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22 気乗りしないお願い

 翌朝――


 今朝も私を除いた三人は楽しそうに談笑しながら食事をしている。そして私は当然その会話に入ることは出来ない。その上、時折刺すような瞳でこちらを見つめてくるイメルダ夫人。私にとって、家族団らんの食事は今や苦痛の時間になっていた。


 当然食欲だって落ちてしまう。テーブルの前にはまだ料理が残っていたけれども、とてもではないがこれ以上食べられそうに無かった。


「……」


フォークを置くと、フィオナが私に気づいたのか声を掛けてきた。


「あら? どうしたの? レティ、もう食べないの?」


「え、ええ。もうお腹がいっぱいで」


「でも……半分以上残っているじゃない」


するとイメルダ夫人が声を掛けてきた。


「レティシア、こんなに美味しい料理を残すなんて贅沢だと思わないの? ね、あなたもそう思わない?」


夫人は父に同意を求めてきた。きっとまた、叱責されるに違いない。

私は覚悟を決めた。

けれど、父の口から出たのは意外な言葉だった。


「まぁ……食欲が湧かないのなら仕方ないだろう。まだ登校するまでに時間がある。もういいから、部屋に戻っていなさい」


「お父様……」


まさか、退席することを許されるとは思わなかった。


「どうした? 部屋に戻らないのか?」


相変わらず感情の伴わない言い方では会ったけれども、今の私に取ってこの言葉はありがたかった。


「すみません、それではお先に失礼します」


席を立つと、フィオナが尋ねてきた。


「ねぇ、学校には行けるわよね?」


「ええ、もちろん行くわ」


「良かった。ならまた後でね」


「ええ。また」


そして私は部屋に戻った。



****


――八時


そろそろセブランが迎えに来る時間だったので部屋を出ると、エントランスへ向かった。

扉を開けて外に出ると既にセブランは到着しており、フィオナと親しげに話をしている。二人とも私が出てきたことにまだ気づいていない。


「セブラン……」


セブランとフィオナが笑顔で話し合っている姿を見て、私の胸は苦しくなってきた。声をかけるタイミングを失っていると、セブランが私に気づいて手を振った。


「あ! おはよう、レティ」


「おはよう、セブラン。遅くなってごめんなさい」


「いいよ、いつもより少し早く着いただけだから気にしないで」


笑顔で話しかけてくれるセブラン。そう、彼は優しい人だから誰にでも笑顔を向けてくれるのだ。

だからフィオナとセブランのことは……気にしてはいけない。

無理に自分にそう、言い聞かせる。


「それじゃ、レティも来たことだし、行きましょうよ」


フィオナがさり気なくセブランの腕に触れる。


「うん、そうだね、行こうか。二人とも、乗って」


「は〜い」

「ええ」


そして私達は馬車に乗り込むと、学校へ向けて馬車は走り出した。


「あのね。今朝お父様に言われたのだけど、私とセブラン様は同じクラスになれたから学校ではセブラン様のお世話になりなさいと言われたの」


「え? そうだったの?」


セブランが目をパチパチさせる。


「ええ。そうなの。レティもお父様からその話、聞かされているでしょう?」


フィオナが上目遣いに私を見る。確かに昨夜、それらしいことは父に言われたけれども……一瞬、言葉に詰まった。

父の考えでは本来であれば私がフィオナと同じクラスになり、彼女のお世話をわたしがすることになっていた。

けれども予想を反して、フィオナとセブランが同じクラスになった。


だとしたら……


「セブラン、私からもお願いします。フィオナのこと、よろしくおねがいします」


これが父の願いであり……イメルダ夫人が望むことなのだろうから。


「分かったよ、それじゃフィオナが学校生活になれるまでお世話させてもらうよ。よろしくね」


「本当!? 嬉しい! ありがとう、セブラン様」


「そんなに喜ばれるとは思わなかったな」


フィオナがとびきりの笑顔を見せ、セブランの頬が赤く染まる。

そんな二人の様子を私は心を殺して見つめるしか無かった……




****


「それじゃ、レティ。放課後にね」

「またね、レティ」


私の教室の前でにこやかに笑顔を向ける、セブランとフィオナ。


「ええ、また放課後にね」


私が手を振ると、二人は仲よさげに自分たちのクラスへ入っていく。そして私は悲しい気持ちでその後姿を見守っていると不意に背後から声を掛けられた。


「おはよう、レティシア」


「え?」


驚いて振り向くとそこに立っていたのはイザークだった。今迄ほとんど彼から挨拶をされたことが無かっただけに少しだけ驚いた。


「お、おはよう。イザーク」


「何してるんだ? 教室に入らないのか?」


イザークはじっと見つめてくる。


「い、いえ。入るわ」


「そうか、なら行くぞ」


「ええ」


イザークに促され、私は自分の教室へと入ると、その様子を見ていたヴィオラが声を掛けてきた。


「あら? 珍しいじゃない。イザークと一緒に教室に入ってくるなんて。まさか一緒に……」


「そんな訳ないだろう? 偶然教室の入口で会っただけだ」


イザークは眉をしかめ、次に私に声をかけてきた。


「レティシア、今日も委員会活動があるから遅れるなよ」


「ええ、分かっているわ」


頷くと、イザークは自分の席にいってしまった。


「……やっぱり、イザークって何を考えているか分からないわ」


ヴィオラは首をひねっている。


けれど……私の頭の中はイザークのことよりも、フィオナとセブランのことで頭が一杯だった――




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