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22話 通じる思い

「レティ……」


レオナルドがじっと私を見つめてくる。


「は、はい」


ドキドキしながら返事をする。それなのに、レオナルドの口からは予想外な言葉が飛び出してきた。


「ありがとう。レティなら、そう言ってくれると思っていた。最初から養子の俺を本当の兄のように慕ってくれていたしな」


「え……?」


「今だって、俺が気持ちを告げても変わらず受け入れてくれようとしているし……ありがとう。その気持、嬉しいよ」


もしかしてレオナルドは、私の「好き」という言葉を「人」として好きだという意味で捉えているのだろうか?


でも勘違いされてしまうのは無理もない。

私はレオナルドの前でシオンさんに対する好意を顕にしていたのだから。

今だって……きっと、そう思っているに違いない。


でも、私はシオンさんへの恋心を捨てた。

レオナルドは傷ついた私に寄り添ってくれた。彼の傍にいるのは居心地が良かった。


だから今、ここから去ろうとしているレオナルドを私は必死で引き止めているのだ。

ずっと傍にいて欲しい存在だと気付いてしまったから……。


「大丈夫だ。さっきも話したとおり、レティが俺の仕事を覚えるまではグレンジャー家を出ることはない。でも祖父の体調が良くなったら、いずれここを出ることは告げておくよ。色々準備もいるだろうし、それに当主の座をレティに譲る手続きもしないとならないしな」


自分がここから去る準備を淡々と語るレオナルド。

もう、これ以上聞いていることも辛かった。レオナルドがここから去ろうとしているなんて、耐えられなかった。


「違います……そうじゃ、ないんです……」


「何が違うんだ?」


首を傾げるレオナルド。


「私が好きだと言ったのは……人としてではなく、1人の男の人としてレオナルド様が好きですと言ったのです!」


レオナルドの顔に驚きの表情が浮かぶ。


「え……? だが、レティはシオンのことが好きだったんじゃないのか……?」


「確かに私はシオンさんのことが好きでした……でも多分今にして思えば、憧れの存在だったのだと思います……。植物の知識が豊富で、母の死の原因を突き止めてくれたシオンさんが私にとって、眩しい存在でした。シオンさんが、婚約をして大学を辞めてしまったことを知ったとき、悲しくてたまりませんでした……」


いつしか再び私の目に涙が浮かぶ。


「でもレオナルド様が、グレンジャー家を……アネモネ島を去るつもりだなんて……そ、そんなこと耐えられません! どこにも行かないで下さい……兄としてではありません。1人の男の人として、レオナルド様のことが……好きです……。ずっと、側にいて頂けませんか?」


涙ぐみながら、私はレオナルドに訴えた。

すると何故か、レオナルドの顔が一瞬泣きそうに歪んだ次の瞬間。


「レティ!」


突然レオナルドの腕が伸びてきて、気づけば強く抱きしめられていた。


「レティ……今の言葉、本当なのか……?」


レオナルドが私の髪に顔を埋めてきた。


「はい……本当です。嘘なんかじゃありません」


背中に腕を回すと、抱擁が強まった。


「なら……俺は、ずっとここに……グレンジャー家にいても……いいのか?」


レオナルドの声がくぐもって聞こえる。


「はい、そうです。ずっといてくださいますか?」


するとレオナルドは少しだけ身体を離すと、私を見下ろしてきた。


「もう一度、言わせてくれ。俺はレティのことが好きだ。……本当の家族になりたいと思っている。俺と……婚約……してもらえないか……?」


レオナルドの目は真剣だった。

その問いかけに、もう迷うことは一つも無かった。


「はい、レオナルド様」


目に涙を浮かべながら、大きく頷く。すると、レオナルドは優しい笑みを浮かべて私の涙をそっとぬぐい、そのまま顔を近づけてきた。


胸の高鳴りを抑えながらも、目を閉じるとレオナルドの唇が触れてくる。


この日……私は生まれて初めてのキスを、レオナルドと交わした――




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― 新着の感想 ―
憧れって感情って難しいんですよね…特にレティシアの場合は自分が好きな分野で、さらに昔から強いられてきた境遇や母親の死に関するものを全て解決してくれた人だったわけで。恋愛面でも自信が地の底に落ちた彼女の…
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