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思わぬ再開(後編)

「なるほど、テレポートされたらこの村の入り口付近で倒れていた、と」

「ああ。村長が助けてくれなければ俺は必ず死んでいただろうな」

「食べられなくてよかったですね」

「全くだ」


 再会の動揺が収まった頃、俺達は座って情報交換を行っていた。お互いに聞きたい事は山ほどあるが、まずは先生がテレポートされた後の話である。

 さて、それにより彼は地球に帰された訳ではなく何故か魔界へと飛ばされていたという事が分かった。まあそれは彼がここに居るという事実が既に示していたのだが。


「あの時、先生に使われた魔法陣は俺達が召喚された場所にあった物と同じでした。そして、先生は帰された訳ではなくここに居る……」

「流石の記憶力だな。で、それがどうかしたのか?」

「かなり重要ですよ。つまり───聖女が使った魔法は、別の世界間を繋げる訳ではなく同じ世界の中で移動させているだけの物、という事になります」


 言うまでもなく、展開される魔法陣は使う魔法によって異なる。逆に言えば、展開された魔法陣が同じならばそれは同じ魔法だという訳だ。


「そして、それならば俺は魔法に頼らずに元の世界───地球に帰る事が出来るかもしれません」

「!? それは、本当か?」

「はい。先生は"スキル"を知ってますよね?」

「ああ。俺は"探究者"、どんな環境下でも生存出来る……その分ステータスの伸びは悪いがな」


 しれっと物凄いポテンシャルを秘めたスキルが飛び出してきたが、今はそれについて追及するよりも考えるべき事がある。


「俺のスキルは……」


 と、そこで一瞬口ごもる。

 "宇宙戦艦"。そんな代物の事を迂闊に流布していいのだろうか、それがまず1つ。そして───怖かった。それが1つ。

 急に頭がさめてしまったのだ。俺がこの世界でしてきた事は、到底許されるべき事ではないのかもしれなかった。

 クラスメイトに向けて発砲し、山を吹き飛ばし、禁書庫に強盗に入る。魔王城を破壊し、特に因縁も無い魔王やその部下に向けて発砲した。如何にこれまで残虐な事をされてきたとはいえ、この魔界の雲を晴らしたとはいえ、俺がやった事は明確な破壊行為だ。

 焦点がぶれる。冷や汗が流れ、呼吸が荒くなる。狂気に身を委ねられる時間が終わってしまった代償は大きかった。


「言いたくなければ言わなくていいんだぞ?」

「……」

「もしくは全て吐き出してしまえ。俺はお前達の担任で、一人の大人だ。この無駄にデカい身体で何でも幾らでも受け止めてやる」

 

 だが───


「……俺のスキルは───"宇宙戦艦"です」


───この人でなら。

 その後、俺は全てを話した。俺のスキルが宇宙戦艦を取り出せるという物である事、そして俺がこれまでこの世界でやってきた事。

 全て終わった後、彼は目を閉じていた。


「……櫻井」

「……はい」


 俺も目を閉じる。打ち明けると決めた時点で覚悟は決めていた。

 果たして浴びせられたのは身もよだつ程の怒声───などではなく。


「───すまなかった」

「すみま───え?」


───謝罪だった。


「このクラスに蔓延る歪みに気付いてやれなかった、俺の監督不行き届きだ。本当にすまなかった」

「そ、そんな、事」


 彼は頭を下げたまま続ける。


「確かにお前も許されない事をしたのかもしれない。器物破損に傷害……日本なら犯罪だ」

「ッ……」

「でもな」


 顔を上げ、俺の両目を見つめる。


「それ以上にお前は誇るべき事をした。魔界に太陽を取り戻し、飢える人々を救い、そして一人の"友"を救う為に努力した。十分じゃないか。もしお前が殺していたならば別だが───お前は殺さなかった」


 その言葉だけで、俺がこれまでやってきた事が報われた様な気がした。


「よく───頑張ったな」


───────


「俺、必ず達也を救います。で必ず地球に、日本に帰ります」

「ああ、お前ならやれる」


 ワシャワシャと頭を撫でられる。大きな掌の重みをずしりと感じ、そして彼に背を向けて荒野にコスモパンサーを出現させる。

 それを見た彼は目を丸くする。まあ当然だろう。普通の日本人である彼は戦闘機は見た事こそあれどここまで近くで見た事などないだろうし、ましてやこれの見た目はかなり未来的である。

 

「おお、これがか」

「はい。中々乗り心地良いですよ」

「気をつけろよ。事故ってのは慣れてきた頃が一番起こりやすいんだからな」


 そんな他愛の無い話をしつつ、俺とミズリはコックピットに乗り込む。

 結局、彼はここに残る事になった。人間界に送ると提案したのだが、まだこの村に恩を返しきれていないのだという。

 俺がクラスメイトの事を話した時、彼は歓喜と悲嘆の混じった表情を浮かべた。自らの教え子が無事に生きていた事への嬉しさと、その彼らがやった事への悲しみである。だからこそ、彼はこの村への貢献を終えた後に必ず彼らへ指導しに行くと約束した。


