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『外れ職業だと馬鹿にされていましたが裏技を見つけたので虐めてきた奴らに復讐します』(前編)

「坊主! お前あの依頼受けたんか!?」

「ああ」

「やめとけやめとけ! これまでアレを受けて帰ってきた奴は居ねえンだ!」


 シーレント大陸南部にある町、カイエスバーグ。荒野にポツンとある湖に寄生するそこにてある言い争いが起きていた。いや、言い争いというのは間違いかもしれない。一人の男が、無謀なクエストに挑もうとする若き冒険者を引き留めているのだ。

 だが、その引き留められている冒険者───獣人の幼女を連れた白髪の青年はそんな忠告に構わず足を進める。


「おい、タツヤ! ……はあ、イリィも何とか言ってやってくれ」

「あるじはさいきょーなのです! だからしんぱいなんてしてないのです!」

「だああ!!」


 彼は獣人の幼女に助けを求めるが、彼女は自らの主人である青年を心から信用していたので全く効果は無かった。


「だ、そうだ。何故そこまで引き留める? お前には関係無いだろう」

「そんなんじゃねェよ! でもこんなに太陽が眩しいンだぞ、こんな時に知り合いに死なれちゃあ寝覚めがわりィよ!」

「太陽、か……」


 青年は空を見上げ、額にシワを寄せる。

 魔界の住人にとっては感涙で顔を濡らすしかない太陽の復活は、しかしほんの数週間前にここに来たばかりの彼にとっては何ら珍しい物ではなかったのだ。

 三日前、彼が長く潜っていたダンジョンから帰って来た時、雲は晴れていた。その時はこういう日もあるのか、と流していたものの、町の住人に聞くと"神の使いが山を大地に打ち込み、それによって雲が晴れた"というではないか。実際巨大な岩塊が空からゆっくりと落ちてくるのをその眼で見た者も居た。

 正直眉唾な話ではあるが、実際にこうして雲は晴れているのだし太陽が出ていたからといって困る事は大して無いのであまり気にしない様にした。

 だが。彼は太陽に対する感情が違った。魔族達は羨望を、そして彼は。


「太陽は……嫌いだ」


 誰にも聞こえない様な声でそう呟き、二人は町から出ていった。

 向かう先は少し離れた場所にあるダンジョン、"デスレルシアター"である。



 "デスレルシアターの探索"。それは長らくこのカイエスバーグにて出され続けていた所謂"塩漬け依頼"である。報酬はそれなりに高いものの、しかしこれまで15組ものパーティが挑み、誰一人として帰ってはこなかった。

 そんなクエストに彼が挑んだのはひとえに自らの実力への自信からである。


「イリィ、後ろの援護を頼む」

「はいなのです!」


 彼が前方を、イリィと呼ばれた幼女が背後を守りながらダンジョンを進む。

 彼の自信通り、実際ここまで二人は順調に進んでいた。道中で幾つもの死骸を見かけたが、彼らは一切の傷も負っていないのである。


「こんな奴ら……あの時に比べればなんてことはない」


 思い返すのは、かつて自分が殆ど生身同然で進む事になったダンジョンの事。


 彼は人間であった。今はとある理由から半人半魔になってしまっているが。

 彼はかつて人間界に居た。異世界からクラスごと召喚され、そこで虐められて最終的にはダンジョン内で罠に嵌められて殺されかけたのである。

 落とし穴に落ち、そこで待ち構えていたモンスターによって飲み込まれ、片足を食い千切られてしまう。だが、彼はそこでは終わらなかった。飲み込まれた体内で、一か八か自らの"スキル"である"接着"を使ったのである。

 何が起こったのか詳しい事は分からない。結果として彼はそのモンスターの力を自らに"接着"する事に成功し、体内から食い破って脱出に成功したのだ。

 その後、自らの足も接着しようとしたがその前に上に人がいる気配がした。もしもそれが自分を罠に嵌めた───安田などならば今度こそ殺されてしまうと恐怖した彼は身体を引き摺らせて何とかその場から離れようとした。その時に穴の横にある隠し通路を見つけたのだ。

