8 朝食での会話
翌朝――
昨夜と変わらない朝食の風景。私の目の前では仲睦まじげに話をする父とイメルダ夫人にフィオナ。
三人こそ、本物の家族のように見え、私はその輪に入ることが出来ない。
早く朝食を食べ終えて学校に行きたい……そんなことを考えているとフィオナが話しかけてきた。
「ねぇ、レティシア。今日は学校へ行く日なのでしょう?」
「え? ええそうよ」
「何という学校なの?」
「『パレス』学園よ」
次の瞬間、フィオナの口から驚きの言葉が出てくる。
「『パレス』学園……それでは今着ている制服がそうなのね? 私も明日からその制服を着て登校するのね」
「え!?」
同じ学園に……そんな話は初耳だ。すると父が頷く。
「ああ、そうだ。レティシア、明日からフィオナも同じ学校に通うことになるからしっかり面倒を見てあげなさい」
まるきりの命令口調である。
「よろしく頼むわね? レティシア」
「はい、分かりました」
声をかけられたので返事をするとイメルダ夫人が私を見て笑みを浮かべている。けれど、その目は少しも笑っていない。
「転入するにあたって色々な手続きがあるからな。フィオナは今日のところは学校は休みだ。後でメイド長に屋敷の中を案内してもらうといい」
「はい、お父様」
素直に頷くフィオナ。
「あの、それでは食事が済んだので私は学校へ行ってきます」
登校する日はセブランが屋敷まで馬車で迎えに来てくれる。いつもならエントランスまで迎えに来てもらっていたけれども、そうするとイメルダ夫人やフィオナに遭遇してしまう可能性がある。なので今日は門の前で待っていることにしよう。
そう思った私は立ち上がった。
「レティシア、もう行くのか?」
すると父が声をかけてきた。
「はい、そうですが」
「まだセブランが来るには時間が早いだろう? 紅茶でも飲んで行きなさい」
あろうことか、父はセブランの名を口にした。途端にフィオナが反応する。
「まぁ、セブラン様が来るの?」
「セブランて誰かしら?」
イメルダ夫人が尋ねる。
「セブランはレティシアの幼馴染で、いつも一緒に登下校している少年だ。……そうだな、明日から一緒に登校することになるのだから、フィオナも今日のうちに彼に挨拶をしたほうが良いだろう」
「そうですね、お父様。私、セブラン様にご挨拶したいと思っていたのです」
「それでは私も母親として挨拶をしなければね」
三人とも私をそっちのけで話を勝手に進めている。このままでは……
「あ、あのセブランは……」
思い切って口を開きかけたその時、フットマンがダイニングルームに現れた。
「レティシア様、セブラン様がいらっしゃいました。エントランスでお待ちになっております」
「え? そうなの?」
そんな、もう来てしまったなんて……! いつもより十分は早い。
「本当? お待たせしてはいけないわ。行きましょうよ、レティシア」
「私も行くわ」
フィオナが立ち上がると、イメルダ夫人も立ち上がる。
「そうだな。三人で行くといい。私まで行けば彼が驚いてしまうかもしれないからな。レティシア、しっかり二人を紹介しなさい」
「はい……分かりました」
有無を言わさない父の言葉に、私は頷くしかなかった――