通常攻撃が効かない? なら効くくらい強力な攻撃をぶち込んでやれ
さて、どう対処するか。俺は対戦車砲を食らってもなおピンピンしている目の前の怪物を見て舌打ちをする。
というか何だアレは。気持ち悪いにも程があるだろ。
『愚かな人間がまた2つ増えたか……』
「ボスのテンプレみたいな事言うなお前。達也、コイツな───おっと」
『何っ!?』
と、そこでガキン、という音が鳴り響く。見ると床に光の剣が転がっており、次には空気に溶けて消える。
どうやら奴が放った攻撃らしく、音が鳴った直後の声は若干の焦りを含んでいた。いやはや、シールドを展開していて正解だった様だ。
「───ッあ、そいつは天使だ! 普通の攻撃は通じない!」
「天使? そんなのも居るのか、この星」
『フフ……ハハハハハ! その通り、私は天使エディエル! 君達下界の物は本来傷付ける事すら出来ない存在なのだよ』
天使。座学で学んだ事はあったがあの時は地球でも見る様な普通の人間の姿だった筈だ。まあ、これが本当の姿だという事なのだろう。
それは兎も角、俺は奴の足元に居る幼女に視線を向ける。胸元に光の剣が突き立てられているが、まだ生きている。生きているならばどうとでもなる。
「ミズリ、達也を頼む」
「了解しました」
ミズリが達也に駆け寄り、それを止めんと奴が再び動こうとする。だが、それは三度目の爆発───俺の放ったバズーカでまたも止められる。
効果は薄いが、それでも動きを止める事は出来る。触手で顔は見えないが、こちらを向く奴からは間違いない怒りを感じた。
「お前の相手はこの俺だ」
『不届き』
刹那、幼女の上部に無数の光の剣が現れ、それが落とされ───だが、突き刺さる事はない。それは先程の俺の時と同じ様にけたたましい音を立てて弾かれる。
このルームに入り、彼女の姿を確認した時に既にシールドを張っておいたのだ。
止められた事への困惑と怒り、それが奴の動きを一瞬止めたその瞬間に俺はゲリエドラグーンを最大出力で発砲する。標的は彼女に突き刺さる剣。弾が通る瞬間だけシールドに孔を空け、それは剣に命中、破壊する。ああ、また向けられる怒りが増えた。
『……よく分かった。どうやら私は君を見くびっていたようだ』
「そりゃどうも」
『これより君を神敵と見なす。我が全力をもって貴様を倒そう』
そう言うと、奴は槍を構え直し穂先をこちらに向ける。
「マスター、救出完了しました」
「よし。一旦戻ってくれ」
「了解しました」
そこでミズリが達也の救出に成功する。彼の手足は既にくっついており、それを確認した俺は表情を緩ませ、ミズリを一度艦に戻らせる。
達也が顔を青褪めさせている。まあ、確かに奴から感じる雰囲気が一変したのだから仕方がないのだろう。
「よ、夜空」
「安心しろ、達也……」
確認。
幼女と俺、達也はシールドの中。周囲にはモンスター以外の生命反応は無し。ミズリも艦橋で待機している。
「最後に1つだけ。俺達を逃がしてくれないか?」
『逃がすと思うか?』
それは最後通牒。奴はさらりと流した。
そして脚に力を込め、こちらに突撃を───
「───撃て」
───瞬間、奴の姿が青白い光に包まれた。
そして、その光が収まった時には。
「な……」
「ふう、何とかなったな」
既に奴の姿は無く。後に残されたのは天井にぽっかりと空いた孔、そして俺達だけだった。天使を名乗る化け物は、跡形も無く消し飛んだのである。
艦砲射撃。これも効かなければ逃げるしかなかったが、流石に陽電子砲の一撃には耐えられなかった様だ。火力こそ正義である。
俺は反重力箒を取り出すと幼女に近付き、彼女を抱えて箒に乗る。そして、呆然としている達也に向かって手を差し出した。
「ほら、達也」
「……ああ」
彼も乗り込み、飛び立つ。主砲のお陰で一発で外に出られる様になったのだ。
そうして地上に脱出し、輸送機であるコスモエーゼルを出現させる。いつも乗るコスモパンサーでは流石に三人は乗れないのだ。
