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『外れ職業だと馬鹿にされていましたが裏技を見つけたので虐めてきた奴らに復讐します』(後編)

「──ッ!!?」

「あるじ!?」


 突如彼の身体に光の剣が突き刺さり、そのままの勢いで壁に縫い付けられる。彼は血を吐き、イリィは慌てて駆け寄ろうとする。

 だがそんな彼女の行く先に数本の光の剣が突き立ちその足を止める。


『───下界の生物とは何とも愚かな物だなあ。"自分なら行ける"と思いこんで無謀な事に首を突っ込むのだから』

「ぐ……誰だ」


 まるで脳内に直接送り込まれている様な、そんな声が聞こえてくる。彼が絞り出す様に言うと、部屋の中央に"それ"は現れた。

 "それ"は一見すると馬の様な見た目をしている。馬の様な胴体に、しかしそこから生える脚は六本だ。そして尻尾の先端には竜の頭があり、鋭い視線を彼らに送っている。

 また、胴体からは男の上半身が生え、しかしその顔にあたる部分は蛸の触手に覆われており目や口といったパーツは見る事が出来ない。胸部はパックリと開かれそこから二本の腕が出て弓と光の剣を持っている。普通に付いている左手には巨大な盾を、右手には槍を持っている。

 そんな全く見たことのない様な、生命体と言ってもいいのか疑問な物が、ルームの中央で立っていた。

 ぞくり。"それ"を見た達也の背筋に悪寒が刺す。


「おまえがあるじをやったのか」

『ああそうだとも、小さき者よ。この聖なる剣で魔の物を串刺しにしたのはこの私だ』

「やめろイリィ」

「殺す!!」

『ハハハ!! 来るがいいさ!!』


 だが、激昂した彼女はその悪寒に気付かなかった様だ。彼女は彼の静止も聞かずに"それ"に突っ込んでいく。その両手に握られているのはナイフ。腕の良い鍛冶屋に造らせた物ではあるがここまでの戦闘で切れ味は落ちている。

 放たれる光の剣を避けながら彼女は突っ込み、突き出したそのナイフを"それ"は槍で防ぐ。


「く……」


 そんな二人の戦いを睨みながら達也は自らに刺さる剣を抜こうとする。しかし、剣に触れるだけで彼の手は焼け爛れ激痛に襲われる。


『無駄だよ、その剣は魔の物を触れるだけで死に近付ける。ほれ、刺さっている腹からも煙が出ているぞ』

「ぐッ……」


 "それ"の言う通り、彼の腹もじゅうじゅうと焼けている。気を強く持たなければすぐにでも気絶してしまうであろう激痛に襲われながらも、彼は抜こうと足掻く。だが、剣はピクリとも動かない。

