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22 フィオナ 5 

 この日――


私は苛立つ気持ちで学校から帰宅した。鍵をかけて自室に閉じこもるとカバンを床に叩きつけた。


「信じられないわ!! なんで本当にレティシアと婚約なんてするのよ!」


今日、私はセブランの口から衝撃的な事実を告げられた。レティシアの誕生日の日に婚約の申し入れをするつもりだと言うのだから。

このことを聞かされたときは思わずその場で彼を罵りそうになってしまった。

それを必死で抑えて「おめでとう、セブラン様」と言えた自分を褒めてやりたいくらいだ。


私は帰りの馬車の中で何も知らずに座っているレティシアを何度も睨みつけた。なのに、窓の外を眺めているあの鈍い女はそれすら気づいていない。


「どうしてよ! どうしてレティシアなのよ! 私のほうがあんな地味女より劣っているっていうの!?」


ソファに乱暴に座り込むと、クッションを抱え込む。

別に私はこれっぽっちもセブランに好意を抱いているわけではない。

ただあんな地味男がレティシアに婚約を申し出ることが許せなかったのだ。

仮にも、この私の目の前で!


「本当になんて男なの……私のことが好きなくせに、レティシアと婚約する気なのね……もしかして親に命令されたのかしら? だいたい、よくも私の前であんなこと言えるわね! レティシアを差し置いて何度もふたりきりで出かけたことだってあるのに!」


思えば、セブランの両親は最初から私と母に対して良い感情を持ってはいなかった。いや、見下しているのだ。母が父の妾だったから……


そこで、ふと気付いた。


「……そうよ、もっとレティシアを傷付ける方法があったじゃない。二人が婚約しても、ずっとセブランを独占すればいいんじゃないの。どうせセブランは義務でレティシアと婚約するのだから」


脳天気なセブランも、私を見下すあの両親も気に入らない。二人が婚約者どうしになっても、変わらず私と交際しているフリを続ければ彼らの世間の評判だって地に落ちるだろう。


「見てなさい……セブラン、それにレティシア。私を馬鹿にしたこと……絶対に後悔させてやるんだから… …」


私は決意を新たにした――



そして二年の時が流れ……レティシアが十八歳の誕生日を迎えたその日。


セブランは予告通り、紫色のバラの花束を持ってレティシアのもとへやってきたのだった。




****


「レティ、セブラン。二人とも、ここにいたの?」


私は頃合いを見計らって、ガゼボにいた二人の前に姿を見せた。


「フィオナ、こんにちは。今日もお邪魔していたよ」


セブランはたった今、婚約の申し出を入れたレティシアの前で頬を染めながら私を見つめる。


「まぁ、レティ。とても素敵な紫のバラね。貴女の瞳と同じだわ。もしかしてセブラン様にもらったの?」


とびきりの笑顔で私はレティシアに話しかけた。


「ええ。彼から頂いたの」


うなずくレティシアの顔は少しも嬉しそうではなかった。自分の置かれている立場に気付いているのだろう。


「フィオナ、それなら君にもバラの花束をあげるよ。フィオナの瞳は海の色のように青く美しいから青色のバラなんてどうだろう?」


さすがは空気の読めないセブラン。そこで私はわざと遠慮するふりをする。


「え……? でもそれは悪いわ。だって私はセブラン様から花束をもらう資格はないのよ? だって。貴方はレティと……」


レティシアの前では、まだ仲の良い姉妹を演じた方が絶対良いに決まっているからだ。

すると、レティシアは自分こそ場違いな人間だと思ったのだろう。


「私、バラが枯れるといけないから花瓶に活けてくるので、お先に失礼するわね」


そう告げると、レティシアはその場を去っていった。

しかも去り際に「フィオナ、私の代わりにセブランのお相手をお願いね」と言い残して。


未だに余裕のある行動を見せるレティシア。でも、いつまでそんな態度を取り続けられるだろうか?


見てなさい、レティシア。これからもじわじわと追い詰め、あんたの大切な物を奪い尽くしてやるのだから――




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― 新着の感想 ―
[一言] フィオナ……やっぱり擁護できないのよね レティ父を実の父親だと信じ込まされて生きてきて周囲からの白い目と異母姉妹(だと思ってる)は伯爵令嬢として何不自由無い生活している……うん……嫉妬するの…
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