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<書籍、電子書籍発売中・コミカライズ連載中> ただ静かに消え去るつもりでした  作者: 結城芙由奈@コミカライズ連載中


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4章 1 新天地、到着

 交易都市『リーフ』の港を出港して約六時間―



「あれが……『アネモネ』島。私の新天地になるのね」


デッキに立っていた私は感慨深い思いで島を見つめた。


空はオレンジ色と紫色の美しいコントラストに染まり、島の特徴である白い建物を紫色に染め上げている。建物の窓から洩れるオレンジ色の光は部屋の灯りだろう。


その光景はとても神秘的だった。


「なんて、美しい景色なの……世界は……こんなに美しい景色があったのね。あのまま屋敷で暮らしていたら、決して見ることが出来なかったわ」


今の私は新天地で暮らす事への不安感など忘れ、島の美しい景色にすっかり魅了されていた。



ボーッ……



蒸気船は汽笛を鳴らしながら、島へとゆっくり近づいていくのだった――




****



 船が島に到着し、乗船客たちは次々と下船していく。私も人混みに紛れながらタラップを進み、はじめて『アネモネ』島へ降り立った。


懐中時計をとりだし、時刻を確認すると十八時四十分を指していた。太陽はそろそろ沈む時間で、周囲はだんだん薄暗くなってきている。


「今からではおじい様とおばあ様のもとを訪ねることは出来ないわね」


もともと今夜は島のホテルに宿泊する予定だった。けれど、その前に私にはするべきことがある。


「まずは今必要な荷物を取りに行かなくちゃ」


そして私は港に立ち並ぶコンテナターミナルへ向かった。



**


「はい、どうぞ。こちらの鍵がお客様の御利用されているコンテナの鍵になります。色はピンク色のコンテナなので、すぐに分かると思います」


係員の男性から鍵を受け取った。


「どうもありがとうございます」


「契約期間は一カ月となっておりますが、延長される場合はまたお申しつけ下さい」


「はい、分かりました」


私はすぐに自分のコンテナへ足を向けた。




「これが私の借りているコンテナね」


ピンク色のコンテナの背丈は、私の身長より少し高い。広さは自転車が入っていても、まだ少し余る程度の大きさだった。

とりあえず、当面必要なキャリーケースをコンテナから引き出すと、再び鍵を掛けた。


「港の近くでホテルが無いか探してみましょう」


そして大きなキャリーケースをガラガラと引っ張りながら、ガス灯に照らされた町中を歩き始めたのだった。



 

 今は観光シーズンに入ったばかりということで空いているホテルがなかなか見つからなかった。

四件目でようやく空いている部屋が見つかり、私は何とか今夜泊まる場所を確保することが出来た。



「ではごゆっくりどうぞ」


フロントで女性スタッフからルームキーを受け取る。


「どうもありがとうございます」


お礼を述べると、私はキャリーケースを引きずりながら部屋へと向かった。


私の部屋は二階の二〇三号室だった。扉を開けて室内に入ると、目の前には大きな窓から見える『アネモネ』島の美しい町並みと紺碧に染まる海が飛び込んできた。


「まぁ……! なんて素敵なの……!」


扉を締めて窓に駆け寄ると、大きく開け放した。すると途端に潮風と波の音が聞こえてくる。

空を見上げれば満天の星空が美しい輝きを放っている。


「まるで夢のような世界だわ……」


ふと時間が気になり、懐中時計を確認すると時刻は十九時半を指している。


「……今頃はもう、パーティーも終わったでしょうね」


ヴィオラは私がいなくなったことにすぐに気づいただろう。けれど、私の行先を彼女は知る由もない。


黙っていなくなったことに怒っているだろうか? 

イザークは、結局私に何を言いたかったのだろう?


「ごめんなさい……ヴィオラ。住むところが決まって、落ち着いたら必ず貴女に手紙を書くから許してね」


そして……お父様。


私はあの屋敷を出るつもりだったので大学に進学する気は毛頭無かった。けれどそのことを事前に父に知られるわけにはいかなかった。

だから入学手続きの書類を提出はしたものの、本日付で進学取り下げを申請した書類が学園側に届くように手続きをしておいたのだ。


きっと学園側から父に連絡が届くだろう。そして私がいなくなったことにも気づくことになる。


「でも父は私に無関心だから、気に止めることもないかもしれないわね」


そう……父はあの家に夫人とフィオナだけがいればいいのだから。


それに夫人は私を目の敵にしているし、フィオナだって私がいなくなればセブランの婚約者になれるかもしれない。


「セブラン……私がいなくなって、少しは悲しんでくれるかしら?」


一瞬セブランのことが脳裏に浮かび、消えていく。

けれど多分、それはないだろう。彼の心は……もう私には無いのだから。


そのとき、冷たい潮風が部屋の中に流れ込んできた。


「少し冷えてきたわね……」


窓を閉じ、カーテンを引くとキャリーケースから荷物を取り出し、鼻歌をうたいながら整理を始めた。


私が突然消え去ったために、今頃残された人々の間で大騒ぎが起きているなど思いもせずに――

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― 新着の感想 ―
家出した本人て、意外とのんきだったりするよね。 (2回目なので、安心して読める!1回目はあわわわオロオロでした。)
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