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7 息詰まる食事

 その日の夕食は私にとっては一種、異様な光景だった。


お父様を中心に、私の向かい側にはイメルダ夫人とフィオナが席についている。そして三人は和やかなムードで会話をしながら食事をしているのだ。


「どうだ、イメルダ。この屋敷、気に入ってくれたか?」


ワインを飲みながら父は笑顔でイメルダ夫人に話しかけている。


「ええ、とても立派なお屋敷だし、使用人もいてくれて何かと世話を焼いてくれるから本当に快適だわ。ありがとう、あなた」


夫人も満面の笑みを浮かべている。


「いいや、礼には及ばんよ。何しろお前たちには今まで不自由な生活をさせてしまったからな……本当に申し訳なかった。フィオナは部屋は気に入ってくれたかい?」


父はフィオナに視線を向けると優しい声音で尋ねた。


「はい、お父様。とても気に入ったわ。ありがとう、私の好きなピンクでお部屋の色を揃えて下さって」


「いいのだよ、お前は私にとって大切な娘なのだから。当然のことさ」


大切な娘……


父の言葉に思わずフォークを持つ手が止まってしまう。私は一度でも父から笑顔を向けられて、『大切な娘』と言ってもらえたことがあっただろうか?

全身にまるで冷や水を浴びせられたかのような感覚に陥る。


すると、突然フィオナが私に話しかけてきた。


「どうしたの? レティシア。さっきから一言も話をしないで食事しているようだけど、気分でも悪いの?」


「い、いえ。大丈夫、気分は悪くないわ」


返事をすると、すかさず父が口を挟んできた。


「すまないね、フィオナ。レティシアは無口なのだよ。私とレティシアは普段あまり一緒に食事をしたことは無いが、大体いつもこんな感じなのだよ。だから気分を害することは無い」


「え……?」


あまりの父の言葉に、思わず言葉が漏れてしまう。


普段あまり一緒に食事をしたことが無い? 

いつも朝食と夕食は一緒にとっているのに、父は何故そのような嘘をつくのだろう。


気分を害することは無い? 

私の気分は……害しても平気なのですか……?


悲しい気持ちで父を見ると、一瞬険しい視線を向けられる。


「レティシア。気分が優れないなら部屋で休みなさい」


その言葉は、この部屋から出て行きなさいと遠回しに言っているのだろう。


「……分かりました。まだ課題も残っていますし……私はお先に失礼致します」


一礼して、席を立つとフィオナが慌てたように声を掛けてきた。


「え? 行ってしまうの? まだ美味しそうなデザートも残っているのに?」


皿の上にはシェフ特製のイチゴのムースが乗っている。けれど、私はもう何も口にする気になれなかった。


「ええ。いいの」


「そんな……勿体ないわ……」


フィオナは私と皿の上のムースを交互に見つめる。だから私は……


「もしよければ、フィオナ。あなたが食べてくれると嬉しいわ」


「本当に? ありがとう!」


無邪気に笑うフィオナ。彼女はきっと甘いお菓子が大好きなのだろう。


「それでは、お先に失礼致します」


改めて三人を見渡すと、イメルダ夫人が声を掛けてきた。


「明日の朝、また会いましょう」


「はい、分かりました」


返事をして父に視線を送るも、私とは視線を合わせようとしない。


心の中でためいきをつくと、私はダイニングルームを後にした――



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