3 宿泊の勧め
4人揃っての和やかな食事は楽しかった。
私を中心に話が進む。皆が笑みを浮かべて私の話を聞いて、時には笑顔で頷いてくれる。このような幸せな時間はカルディナ家にいた頃には経験したことがなかった。
何しろイメルダ夫人とフィオナが中心で、私はいつも蚊帳の外だったから。
食事も済み、皆で食後のお茶を飲み始めた頃――
「レティシア、今夜はここに泊まっていかないか?」
祖父が突然提案してきた。
「え? 今夜ですか?」
「そうなんだ。実は……レティシアに頼みたい仕事があるんだ。……いいかな?」
レオナルドが私に尋ねてくる。
私はシオンさんのハーブ園の手伝い以外、時々レオナルドの仕事の手伝いもしていた。勿論、アルバイト代も頂いている。
お金はいらないと申し出ているのだが、頑なに祖父とレオナルドが反対するからだ。
仕事を手伝うのであれば、帰りは遅くなるかもしれない。
洗濯物は家の中に干してあるし、今夜ここに泊まっても特に差し支えは無いだろう。
「はい、分かりました」
「それじゃ、30分後に書斎に来てくれるか? 俺は先に行ってるから。おじい様、おばあ様、それでは先に失礼します」
レオナルドは挨拶すると、席を立ってダイニングルームを去って行った。
すると、すぐに祖父が神妙な顔つきで私に尋ねてきた。
「レティシア……少し、尋ねたいことがあるのだが……」
「はい、何でしょう?」
「い、いや。シオン様のことなのだが……」
何故か祖父が言いにくそうに言葉を濁す。
「シオンさんがどうかしましたか?」
「え、ええと。つまり……レティシアはシオン様のことをどう思っているのかしら? と思ってね」
祖母が話に加わってきた。
「シオンさんですか……?」
シオンさんのことを頭に思い浮かべた。
彼は植物のことにとても詳しく、博識だった。私の知らない植物のことを色々教えてくれて、一緒にハーブの世話をするのはとても楽しい。
「そうですね……一緒にいると、楽しい方です」
「「え!?」」
何故か、私の言葉に祖父と祖母が驚いた様に目を見開く。
「どうかされましたか?」
「い、いや。何でもない。……それでは……レオナルドのことはどう思う?」
ゴホンと咳払いしながら祖父が質問してきた。勿論、レオナルドのことならすぐに答えられる。
「はい、レオナルド様はとても頼りになる方です。あの方なら、グレンジャー家も安泰でしょう」
すると、祖父母が嬉しそうに笑顔になる。
「なるほど、そうかそうか」
「確かにレオナルドは頼りになるわ」
その後――
時間になるまで、私は祖父母からレオナルドがいかに優秀な人材か説明を受けた。
その話を聞きながら私は思った。
祖父母は、本当にレオナルドを信頼しているのだと。
****
30分後――
私は書斎の前に立っていた。
――コンコン
扉をノックすると、レオナルドが扉を開けてくれた。
「レティシア、中に入ってくれ」
「はい」
部屋の中に入ると扉が閉められ、早速私はいつも自分が使用している書斎机に向かった。
「悪かったな。シオンの仕事の手伝いで疲れているかもしれないのに、今日呼びつけてしまって」
「え? それでは本日こちらに招かれたのは……」
「ああ。俺がレティシアをここに呼んだ。祖父母の前では話せない……大切な用があったからな」
レオナルドが頷く。
「大切な用……?」
一体、それは何だろう――?