 駄目だと悟った彼は遠距離からの援護を行う事にした。今イリィは"それ"と戦えているが、手加減されているという事は火を見るより明らかだったのだ。

 手を合わせ、銃の様な形にする。


「『フェリアス・ヴィリウェル・カリエード』」


 それは詠唱。人間界のそれとは全く異なる進化をした、魔族の魔法。


「『トリアルヴィン』!」


 刹那、指先から不可視の弾丸が発射される。それは音速を超える速度で進み、しかしあっさりと盾で防がれる。

 だが、それこそが目的。


『ぬ……?』


 この魔法は命中した相手の動きを一瞬だけ止める。それは盾であろうと関係ない。

 ほんの一瞬、瞬きをする程度の隙。しかし、彼女にとってはそれで十分だ。


「やあああっ!!!」

『ぐああッ!!?』


 飛び上がったイリィのナイフが上半身の首を掻き切る。血が噴き出し、"それ"は悲鳴を上げる。

 やった。二人の表情が明るくなり───



『───なんてな』


「!? ぎゃっ」

「イリィ!!」


 光の剣が彼女の胸に突き刺さり、そのまま地面に縫い付ける。彼女は目を見開いて血を吐いた。

 彼は力を振り絞って攻撃を仕掛けようとするが、次の瞬間には飛来した光の剣で全ての手足を切り落とされる。


「がっ……」

『ハハハ、その絶望と怒りに満ちた顔、素晴らしいぞ』

「あ、るじ……」


 "それ"は嗤う。


『これまでのどの奴等よりも良い表情をしているなあ』

「ッ……イリィを、離せ……!」

『離してやるとも、そう言えば満足かな?』


 ケラケラと嘲笑う。離す気が無いのは一目瞭然であった。

 彼は"それ"を睨み付ける。いつの間にかイリィが付けた傷は無くなっていた。


『下界の物がこの私を傷付ける事など出来ないよ。それがこの世界の法則なのだから』

「お前は……何者だ……!」

『私かい? 私はエディエル。君も聞いた事くらいはあるだろう? 元人間の斉藤達也君』

「な……」


 彼は目を見開く。それは彼の名を知っている事に対してでもあり、そして"それ"が名乗った名前にもだ。

 エディエル。それは教会が信仰する光の神イルミスに仕える十柱の天使、その1つの名だったのだから。


『"スキル"とは人間の中に眠る才能……と、君達は思っている。だが、それは違う』

「……」

『この世界において魔力を使う行動は全て我等が与えた物なのだよ。スキルも、魔法も。そしてそれを保有している者の全ても我々は見る事が出来る』


 それは衝撃の事実であった。

 つまりそれは、自分達ではどう足掻いても目の前の敵には勝つ事など出来ないという事に他ならないからだ。


「何故、こんな事を」

『普段は人間相手に聖者として振舞っているからね。疲れるしストレスも溜まるんだ。魔界で発散する位許しておくれよ』

「ッ……」

『冒険者を一度上げてから落とし、絶望を愉しむんだ。その滑稽な姿を見る為のダンジョン。だからデスレル"シアター"という名をつけたのさ』


 またも嗤う。


『……ただ、こんな事が出来るのもこれが最後かな。何者かのせいで魔界に太陽が戻ってしまった。これでは魔族が人間界に侵攻しない』


 エディエルは一転して声を低くする。それはこの状況を作り出した"何者か"に対しての怒りが滲んでいた。

 神々とその眷属にとっての食事は生物の感情である。それは平時にあっては非常に起伏が少なくなり、だからこそ彼らは戦争を起こす様に両種族を仕向けたのだ。

 憎悪、そして絶望。戦時にはその感情がよく取れる。


 かつて、世界の壁が無かった時は神が手を出さずとも頻繁に種族間での諍いが起こっていた。だがある時、一人の魔女がそんな状況を打破しようと世界を二分する結界を作ったのだ。魔法を極め、何をしたのか神の鎖から逃れていた彼女の結界は神ですら破壊する事は出来なかった。

 そこで神々は魔界の天候を操作し、太陽が届かぬ死の大地とした。そして魔女を貶める為に"厄災の魔女"という名を流布し、彼女に憎悪を向け続ける様に仕向けた。

 また、大魔王に力を貸し、結界に穴を空けて人間界へと侵攻させた。人間がピンチになった所で今度はそちらに力を貸し、戦争を激化させた……


 そんな様に種族を操って戦争を起こし続けていたというのにこれでは台無しだ。神々は下界にそこまで影響を及ぼす事は出来ない。一度こうも環境を変えられてしまえば、もう一度変えるには莫大なエネルギーを消費する。

 ならばそれをやった下手人を操ってしまえばいい、そう考えたが何故か介入する所かその姿すら見る事が出来ない。まるで何かに守られているかの様に。


『……まあいいです。直接武力行使してしまえば関係ありませんから。さて、話はここら辺にしておきましょうか』

「ッ……やめろ」

『その眼にしっかりと焼き付けて下さいね。君の可愛いイリィちゃんが物言わぬ肉塊と化す瞬間を』

「やめろ……!!」


 彼の声は、しかしエディエルには全く届かない。

 彼は槍を振り上げる。達也は必死に藻掻くが痛みが増えるだけで拘束が解ける気配はない。


『さん……』


 エディエルを睨み付ける。激しい憎悪が彼の胸中に渦巻く。


『にい……』


 ぼう、何かが彼の心の中で燃える。


『いち……』


 そして、彼の"何か"が覚醒し───



『ぜ───くうっ!!?』


「───は?」


───ようとしたその瞬間、エディエルの顔と槍が爆発した。その衝撃に思わず彼は後ずさる。


『一体な』


 また爆発する。よく見ると、その直前に何かが飛来していた。

 達也は呆気に取られ、ただ茫然とその様子を見ていた。


『く……一体何者だ!!?』


 それはエディエルも認識していた様で、彼はそれが飛来した方向を睨み付ける。

 同時に達也もそちらを見る。


「はあ!? あれが効かないのかよ、ホントに生物なのか?」


「───え」



───瞬間、彼は自らの目を疑った。


「達也、遅れてすまん! 取り敢えず話はコイツを倒してからでいいか?」

「そんな、だって……」


 何しろ、そこに居たのは絶対にここに居る筈の無い人間。

 自分がよく知っている人間。


───櫻井夜空、その人だったのだから。

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