「ミズリさん、櫻井をどうかよろしくお願いします」

「?」


 彼が不意にそんな事を言い、彼女は表情を変えないもそこからは確かな困惑が感じられた。

 彼女の事も勿論話してあり、彼女が俺よりもずっと強い事も知っている。だからだろうか。

 それはそれとして何かむずがゆいのでやめて欲しいのだが。


「では先生、またいつか!」

「ああ、気張っていけよ!」


 コスモパンサーを離陸させ、彼がどんどん小さくなる。あっという間にその姿は見えなくなり、そして地上ですらも地図の様に抽象的な物に変わる。だが、俺の心はいつになく澄み渡っている。

 太陽が眩しい。だが、それ以上に吊り上がる頬が邪魔で視界が狭まっていた。


 こうして、俺の予想だにしない再会は幕を閉じる。

 そしてそれから二日後。


「来たか」

「ああ。準備は?」

「私を誰だと思っている。完璧だ……所で貴様、少し雰囲気が変わったか?」

「そうか?」


 魔王城、地下室。以前死者との会話で使ったのとは別のその部屋にはある人物───達也の捜索の為の魔法を発動させる為の仕掛けが施されている。

 床に刻まれた巨大な魔法陣。その中心には彼の日記が安置され、そこに向かって彼女がぶつぶつと詠唱らしき物を唱え始める。やがて部屋の中が淡く輝き始め、魔法の発動を感じさせる。


「……」

「ど、どうだ?」


 唱え終わり、彼女が完全に沈黙してから数十秒後。俺はそれに耐えられずに彼女へ話しかける。


「……分かった」

「!!」


 そして、返ってきた答えは俺が最も求めていた物だった。

 次に彼女の掌に小さな結晶が出現する。それはある方向へと一直線に光を放ち続けている。


「この光が指す方向に探し人は居る筈だ」

「───っぁ」


 その瞬間、俺は硬直した。思考は真っ白に塗り潰されて何も考えられなくなった。

 衝撃。俺がこれまで探し求めていた物がその先にある、手の届く場所にあるのだ。そう思うと途端に茫然自失してしまう。


「ど、どうした」

「……ああ、すまん。つい、な。ありがとうな、デルデオーラ」


 やがて、彼女の言葉で俺の硬直は解除される。俺は彼女から結晶を受け取り、礼を言った。


「……メイテルでいい」

「ん?」

「これからも何だかんだ長い付き合いになりそうだしな。それにデルデオーラという名は偉大なる大魔王の名だ、いつまでも呼び捨てで呼ばれるのは愉快ではない。これは餞別だ、持っていくといい」

「そ……うか。あ、ありがとう……これは?」


 彼女が差し出したのは1つの懐中時計。紅い金属で作られたそれは地球と同じ十二進数でカチ、カチと針を動かしている。


「それは"イストリアミーテ"という時計だ。持ち主が居る場所での時刻を示してくれる、厄災の魔女が残した魔道具だ」

「凄いな……ありがとな、メイテル」


 そう言うと、俺は彼女の手を握り、そしてこう思った。


───多分すぐに帰る事になるんだけどとてもじゃないけど言い出せる雰囲気じゃないな、と。


 さて、そうして達也の居場所をとうとう突き止めた俺はすぐさまコスモパンサーに乗り込み、結晶が指す方向へと機首を向ける。

 光は丁度南東の方向を指している。魔界には主に3つの大陸が存在し、魔王城のあるデルデオーラ大陸、そこの南西にあり、"世界の扉"とは正反対の"世界の壁"によって人間界と二分されたガルマリア大陸、そして"世界の扉"があるシーレント大陸である。

 方角的に今向かっているのはそこである。達也が人間界からテレポートしてきた神殿もそのシーレント大陸にあり、テレポートされた時期を考えるとそこに居るというのは筋が通っている。要するに、この情報は信憑性が高いという事だ。


「海が綺麗だな」


 今飛んでいるのはデルデオーラ大陸とシーレント大陸の間にあるプレファレンス海の上空である。

 魔界が雲に覆われていた時、海というのは黒紫色に濁り、各地に点在する毒の森から流れてくる毒素が集まる死の世界であった。だが、今は陽光が指し込み揺れる水面に光が反射してキラキラと輝いている。時が経てば植物が生え、それを食料とする海棲生物達が現れる事だろう。そうなればこの魔界も海の恩恵を受けられる様になるのだ。

 植物が増えれば毒素を分解する微生物も現れる。これまで海運でしか使われなかった海が、今度は塩と食料の供給源として使える様になるのである。革新といって差し支えなかった。


「あと1分でシーレント大陸上空です。方角に変化はありません」

「やっぱりシーレントに居るって事で間違いなさそうだな」


 胸中を昂らせながら飛ぶ。

 もうすぐ彼に会える、そう思うとニヤけずにはいられない。


「さあ、飛ばすぞっ!!」

「安全な飛行を心がけて下さい」


 背後から聞こえる野暮でテンプレートな機械音声を聞き流しつつ、俺は速度を上げる。

 結晶が指す場所はもうすぐだ。

高評価、ブックマークはモチベに繋がるのでよろしくお願いします

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