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5 私の事情 ⑤

 私は父に命じられるまま、フィオナを部屋に案内していた。


「ここが今日から私の部屋になるのね? とっても素敵だわ。広くて日当たりも良いし……まぁ、なんて素敵なドレッサーなのかしら」


フィオナは真っ白なドレッサーに駆け寄ると、鏡の中の自分に笑いかけた。


「そう? 気に入ってもらえてよかったわ」


無邪気な笑顔で部屋の様子を見て回るフィオナに複雑な気持ちで見つめていた。

早くひとりになりたい……そう思った私はフィオナに声を掛けた。


「それではフィオナ、私はもう行くわね。今夜は四人で夕食会を開くそうだから、それまでゆっくり休んで頂戴」


「え? もう行ってしまうの? やっと姉妹が出会えたのだから色々お話がしたいのに」


カウチソファに座り、クッションを抱きしめたフィオナが首を傾げる。もし、男性が今の彼女の姿を見れば恐らく庇護欲を掻き立てられるに違いない。


「え、ええ……まだ学校の課題が残っているから……」


「そうだわ! ねぇ、レティシア。貴女の部屋はどこにあるの?」


フィオナは私の話を聞いているのか、いないのか部屋の場所を尋ねてきた。


「私の部屋は……貴女の隣よ」


本当ならフィオナが隣の部屋に来るのは気持ち的にいやだった。けれど、もともと私の隣の部屋は空き部屋だったし、父は姉妹なのだから部屋は隣接するほうが良いだろうと言って、強引に隣を彼女の部屋にしてしまったのだ。


しかし、既に父は私に内緒で部屋を用意しておいたのだろう。何しろ既に室内にはいつでも暮らせるように、必要な家具類は全て揃えられていたからだ。


父は……イメルダ夫人とフィオナをこの屋敷に呼ぶギリギリまで隠していたのだ。


その時のことを思い出し、唇を噛みしめるとフィオナが声を掛けてきた。


「どうしたの? レティシア」


「い、いえ。何でも無いわ」


「それじゃ、早速貴女の部屋に行きましょう。大丈夫、安心して。勉強の邪魔はしないから。……ね? いいでしょう?」


「フィオナ……」


まるでおねだりするような態度。ここで私が拒絶しようものなら、きっとフィオナは父とイメルダ夫人に話してしまうだろう。……例え、本人に悪気がなかったとしても。


「ええ、いいわ。それでは私の部屋に行きましょう」


「ありがとう! レティシア!」


こうして私はフィオナを自分の部屋に連れて行くことにした。




「まぁ……ここがレティシアのお部屋なのね? レティシアはもしかして水色が好きなの?」


私の部屋は水色で統一されていた。

カーテンやカーペット、ベッドカバーまでもが水色だった。


「ええ、水色は落ち着く色だから好きなの。それじゃ、ごめんなさい。課題を終わらせなければならないから、フィオナは適当に過ごしていてちょうだい」


まさか追い出すわけにもいかず、フィオナに声をかけると早速私はライティングデスクに向かった。


今朝は突然父から、フィオナ達がやってくるという話を聞かされて課題どころでは無かった。

明日提出しなければならない古典文学のレポートが残っていたので、ペンを走らせていると、背後でフィオナの声が聞こえた。


「ねぇ! レティシア! この人誰? とっても素敵な人ね!」


「え?」


振り向くと、フィオナはセブランの写真が入った写真立てを見つめている。


「フィオナ……」


このとき、私の胸に不安な気持ちがこみ上げてきたのは……言うまでも無かった――

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