスレーザーモードへと。
───頑張ったな───
「っ……」
「ぎゃあっ!?」
それを彼の額に向けて放とうとした直前、脳裏に浮かんだのは以前出会った松本先生の言葉。
俺は咄嗟に照準をズラしていた。光の弾は彼の頭蓋でなく耳を削り取り、彼は左耳を押さえてその場に倒れ込む。
「……先生に感謝しろよ」
「な、何を」
彼がその言葉を理解する間もなく俺はショックモードで彼を撃っていた。安田はだらしなく白目を剥き、動かなくなる。
それで俺のやる事は終わり。田中が喚いているがすぐに撃たれて動かなくなる。俺は銃を下ろし、達也と如月の戦いをどう終わらせたものかと思案を巡らせ───
「───ぁ」
───ようとした時、胸元に小さな衝撃が入る。
「……安田様、時間稼ぎ感謝致します」
俺の胸元に短刀を突き刺していたエリスフィーズは、小さくそう呟いた。
全く反応出来なかった。いつ、どうやってシールドの中に入ったのか。
「───マスター!!!!」
俺は、初めてミズリの叫び声を聞いた。
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