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6 私の事情 ⑥

「あ……その人は私の幼馴染なの。名前はセブラン・マグワイアと言って、私達と同じ十六歳よ」


何とか平常心を保ちながらフィオナに教える。


「そうなの……セブランという名前なのね。ねぇ、もしかしてレティシアの恋人なの?」


「え? こ、恋人……?」


私の中ではセブランは幼馴染であり、ずっと恋心を抱いていた相手には違いない。彼の両親からも大人になったらお嫁においでと言われている。半ば口約束のようなものは出来上がっていた。

けれど、肝心のセブランからはまだはっきり『好き』という言葉は貰ったことが無い。


答えにつまっていると、フィオナが笑みを浮かべた。


「分かったわ、二人は婚約者同士だったのね?」


「ど、どうしてそう思うのかしら?」


「だって、写真を撮ってわざわざ写真立てに飾ってあるくらいなのですもの。でも良くお似合いの二人だと思うわ」


お似合いの二人……その言葉が少しだけ私に安心感を与えてくれる。


「ほ、本当に……そう思う?」


「ええ。勿論よ。でも羨ましいわ。私にはまだそういうお相手の人がいないから」


ため息をつきながら天井を見上げるフィオナ。彼女はこんなに可愛らしいのに……どうしてなのだろう?

少しだけ、尋ねてみたくなった。


「どうしてフィオナにはまだ決まったお相手の男性がいないの? 貴女はとても可愛らしいのに」


すると、予想もしていなかった台詞がフィオナの口から飛び出してきた。


「それは簡単なことよ。私は世間からは妾の子って言われていたから」


「え?」


その言葉にドキリとする。


「私にはちゃんと立派なお父様がいるのに、一緒に暮らしていないからって理由だけで世間から妾の子供って言われて蔑まれてきたの。勿論お母様もそうよ。卑しい妾の女と言われて、風当たりも強かったわ。でも、お父様は仰ったの。『お前は妾の子供では無いし、お母さんも妾ではない。堂々と振舞いなさいって」


「そ、そうなのね……」


ズキズキと痛む胸をおさえながら頷くも、うまい言葉が浮かんでこない。


「だからこのお屋敷に呼ばれた時には本当に嬉しかったわ。やっとお父様とお母様。そして半分血のつながった姉と家族四人で暮らせることができるのだから。というわけでレティシア。これからどうか仲良くしてね?」


全く邪気の無い笑顔で私に手を差し伸べて来るフィオナ。


そんな彼女を見ていると、何故か私の方が罪悪感が込み上げてくる。

確かに私の母はお父様の正式な妻ではあったけれども、政略結婚で強引にお父様と結婚したようなもの。


一方のイメルダ夫人は準男爵という低い身分の出身だったゆえに、お父様と恋人同士だったにも関わらず、結婚することができなかった。

けれどもお父様はイメルダ夫人の為に一軒家を買い……フィオナという娘までもうけている。


ふたりはお母様がいたので、この屋敷にあがることが今まで出来ずに肩身の狭い思いをしてきたのだ。


彼女達を世間から後ろ指さされるような立場に追いやってしまったのは私とお母様のせいなのかもしれない。


お父様の言葉が脳裏に蘇ってくる。


『例え半分しか血が繋がっていなくとも二人は紛れもない姉妹だ。親切にしてあげなさい』


あの言葉は、きっとこのことを意味していたのだ。私とお母様が今までイメルダ夫人とフィオナの幸せを奪っていたのだろうか?


だとしたら私は……


「ええ、こちらこそ仲良くしてね?」


笑みを浮かべて、フィオナの差し出す手を握りしめた。


私はこれから先、フィオナを優先してあげなければならないのだ――

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