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<書籍、電子書籍発売中・コミカライズ連載中> ただ静かに消え去るつもりでした  作者: 結城芙由奈@コミカライズ連載中


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3 残された人々 イザークの場合 3

 十五時半――



 パーティー用スーツから制服に着替えた俺は中庭の門の前でヴィオラが来るのを待っていた。


「レティシア……もう船に乗ってしまっただろうな……」


町を行き交う人々を眺めていると、ヴィオラの声が聞こえてきた。


「イザーク!」


振り向くと、ドレスから制服に着替えたヴィオラがこちらへ向かって駆けてくる。


「ご、ごめんなさい……待った?」


息を切らせながら尋ねてくる彼女に首を振った。


「いや、大丈夫だ。ドレスから制服に着替えるのは時間もかかるだろうからな。それじゃ、行くか?」


「ええ、行きましょう」


頷くヴィオラ。

俺たちは辻馬車乗り場へ向かった。レティシアの足取りを追うために。




**


ガラガラと音を立てて走る馬車の中でヴィオラが不安そうに声を掛けてきた。


「レティシアの行方……掴めるかしら? あの港には世界中の船が集まってくるじゃない?」


「そうだな……だけど、これは俺の勘だが……あまり遠くへは行ってない気がするんだ」


「どうしてそう思うのよ?」


ヴィオラが首をかしげる。


「レティシアを乗せた御者に話を聞いたのだが、彼女は何も手荷物を持っていなかったらしい。……本当に遠くの国へ行くなら、何かしら荷物を持っていてもおかしくないんじゃないか?」


「言われてみれば確かにそうだけど……でも、事前に大掛かりな荷物を運んでいたんじゃないの?」


「それだったら、家の人達に見つかるだろう? あのフィオナのことだ。レティシアに何かおかしな動きがあればセブランに伝えていたと思う」


だが、これはあくまでも俺の勘でしかない。


「だとしたらいいけど……でもせめて何か僅かでも手がかりがあればいいのに……」


「手がかり……?」


そこで俺はレティシアと交わした会話の内容を思い出してみた。そう言えば、彼女は自転車に乗りたい理由を何と言っていた?


『……自転車に乗れれば……何処へでも好きなところへ行けそうだったから……』


「まさか、あのときからレティシアはこの地を去る覚悟を決めていたのか……?」


「何? イザーク。どういうことよ?」


ヴィオラが身を乗り出してきた。


「レティシアに自転車の乗り方を教えるとき、何故乗れるようになりたいのか尋ねたんだ。大体男だってまだ自転車に乗る者はそうそういないのに……ましてや女が乗るなんて……妙だと思ったんだよ」


「確かにそうよね。あのおとなしいレティからはちょっと想像がつかないわ。それで? レティは何と答えたの?」


「自転車に乗れれば、何処へでも好きなところへ行けるからと言っていた」


「え! そ、それって……」


「レティシアは、多分ここを去るために自転車に乗りたかったんだ……」


「そんな……! で、でも……レティがここを去っていったのは……絶対にセブランとフィオナのせいよ! あの二人、レティの前で堂々と仲良くして……!」


ヴィオラは両手を握りしめて震えている。


「俺はその言葉に驚いて、聞き返したんだ。そうしたら、今度は風を切って思い切り走りたかったからだって。だからどんなところを走ってみたいか尋ねたら教えてくれたよ」


「どんなところだったの?」


「コバルトブルーの海がとても綺麗な島がいいと言っていた。青い屋根に白い建物の町並みを走ってみたいそうだ」


「島? それに青い屋根に……白い建物……」


首を傾げるヴィオラ。


「それでだ、ヴィオラ。交易都市『リーフ』には所有しているいくつかの島があるのを知っているよな?」


「ええ。確かにあるわね」


「手荷物も持たずに、馬車に乗り込んで港に向かったのはレティシアの行き先がそれ程遠くは無いということだと……俺は思いたい。だいたい他の国へ行けば貨幣も違うから両替の必要があるだろう?」


俺はいつしか興奮気味に話していた。


「え、ええ……そうね」


「とりあえず近海を行き来する船着き場に行って、制服を着た女子学生の目撃情報を捜してみよう」


「分かったわ。イザークの言う通りにするわ」


ヴィオラは頷いた。


「……もうすぐ港が見えてくるな」


「そうね」


俺たちは馬車の窓に視線を移した。



レティシア……必ず君を見つけだす。


その時は、何故突然いなくなったか理由を教えてもらうからな――

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