 壁を壊し道を進む。振り返ると、ダンジョンに備わっている自己修復機能によって壁は元通りになっていた。


 そこからは地獄であった。

 道を進んだ先にあったのは未知の高難易度ダンジョン。そこを片足の状態で攻略しなければならなかったのだ。その時の彼に戻るという選択肢はなかった。彼は、殺されかけたという恐怖に駆られていたのだ。

 モンスターを倒し、その力を接着する。次第に彼の身体は魔族に近い物になっていった。失った足は棒を接着し、腹が減ればモンスターの肉を食べた。

 そして数週間後、彼は最深部のダンジョンボスであるアースドラゴンを倒す事にすら成功したのだ。そして輝いていた魔法陣に触れると、謎の神殿にテレポートされていた。そこは魔界であった。

 幸いにも彼の身体は魔族に近付いており、魔界の過酷な環境に適応するのにそう時間はかからなかった。


「たおしたのです!」

「よくやった」


 彼は喜ぶイリィの頭を撫でる。

 彼女を見つけたのは偶然だった。荒野を歩いているとモンスターに襲われて壊滅していた一団を見つけたのである。それは奴隷商人の物であり、唯一生き残っていたのが彼女であった。

 口減らし。魔界ではよくある事だ。多くの子供を養う余力のない親は時折子供を売り飛ばすのである。二束三文だろうが、自らで手に掛けるよりもどこかで生きていると思える方が罪悪感は少なくて済むのだ。

 そうして助けた彼女は彼を"あるじ"と呼んで慕う様になった。当初はクエストに行く時は別の者に預けていたのだが、それをやって抜け出し、モンスターに襲われて命の危機になった時からこうして連れていく様になった。自らの目が届く所に居た方が守り易いのだ。

 その彼女だが、彼の援護の下モンスターを倒していくうちにメキメキと力を伸ばしていった。どうやら彼女には才能があったらしく、齢5にしてそこらの冒険者なんぞは倒せる程度には成長している。子供というのは凄い物だ、彼はしみじみとそう思った。


「……」


 ふと、一人の少年の姿が脳裏によぎる。

 日本に居た時から、弱かった自分を度々助けてくれていた彼。あの日ダンジョンに潜ったのももっと強くなり、今度は彼を守る為だった。


───櫻井夜空。今、彼は何をしているのだろうか。


「……きっと、元気にしてるか」


 そう思わなければ彼は罪悪感で潰れてしまいそうだった。

 心の何処かでずっと考えてしまっていたのだ。"人間界から逃げた"と。実際その要素も含まれていて、結果自分は彼を見捨てた事になるのだ。戻れる機会など幾らでもあったというのに。


「あるじ? どうしたのです?」

「……なんでもない。行くぞ」

「はいなのです!」


 彼はそんな思考を振り払うと困惑するイリィの頭をポン、と撫でて再び歩き出す。

 目指すはダンジョン最深部───ダンジョンボスが居るルームだ。


 さて、そんな訳で一時間後、彼らはボスルームに辿り着く。そう深くない場所にそれはあった。

 そして入り、内部に居たボスである大型のサイクロプスと戦う。それなりに強い相手ではあったものの───


「こんなのにこれまで殺られてたのか?」


 サイクロプスの死骸である巨大な魔石を見ながら彼は呟く。

 そう、弱いのだ。魔界の冒険者は強者が多い。彼が無傷で倒せる程度のモンスターに対して十組ものパーティが殺されるとは思えなかったのだ。


「あるじがさいきょーなだけなのです!」

「まあ、それなら良いんだが……」


 嫌な予感が彼の胸中にへばりつく。


 果たして、彼の予感は当たる事となる。


「──ッ!!?」


──その瞬間、彼の胸に光の刃が突き刺さった。

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