9 レオナルド・グレンジャーの事情 ⑨
この日、レティシアはグレンジャー家に一泊した。
折角来たのだから、連泊するだろうと思っていたのに引っ越ししたばかりで買い揃えたいものがあるから帰ると言い出したのだ。
当然、この話に祖父母が落胆したのは言うまでもない。けれど、レティシアの意思は固い。そこで俺が買い物に付き合おうと言い出したところ、祖父母までが自分たちがついていくと言い始めた。そしてその様子を困り顔で見つめるレティシア。
そこで、俺にある考えが浮かんだ。
レティシアだって一人でゆっくり買い物がしたいはずだと祖父母に言った。こうすればきっと買い物に付き合おうのをやめるはずだろう。
すると案の定2人は納得し、俺はレティシアを送るために彼女と2人で馬車に乗り込んだ。
ついでに一緒に買い物に付き合おう。何しろ、レティシアはこの島に到着したばかりで不慣れだ。ついでに島の観光もしてあげようと考えていた。
だが、それは自分に対する言い訳だったのかもしれない。
俺自身が、もっとレティシアと親しくなりたいと考えていた。何しろ、俺たちは同じ養子同士なのだから。
レティシアも俺の提案を受け入れてくれた。
そこで、まずはレティシアがレターセットを欲しがっていたので2人で土産物店に行き……思いがけない出来事が起きた。
レティシアを捜しに、2人の友人に出くわしたのだ。そしてレティシアが何故カルディナ家を出たのか、その理由を知ることになる――
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それぞれお互いの話をするために、3人を近くの喫茶店に連れてきた。
俺は部外者なので、聞き手に徹するつもりでいたのだ。
そこで初めてレティシアが卒業式の日に、皆に黙ってこの島にやってきたことを知った。
まさか、大人しそうなレティシアがそんな大胆な行動を取っていたとは思いもしなかった。一体、レティシアに何があったのだろう?
そのとき、先程から俺をチラチラ見ていた青年からある話が飛び出した。
「やっぱり、レティシアがここに来たのはセブランとフィオナが原因だったのか?」
セブラン? フィオナ……? この2人がレティシアに何かしたのだろうか? 黙って話を聞いていようと思っていたが、気づけば口を挟んでいた。
「レティシア、セブランとフィオナというのは誰だい?」
と――。
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――21時
俺はリビングで祖父母と話をしていた。
「それにしても、フランクは一体何をやっていたのだ……! 愛人を邸宅に引き入れ、しかも娘までいたとは……!」
祖父は怒りを顕にしている。
「それだけじゃないわ。まさかレティシアの婚約者が異母妹に心を奪われてしまうなんて……それでレティシアは、あの家を出てきたのでしょう? 可哀想過ぎるわ」
祖母がため息をつく。
「ええ、本当に……酷い話ですね」
そしてふと、イザークの姿が脳裏に浮かぶ、ひょっとすると彼はレティシアのことが好きなのかも知れない。それで行方を捜すためにここまで来たのだろう。
「そう言えば……レティシアは今どうしているだろう?」
祖父が首を傾げる。
「お友だちと一緒にいるのじゃないかしら?」
「部屋かもしれませんね。様子を見てきます」
そして俺はレティシアの部屋に向かった。
レティシアの部屋の前に辿りつくと、早速ノックした。
――コンコン
「レティシア、俺だ。レオナルドだ。少し話がしたいのだが」
けれど、いくら待っても何の反応もない。試しに数回、ノックをしてみてもやはり扉が開かれることはなかった。
「いないようだな……」
一体何処に行ってしまったのだろう?
そこでレティシアを捜して歩いていると、廊下に佇むヴィオラに偶然会った。
そして、ヴィオラに聞かれた。
「あの……レオナルド様にとって、レティは……どんな存在……ですか?」
そこで、レティシアは自分にとって妹のような存在だと答えた。
この頃の俺は、純粋にレティシアを妹のように思っていたのだ――。




