28 セブラン 5
卒業式――
この日のレティはいつもとは少し様子が違っていた。
今日は高等学部の卒業式という特別な日だったので、普段よりも早い時間に僕は屋敷を出た。
「今日の卒業記念パーティ……楽しみだな……」
カルディナ家へ向かう馬車の中で、僕はフィオナとダンスを踊ることを想像していた。
屋敷に到着するまでの間、完全にレティの存在を忘れてしまっていたのだ。
ところが……
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「まぁ、おはよう。セブラン」
カルディナ家に到着し、扉をノックしようとした瞬間にいきなりレティが現れたのには驚いた。
「び、びっくりした……おはよう、レティ。今朝は早いんだね」
「ええ。今日は学園に通う最後の日だから、早めに出てきたのよ」
僕の前に立つ、レティはいつもとは雰囲気が違っていた。
何ていうか……とても清楚で……綺麗だった。
一体何があったのだろう?
レティと会話をしながら、気づけば今まで一度も彼女に言ったことのない言葉をかけていた。
「う、うん。こんな言い方変だけど……今日は何だかいつもと雰囲気が違うね。その……とても綺麗だよ」
すると僕の言葉に一瞬驚いたかのようにレティは目を見開くと、次の瞬間笑顔を見せた。
「ありがとう、セブラン」
え……?
その笑顔を見ているだけで自分の胸がドキドキしてくる。一体僕はどうしてしまったのだろう……? レティにこんな気持を抱くなんて……
そうだ! フィオナが現れる前にレティにダンスの申し込みをしておかないと。
「あ、あの。レティ、今日の卒業記念パーティーのダンスだけど、僕と……」
「セブラン様!」
その時、突然フィオナが声をかけてきたので結局僕はレティにファーストダンスの申し込みをすることが出来なかった。
でも大丈夫。卒業式の終わった後に、レティにダンスの申し込みをすればいいのだから。会場に入る前に、彼女の教室の前で待っていれば会えるはずだから……
このときの僕は楽観的に考えていた――
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結局、卒業式が終わっても僕はレティと会うことは出来なかった。
彼女の教室の前で待っていても、レティは姿を現さなかったからだ。
何だ……折角レティにファーストダンスの申し出をしようと思っていたのに。
あまり、ここにいるとフィオナが心配するので僕は自分の教室に戻ることにした。
僕は自分でも意外な程残念に思っていることに驚いていた。
けれど、その後……もっと驚いたことが起こる――
「フィ、フィオナ! そのドレスは……?」
待ち合わせをした会場入口付近に現れたフィオナを見て僕は仰天した。まさか同じ薄水色のドレスを着て現れるとは思いもしていなかったからだ。
「どうですか? セブラン様。お揃いの色のドレスです。……似合っていますか?」
少し照れたように僕を見て笑うフィオナ。その姿はとても愛らしかった。
「うん、よく似合っているよ。フィオナの瞳は青いから、よく馴染んでいると思う」
いつものようにフィオナと話をしながらも、僕は心のなかでレティのことを考えていた。
レティはどんな色のドレスを着てくるのだろう? 紫色のドレスなんかよく似合いそうだけどな……
「どうしたのですか? セブラン様。何だか上の空みたいですけど?」
突然フィオナに顔を覗き込まれて、ドキリとする。
「そ、そんなことないよ。それじゃ中に入ろうか?」
「はい!」
僕達は手を組んでパーティー会場へと入っていった。
そして、イザークとヴィオラに責め立てられることになる――