6 夕食会、そして……
その日の夕食は今までにない程に豪華な食事だった。テーブルの上には高級食材の魚介料理が並べられ、美しく盛り付けられている。
「では、レティシアの入学祝いを開こう」
祖父の言葉の後に、賑やかな食事が始まった……。
「すごい……本当どれも美味しそう」
豪華な料理を前に、思わず感嘆の声を漏らすと祖父がニコニコしながら話しかけてきた。
「レティシア、お前の好きな魚介料理を沢山用意した。好きなだけ食べるといい」
「はい、いただきます」
早速魚のソテーを口に運ぶ。
バターとハーブの香りに、とても上品な味付けだった。
「レティ。普段は自分で料理を作っているから、あまり魚介料理は食べていないのではないの?」
祖母が尋ねてきた。
「そうですね……魚介料理は手間がかかりますから、ほとんど口にしていません」
「やっぱり、そうだったのか。それならレティが来たときは毎回魚介料理を出してもらうように厨房に話しておくよ」
ワインを口にしていたレオナルドが笑顔を向けてくる。
「ありがとうございます、レオナルド様」
すると祖父母がレオナルドの言葉に反応した。
「レオナルド、今レティシアのことをレティと呼んだのか?」
「ついに、愛称で呼ぶことになったのね?」
祖父母は嬉しそうにレオナルドに尋ねる。そんなに呼び方が重要なのだろうか?
「え、ええ……レティから許可を貰ったので……」
レオナルドがチラリと私を見る。
「それはつまり、何か心境の変化でもあったということかしら?」
祖母が私に質問してきた。そう言えば、祖父母は大学内では私とレオナルドは兄妹となっていることをまだ知らない。
「はい、それは……」
説明しようとした時、レオナルドが口を挟んできた。
「俺がレティに頼んだんです。愛称で呼んでもいいかどうか」
「まぁ、やっぱりそうだったのね?」
祖母が目を輝かせる。
「そうか、そうか。それは良いことだ。なら我々もそう呼ぶことにしようか?」
「はい、お祖父様。お祖母様も、お好きなように私のことを呼んで下さい」
私は笑顔で頷いた――
****
豪華な夕食会の後……
レオナルドはまだ片付けなければならない仕事が残っているからということで、書斎に戻っていた。
そして今、ダイニングルームには私と祖父母の3人が残っている。
「どうだ? レティ。アネモネ産のパッションワインの味は?」
祖父がワインを飲む私に尋ねてきた。
「はい、とても美味しいです。まるでジュースみたいですね。こんなに美味しいワインを飲むのは初めてです」
……もっとも、成人年齢に達して半年もたっていないのだから当然なのだけれども。
「フフフ……懐かしいわね。ルクレチアもこのワインが大好きだったわ」
ワインのせいか、少しだけ頬を赤く染めた祖母が懐かしそうに目を細める。
「ところで……レティや。お前に大事な話があるのだが……聞いてくれるか?」
祖父が空になったワイングラスをテーブルに置いた。
「大事な話……ですか?」
どんな話なのだろう?
「あなた、今その話をするのですか? 今日は入学式を終えたばかりなのに?」
「だからこそだ。何事も早い方が良いだろう? 何より……名前の呼び方が変わったくらいなのだから」
祖父母が何やら要領が掴めない会話をしている。
「あの……一体どのような話なのでしょうか?」
すると、祖父が質問してきた。
「レティ、レオナルドのことをどう思う?」
「え? レオナルド様ですか……? とても頼りになる、素敵な方だと思いますけど……?」
戸惑いながらも返事をする。
「そうよね。確かにレオナルドは好青年だわ」
「なら、話は早いな」
頷き合う祖父母。
「あの……?」
首を傾げた次の瞬間。
「レティ、レオナルドと結婚する気は無いか?」
「え……?」
祖父が驚きの言葉を口にした――




