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さてこれからどうしよう

「はあ……」

「今日はお疲れ様、エリス」

「いえ……貴方も大して仕事の量は変わらないでしょう。琉人こそ早く寝た方がいいですよ、明日も早いのですから」


 場所は変わり、人間界、王都ハルメス。

 何も変わらない星が煌めく夜、魔石灯───魔石を使った光源で、高価───が照らすある部屋で、二人の男女が寛いでいた。"聖女"エリスフィーズと"勇者"如月琉人である。

 ダイラント山大爆発から二人は各地で民衆の動揺を鎮める為に駆り出されていた。今日も王都のあちらこちらで演説し、また明日は南部にある町に向かわなければならない。毅然とした姿を見せていなければならない為、ため息をつけるのも今くらいであった。


「これも全て奴───櫻井夜空のせいです。私は奴を許さない……!」

「う、うーん……」


 そして、自分達をこんな事にした元凶に対し憎悪に満ちた表情を浮かべる。そんな彼女の様子を見て、如月は少し困った様子になる。


「正直、今でも信じられないんだ。禁書庫の件は兎も角、山の爆発まで彼が起こしたなんて」

「しかしタイミングが余りにも良すぎます。奴がやったとしか思えない」

「魔力まで一切感じられなかったなんておかしいだろう? きっと因果関係が逆なんだ。入る為に爆発を起こしたんじゃなくて、爆発が起きたから入ったんだよ。うん、そうに違いない」


 彼は前回の邂逅で何もさせてもらえないまま腕を撃ち抜かれた事に深いショックを受けていた。

 それは、そんな少し考えれば違和感に気付く現実逃避をしてしまう程度には。火山でもない山があんな爆発の仕方をする筈がないのである。

 実際には彼を撃ったのは夜空ではなくミズリなのだが、今の彼にはそんな事は些細な事実であった。

 これまでの努力が、得た力が全て否定されたのだ。


「……まあ、いいでしょう。考えていても仕方がありません、今はとにかく休む事が最優先───」


 と、その時だった。


「───ッ!? 誰です!!」


 彼女が勢いよく顔を扉の方に向ける。その瞬間ガンガンと大きな音を立てて扉が叩かれる。


「聖女様、緊急事態です!!」

「何事ですか、こんな真夜中に……無礼にも程があります」


 騒々しくノックしたのは部下の男であった。聞き慣れたその声に、彼女は二人だけの時間を邪魔された事にやや苛立ちながらも警戒を解く。

 そして服装を整え扉を開く。報告に来たその彼は汗を垂らし息を切らしている。余程の事があったのだろう。


「し、失礼致しました」

「で、何があったのです」

「それが───魔王軍が、撤退しているのです。捕えられていた者達も僅かながら解放されています」


 その言葉は、二人の思考を停止させるには十分だった。


「……はい? 何か、大打撃でも与えたのですか? そんな報告は受けてはいませんが」

「いえ、本当に何の前触れもなく撤退を始めたのです。現在情報を収集中ですが……」

「魔王軍が、撤退……?」


 有り得ない、そんな感想しか出てこなかった。

 10年も戦っていれば彼らの目的くらいは判明している。魔界はこちらとは比べ物にならない程過酷な環境である。人間側は過去に何度か軍勢を率いて侵攻したが、結局耐えられずに撤退していた。魔界の深部に存在する魔王城の姿を見たのはかつて大魔王を打ち倒した勇者のみだ。

