5 手紙の内容は
『レティシア、元気にしているか…‥‥』
父からの手紙の書き出しは私を気遣う内容から始まっていた。私がいなくなった後のカルディナ家の状況などが詳しく書かれている。
考えて見れば、父から手紙を貰うのは初めてのことだった。几帳面な文字で書かれていた文面を読み進めていくうちに……イメルダ夫人とフィオナ、そしてセブランのその後についても細かく記されていた。
「え……?」
その驚くべき内容に私は思わず目を見張ってしまった。
そ、そんな……まさか、あの三人が……?
最後まで驚きだった手紙の締めくくりは、こう記されていた。
『レティシア、身体には十分気を付けるように。ルクレチアの分まで、どうかグレンジャー伯爵夫妻を大切にしてあげて欲しい』
「お父様……」
手紙を読み終えて封筒にしまうとレオナルドが声をかけてきた。
「大丈夫か? レティシア。何だか随分驚いていたようだが……? 手紙がどうかしたのか?」
「レオナルド様……」
「あ……すまない、カルディナ伯爵の手紙はレティシアだけに書かれたものだからな。尋ねるような真似をして悪かった。どうか気にしないでくれ」
少しだけ慌てた様子のレオナルドは、再び書類に目を落とした。
彼にだけは手紙の内容を告げるべきなのかもしれない。何しろ、祖父母には内緒で父からの手紙を預かってくれていたのだから。
「レオナルド様。実は父からの手紙で、お話しておきたいことがあるのですが……お時間大丈夫でしょうか?」
「ああ、それはもちろん構わないが……でもいいのか? 手紙の内容を俺に話しても」
レオナルドはペンを置くと、私を見つめる。
「はい、レオナルド様にも知っておいてもらった方が良いと思うので。父の手紙にはイメルダ夫人とフィオナ、それにセブランのことが書かれていました」
「何だって? あの三人の? 一体彼らは皆どうなったんだ?」
「驚くような内容でした……まず、イメルダ夫人です。彼女はあの後、すぐ裁判にかけられて、流刑島に送られました。あの島に送られれば、もう生きては二度と出てこれないそうです」
「流刑島……あの島は確か1年中冷たい海風に晒される場所で、囚人たちは鉱山で採掘作業をさせられると聞いたことがある。とても過酷な環境らしい。まさか女性の身でそのような場所に送られるとは……それだけあの女の罪は重かったということだな」
感慨深げにレオナルドは語る。
「それ以外にも、毒草が植えられた花壇の管理をゴードンさんから任されていた人も共謀した罪で逮捕されました。数年間は収監されるそうです」
「そうか……本当にイメルダは多くの者達を自分の欲の為に巻き込んでいたようだ。それで、あの娘はどうなったんだ?」
「はい、フィオナですが……彼女は山間にある修道院に入れられたそうです。10年は修道女を務めなければならないみたいですね。そして彼女の後見人には実の父であるアンリ氏が名乗りを上げたそうです」
その言葉にレオナルドが笑みを浮かべた。
「なるほど……フィオナは修道女になったのか。警察は神に詫びる機会を彼女にあげたというわけか。アンリ氏も自分の娘を見捨てなかったんだな」
「そうですね。これで親子関係が少しでも改善されれば良いのですけど」
私は父との縁を切ってしまった。でも、出来ればフィオナには実の父親と上手くいってもらいたい。
……今まで妾の子と言われて世間から蔑まされてきたのだから。
「それじゃ、一番肝心のセブランだ。あの男はどうなった?」
レオナルドが身を乗り出してきた。
「セブランは両親から縁を切られてしまい、ほぼ何も持たない状態で屋敷を追い出されたそうです。……勿論、大学進学も取り消されました。今、セブランはどこで何をしているのか誰も知らないそうです」
苦労せずに育った貴族のセブラン。何もかも失った彼はこの先、一人で生きていけるのだろうか?
セブランの境遇を思い……ため息が出てしまった――