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19 フィオナ 2

 今夜はカルディナ家に来てから初めての夕食だった。


四人で囲む初めてのテーブル。私は並べられた料理の豪華さに驚いてしまった。自分の前に幾つもの美味しそうな料理が乗った皿が並べられていく様子を呆然と見つつ、それと同時にレティシアに対し、激しい嫉妬が湧き上がった。


私と母は普段から粗食生活だったのに、ここではこんなにご馳走が出されていたなんて……

同じ父親を持って生まれてきたのに、この境遇の差はどういうことだろう。


チラリと向かい側に座るレティシアを見るも、彼女は何を考えているのか虚ろな目つきで料理を見つめているだけだった。その姿にも苛立ちが募る。


つまり、貴女は常日頃から見慣れた料理だから何とも思わないというわけね。だったら私のするべきことは唯一。


レティシアが父親とは友好関係を築けていない様子は出迎えてくれたときに気がついた。だったら、ここで私と父の仲の良さを見せつけてやればいいのだ。


良い娘を演じ、媚を売るのは私にとっては容易いこと。


これみよがしに父と笑顔で会話をしながら、レティシアの様子を伺う。


「……」


レティシアは一言も話をせずに、背筋を伸ばして見事なくらいに上手に料理を食べている。ろくにテーブルマナーを教わっていない私とは偉い違いだ。


何故? 同じ娘なのに、こんなに差別されて私は育てられてきたのだろう?

どうしようもない憎しみばかりが込み上げてくる。


唯一の救いは父がレティシアには一切目もくれずにいるところだろうか?

ここで父がレティシアにも私と同様に笑顔で接していれば、私はきっと激しい嫉妬に駆られていただろう。


まるで存在を消しているかのように食事をしているレティシアに、私はわざと声をかけた。


「どうしたの? レティシア。さっきから一言も話をしないで食事しているようだけど、気分でも悪いの?」


「い、いえ。大丈夫、気分は悪くないわ」


いきなり話しかけられて驚いたのか、レティシアの肩がピクリと跳ねるのを私は見過ごさなかった。


「すまないね、フィオナ。レティシアは無口なのだよ。私とレティシアは普段あまり一緒に食事をしたことは無いが、大体いつもこんな感じなのだよ。だから気分を害することは無い。」


そこへ、とっさに父が私に声を掛けてきた。


「え……?」


その言葉にレティシアが面白いくらいに青ざめ、泣きそうな表情を浮かべる。


「レティシア。気分が優れないなら部屋で休みなさい」


「……分かりました。まだ課題も残っていますし……私はお先に失礼致します」


眉をひそめた父に退席を求められたレティシアは立ち上がってしまった。

そんな! まだ本番はこれからだったのに、いなくなられては面白くない。


「え? 行ってしまうの? まだ美味しそうなデザートも残っているのに?」


この話を持ち出せば、残ると思っていたのに……


「ええ。いいの」


「そんな……勿体ないわ……」


私はわざと、レティシアの皿の上のデザートをじっと見つめる。すると、とんでもないことを言ってきた。


「もしよければ、フィオナ。あなたが食べてくれると嬉しいわ」


え!? 私に食べろっていうの!? 私が卑しい育ちだと思ってバカにされたとしか思えない。

けれど、父や母の前で良い娘を演じなければならないので怒りをぐっと抑え込み、思ってもいない台詞を口にした。


「本当に? ありがとう!」


「それでは、お先に失礼いたします」



そしてレティシアは本当にダイニングルームを出て行ってしまった。


……本当に、なんて嫌な女なのだろう。


ますますレティシアに対して、私は憎しみを募らせた――

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