見た目はオスプレイのプロペラをロケットエンジンに換えた様な形状。機体後部にはハッチがあり、内部はそれなりに広い空間となっている。そこに医療ポッドを出現させる。
「俺は操縦するから達也はこの子の服を脱がせて入れてやってくれ。入れれば後は機械が自動でやってくれるから」
「あ、ああ」
そうして俺はコックピットに向かった。
───────
その場に残された達也は混乱する頭を何とか冷ませ、イリィの服を脱がせていく。
赤黒い血に塗れたボロボロの布を切る。痛々しい傷跡が露わになり、思わず彼は顔を顰める。
「ごめんな……イリィ」
「あ……る……じ……」
「!! イリィ!」
と、そこで彼女が口を開く。その声はとても弱々しく、今にも死んでしまいそうだった。
如何に急所を外されていたとしても、胸元を貫かれ大量に出血した彼女の傷は本来ならば確実な致命傷たりえた。
「もう喋るな! 今医療ポッドに入れるからな、そうすれば助かる!」
「わ……た、し……あ、るじを……」
「ッ……」
急いで布を引きはがす。だが、べっとりと着いた血と焦りによって手元が狂い、中々脱がす事が出来ない。
彼女の鼓動が、息が、体温がどんどん弱まっていく。間近に迫る、死。彼が諦めかけた、その時。
「慌てず、急いで、正確に。如何に弱まっていようとも生きてさえいれば助かります」
「───ッ! あ、なたは……」
「終えました。これより治療を開始します」
そこに現れ、横から手伝い始めたのは先程夜空の傍らに立っていた銀髪の少女だった。
彼女は滑らかな手つきで速やかに服を脱がせ終え、イリィをポッドの中に入れる。蓋が閉まり内部に薬液が充填される。
「治療完了まで2時間24分です」
「あ、ああ……イリィは、助かるのか?」
「問題ありません。後遺症も傷跡も残りませんのでご安心下さい」
「あ、ありがとう」
淡々と粛々に。その言葉が世界一似合うのではないだろうか、彼は目の前の少女に対しそんな感想を抱く。
まるでこの世の存在だと思えない程に美しい少女だった。端正な顔立ちにバランスの取れたスタイル。白磁の如き肌に絹の様に美しい長い白銀の髪、そしてルビーの様な紅い瞳。だが、その表情には何処か人間味といった物が欠けている様に思えた。
彼女の挙動は完璧だった。完璧過ぎたのだ。一切の無駄が省かれた───人間ならば必ず犯してしまうであろう無駄でさえ省かれた、機械的な挙動。
「あなたは……何者なんですか」
「私はミズリ。マスターである櫻井夜空様を支える自律式アンドロイドです」
「へ、へえそうなんでアンドロイド?」
「はい」
「……そうなんですか」
「はい」
突然少女の口から飛び出してくる明らかに世界観にそぐわない単語。まあ、それを言うとそもそもこの機体といい医療ポッドといい魔法とは程遠い物なのである。彼は思考を放棄した。
そうこうしていると、ガクン、と機体が揺れる。何が起こったのかと窓から外を窺うと、そこに広がっていたのはメカメカしい機械と鉄の景色。それに彼はふと、自分でも意味が分からない既視感を抱いていると、そこにガチャリと扉が開いて夜空が出てくる。
「到着だ。ようこそ、俺の戦艦へ」
「せ、戦艦?」
「ああ。まあ詳しい説明は食堂でやろう。その子の治療にも時間がかかるしな。ミズリ、ポッドを医務室に運んで新しい服も用意してやってくれ」
「了解しました」
完全に置いてけぼりの彼を他所に、ミズリはポッドを持ち上げようとする。
しかし、明らかに数百キロはありそうなそれを、こんな華奢な少女が持ち上げられるとは思えなかった彼は手を貸そうとして、だがあっさりと持ち上げた彼女の姿を見てまたも唖然とした。
「ああ、反重力装置があるから重さは実質ゼロなんだよ。心配してくれてありがとな」
「はんっ……もう訳が分からないよ」
うん。深く考えるのはよそう。
彼はそう決心し、素直に夜空の後についていくのだった。
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