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<書籍、電子書籍発売中・コミカライズ連載中> ただ静かに消え去るつもりでした  作者: 結城芙由奈@コミカライズ連載中


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17 さよなら……皆

「お客様、港に到着致しました」


その声にハッとなり、私は目を開けた。すると、扉を開けた初老の男性御者が私をじっと見つめている。


「あ……すみません。眠っていたようです」


「いえ、それは気にしないで下さい。かえって眠っているところを起こしてしまって申し訳ありません」


「あの、それでおいくらになりますか?」


「はい、500リンになります」


お金を支払い、馬車を降りると交易都市『リーフ』の港が目に飛び込んできた。

多くの人々や荷物が忙しそうに行き交い、港には何隻もの蒸気船が出港の時を待って停泊している。


「すごいわ……」


私は今まで一度も旅行に『リーフ』から出たことは無かった。

狂気に駆られた母。家族を顧みない父……このような関係で家族旅行などとうてい出来るはずは無かったからだ。


生まれて初めて見た港の光景に圧巻されながら私は『アネモネ』行きの蒸気船を探した。




「あった、これだわ」


蒸気を吹き上げながら停泊している船は真っ白の船体で、青い空に良く映えてとても美しかった。


「この船が……『アネモネ』島に行くのね」


蒸気船を見るのも生まれて初めてだった。今の私は生まれ育った『リーフ』を去る寂しさや、新天地での新しい生活に対する不安よりも好奇心が勝っていた。


「もうすぐ出港の時間ね」


懐中時計を見ると時刻は正午を過ぎた頃だった。初めて船に乗るので船酔いをしないようにミントの葉も用意してある。準備は万端だった。


島に着くまでは約六時間の旅になると聞いている。卒業パーティーが終わるのは午後7時。このパーティーには、分校の卒業生も参加するパーティーなので総勢七百名程の人々が集まる一大イベント。

私の姿がたとえ見つからなくても恐らくすぐに騒ぎにはならないだろう。それに秘策があった。

あの方法がうまくいくといいのだけど……


「そろそろ乗りましょう」


私はギュッと両手を握りしめると、タラップを登って蒸気船に乗り込んだ――




****


ボーッ……


船の出港時間がやってきた。


私はデッキに立ち、港を見下ろすしていた。私の他にも大勢の乗船客たちがデッキに立ち、見送りに来ている人々に手を振っている。


ここに立つ人の中では手を振っていないお客は私だけ。そう思うと、寂しさが込み上げてきた。

誰にも行き先を告げずに来たのに、今この場に見送りの人が誰もいないという事実に切ない気持ちが込み上げてくる。


「駄目ね。今からこんな気持になっては」


私があの屋敷にいると、セブランとフィオナが結ばれることは無い。私は邪魔者……居ない方が良いのだ。

だから、ここを去ると決めたのだから。


ボーッ……


汽笛が再度、港に大きく響き渡り……ゆっくり船は動き始めた。


私は見送りが誰もいないにも関わらず、大きく右手を振った。



さようなら、皆。


ヴィオラ……勝手に消えてごめんなさい。

イザーク……話を聞いてあげられなくてごめんなさい。


セブラン、フィオナと幸せになってね。


「お父様……どうか……お元気で……!」


私は大きな声で手を振った。



そして、私を乗せた船は『アネモネ』島へ向かって大海原へ出港した――





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