 だが、それは魔族にとっても同じであり、彼らとてその環境から逃れたく───つまり、移住する為に人間界へ侵略をしているだ。

 だからこそこの戦争は人間が滅びるか、魔族に許容出来ない程の損害を与えるかでしか終わらない───筈だった。


「……神殿に行きましょう。この様な場所で受ける報告ではありませんね」


「おいおい、何で急に起こされたんだよ。折角休んでたのによお」

「そんな事を気にしている場合ではないのです。事の進み方によっては我々の戦略が大きく変わる訳ですので」

「戦略ゥ?」


 正装である白と金の法衣を身に纏い、エリスフィーズと如月は神殿の一室にやってきていた。他には王国や教会の高官達、そして召喚者らが居る。

 寝ていた所を叩き起こされた皆は露骨に不機嫌であった。その中の一人───安田がエリスに突っかかるが彼女はやや雑にあしらっていた。


「状況は?」

「現在解放された者達の尋問を行っていますがあまり芳しくありません」


 魔族が人間を攫う理由はただ一つ、食べる為だ。その為殆どがその場で殺されてしまっており、魔界から戻った者などは極一部に限られる。


「……しかし、一度魔界に連れていかれたと主張する者が気になる事を言っておりました」

「気になる事?」

「はい……人間界へ輸送される最中、"山が空から落ちてくるのを見た"と……」

「山? それは、どういう事ですか……?」

「分かりません。本人はそれを繰り返すのみで……」


 彼女らは知らない、今魔界で何が起こっているのかを。

 まさかその言葉が比喩などではなく、本当に山程大きい岩塊が地面に突き刺されているなどと一体誰が予想出来るだろう。


「……とにかく尋問は続け、終わった後は"浄化"をしておいて下さい」

「かしこまりました」


 彼女が何の表情も変えずにさらりと言ったその言葉を召喚者達は聞き流す。その意味を彼らは理解していない。

 王都の神殿に古くから灯され続けている"聖火"、それで焼き殺す───魔族に攫われた者達は、その時点で死が決定していた。


「もし……奴が関わっているのだとしたら……」


 彼女のそんな呟きは会議の喧騒に溶けて消えていった。


───────


 "山"を設置し終わった翌日、俺は宇宙空間へとやってきていた。理由はズバリ、帰る方法を探す為である。

 達也探しは一旦休みだ。その理由は───


「探し人の居場所を探る魔法がある」

「そんな便利な代物があるのか」


 達也を探してほしい、それに了承したデルデオーラはその後にそう言った。


「それに必要な物は対象の身体の一部だ……あるか?」

「うーん……血液なら何とか用意出来る、一ヶ月前のでよければ、だが」


 俺はフロンティア・ホールの落とし穴に残っていた血痕を思い出す。

 それを聞いた彼女は渋い顔をする。流石に無理があるようだ。


「ならば、先日の冥界との通話を試みた時に使った日記を使う」

「それでもいいのか?」

「うむ。勝手が違う為に数日はかかる事になるがな───」


───と、いう訳である。

 結局三日後にまた来いと言われ、その間暇になってしまったのだ。

 これまで最重要課題としていた"達也捜索"に目途がつき、俺は一瞬何もやる事が無くなってしまった様に思えた。だが、ここで最も探さなければならない物がある事を思い出したのだ。

 それこそ、帰還方法である。


「どうだミズリ、分かりそうか?」

「適合率0.012%です」

「はあ、参ったなこりゃ……」


 宇宙空間に出て広がる星々の海を観測する。地球を見つける為であるのだが、如何せん成果は芳しくなかった。

 このイルミスがある星系───便宜上、イルミス星系と呼ぼう───から見える星図の形は地球から見えるそれとは全く異なっており、宇宙を飛べられれば何とかなるだろう、そんな俺の甘い考えはあっさりと打ち砕かれる事となった。


「やっぱり本当に異世界なのかなあ」


 それは俺が敢えて考えてこなかった可能性。だが、こと今となってはそれを本格的に考えなければならない段階に入っていた。

 イルミスとは単に地球とは別の場所にあるだけの惑星だ───その想定で動いていたのだが、どうやら方針を改めなければならないらしい。

 ミズーリには世界の中でワープする能力は備わっているが、世界と世界を渡る能力は無いのである。もしここが本当に違う"世界"なのならば───俺に打つ手は無い。

 そして、そうなると頼る物はいよいよ魔法しか無くなってしまう。しかし俺には魔法は使えず、使うとするならば他人の手を借りなければならない。


「取り返しのつかない事に魔法は使いたくないんだけどな……」


 例えば、達也を探す。これは取り返しがつく。見つかればよし、見つからなければ根気よく自力で探せばいいだけなのだ。

 だが、異世界転移。これは駄目だ。もしも失敗すれば───もしも悪意をもって掛けられたならば、俺には何も出来ないのだ。

 あるいは達也に掛けてもらうという手もある。今目指すべきはこれだろうか。


「となると、アレでも読むか」


 タイミングの良い事に、異世界転移の方法が載っていそうな物───禁書ならば今俺の手元にある。

 俺は倉庫に行き、保管されているそれらを読んでいった。


 結果から言えば、その行為は徒労に終わった。

 まあ当然ではある。俺が持ち込んだのは死者蘇生と関係のある物であり、それと転移などとは全くの別ジャンルなのだから。


「はァー……」


 ため息をつく。何だか疲れてしまった。

 ここが本当に異世界であるという事、帰還するには魔法に頼らなければならないという事。嫌だ嫌だと思っていた2つが一気に訪れ、考えるのが面倒になってしまったのだ。


「……先生、元気かな」


 松本先生。俺達がこの世界に転移してきた時に授業をしていた世界史の教師、そして俺達の担任で、転移した直後に聖女の手によって帰された───事になっている男。現状、俺の知る帰還者は彼だけだ。尤も本当に帰れたのかは疑問だが。

 禁書庫を襲撃した際、ミズリは空間航跡を探っていた。だが、あの瞬間の物は残っていなかった。流石に数カ月も経つと消えてしまうのだ───当時はそう考えていたが、もしかすれば世界間移動の物はまた別の種類であり探れなかった、という事実を示していたのかもしれない。

 さて。今俺がやれる事といえば再び禁書庫を襲撃する事くらいだ。恐らく警備は厳重になっているだろうが俺にとってはあまり関係ない。先日のスキルレベルアップによって自らの周りにシールドを展開出来る様になり、一層力ずくでの突破が容易になったのだから。


「……行くか」


 あまりにもあっさりとした大犯罪の決意の瞬間であった。

高評価、ブックマークはモチベに繋がるのでよろしくお願いします

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