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<書籍、電子書籍発売中・コミカライズ連載中> ただ静かに消え去るつもりでした  作者: 結城芙由奈@コミカライズ連載中


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11 父と二人だけの外出

 翌日も学校は休みだった。


朝食後、父の仕事の手伝いをする為に書斎ヘ向かった。


――コンコン


『入りなさい』


扉をノックすると父の声が聞こえる。


「失礼します」


部屋に入ると父は書類から目を上げ、立ち上がった。


「出かけるぞ」


「え? で、出かける……? どちらへですか?」


「町に自転車を買いに行こう」


「え! 今からですか?」


「そうだ、早いほうが良いだろう」


「ですが、お仕事は……」


「たまには良いだろう。では早速行くぞ」


「は、はい」


こうして私は突然父と二人で外出することになった。それは学校の入学式以来の出来事だった……




****



 戸惑いながら父と二人でエントランスに向かって歩いていると、背後から声を掛けられた。その声はイメルダ夫人だ。


「あら? あなた。レティシアと何処かへ出かけるのですか?」


「ああ、町に買い物にな」


立ち止まり、振り返ると父は返事をする。


「それなら少し、待っていてくださらない? 私とフィオナも準備をしてまいりますから」


え……? 夫人とフィオナも一緒に……?

昨日のガゼボでの件もあるのに、一緒に出かけるのは気乗りしなかった。


「いや、今日はレティシアと二人だけで出かける。遠慮してくれ」


「お父様……」


驚いたことに、父は予想に反して夫人からの申し出を断った。


「な、何ですって? 私達は一緒に行ってはいけないのですか?」


夫人は目を見開き……、一瞬、強い視線で私を見る。


「ああ、今日はレティシアと二人だけで出かけると決めているからな。行くぞ、レティシア」


父はそれだけ言うと、再び歩き始めた。


「は、はい!」


慌てて父の後を追い、背後を振り向くと……婦人はスカートを握りしめて私を睨みつけていた――



****



「あの……お父様。本当によろしかったのですか?」


ガラガラと走り続ける馬車の中、向かいの席に座る父にためらいがちに尋ねた。


「ああ、勿論だ」


「ですが……気を悪くさせてしまったのではないでしょうか?」


「別にお前が気にすることはない。それとも一緒に出かけたかったのか?」


「い、いえ……別に……」


何と答えればよいか分からず、曖昧に返事をした。


「なら構うことは無い」


「はい」


でも、あのとき夫人は私を見て睨んでいた。きっと私が父と二人だけで外出したことはフィオナの耳に入るに違いない。

きっと後で何か言われてしまうだろう……けれど、その話は流石に父には言えなかった。


思わずスカートをギュッと握りしめたとき。


「昨日、セブランから婚約の申し入れがあっただろう?」


「はい、紫のバラと一緒に申し込まれました」


「紫のバラか……」


父は何故か私をじっと見つめる。


「だんだんお前も初めて出会った頃のルクレチアに似てきたな」


「え……?」


まさか父の口から母の話が出るとは思わなかった。


「レティシア、それで卒業後の進路はどうするのだ?」


ついに父から話が出た。そこで私は以前から考えていた台詞を口にする。


「はい、上の大学に進学します。私ももう成人年齢に達したので、手続きは全て自分で行うので大丈夫です」


けれど、私は進学届を提出するつもりはない。


「そうか、自分でやるのだな。それもいいだろう」


そこまで話をした時、馬車が停車した。


「旦那様、お店に到着いたしました」


男性御者が扉を開けると、父はすぐに馬車を降りると右手を差し出してきた。


「あの……?」


戸惑っていると父が言う。


「降りないのか?」


「い、いえ。降ります」


まさか父にエスコートしてもらえるとは思いもしていなかった。

父の手を借りて馬車を降りると、店先にずらりと自転車が並べられている。


「この店ならお前の気に入った自転車があるだろう。好きなのを選ぶといい」


「はい」


そして私は一台の自転車を選んだ。

その自転車は籐製の前カゴに、赤い色の婦人用自転車だった。


「この自転車がいいのか?」


「はい、とても気に入りました」


この赤い自転車……『アネモネ』島の白い町並みにとても良く映えそうだった。


私は今からこの自転車に乗って町を走る自分の姿を想像し……希望に胸を高鳴らせるのだった――

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― 新着の感想 ―
[一言] 貴族階級があり電気もあるだが馬車もあるし自転車も存在してるなかなか珍しい世界感
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