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15 馬車の中で

 翌朝――


私とフィオナは同じ制服を着用し、屋敷の扉の前でセブランの馬車がやってくるのを待っていた。

当然イメルダ夫人も一緒だ。今日は転入初日ということで、フィオナと一緒に学校についてくることになっていたからだ。


……もちろん、その話も今朝の朝食の席で突然聞かされたのだけれども。


彼女はいつもとは違う外出用のデイ・ドレスを着用している。……あのデザインは確か最近流行のデザイナーのドレスだ。

父に買ってもらったのだろうか?



「フィオナ、その制服よく似合っているわ。貴女は器量良しだから何を着ても似合うわね」


「ありがとう、お母様に似て良かったわ」


「……」


そんな母娘の仲睦まじげな会話を私はぼんやりと聞いていた。

母は私を産んだ直後に狂気にとらわれてしまった。だから私はあの二人のように母娘の仲睦まじい会話を交わしたことが無かった。


少しだけ、二人の仲が羨ましい……そう思った矢先、フィオナが声を上げた。


「あ! セブラン様の馬車が来たわ!」


見ると彼を乗せた茶色の馬車がこちらに向かってやってくるのが見えた。

馬車は私達の前で止まると、扉が開かれセブランが降りてきた。


「セブラン、おはよう」

「おはようございます、セブラン様」


二人で声をかけるとセブランは笑顔で私達に挨拶を返す。


「おはよう、レティ。フィオナ、それに……」


セブランはイメルダ夫人が外出着姿なのを見て首を傾げた。


「あの、夫人……?」


「おはようございます、セブラン様。今日は娘の転入手続きがあるので私も一緒に学校へ行くのでご一緒させて下さい」


そしてニコリと夫人は微笑む。


「そうだったのですね。分かりました。では皆さん、馬車にお乗り下さい」


セブランの言葉に、イメルダ夫人に続いてフィオナが乗り込むときに私は彼に小声で囁いた。


「ごめんなさい、セブラン。まさかイメルダ夫人まで一緒に来るとは思わなかったの。今朝、いきなり聞かされたから」


「大丈夫だよ。少し驚いたけどね。さ、レティも乗って」


そう言ってセブランは笑いかけてくれた。



****


 馬車の中ではほとんどイメルダ夫人とフィオナが一方的にセブランに話しかけていた。セブランはにこやかに話に応じている。

私も本当は会話に加わりたかったけれども、イメルダ夫人が怖かったので黙って馬車の窓から外を眺めた。


……大丈夫、イメルダ夫人が私達と一緒に馬車に乗るのは今日だけだから。

息苦しい時間を私は自分に言い聞かせて学校に到着するまでの時間を耐えた。



****


「それでは私達は理事長室に行って来ますね。セブラン様、馬車に乗せて頂きありがとうございました」


学園に到着し、馬車から降りるとイメルダ夫人がセブランにお礼を述べてきた。


「いいえ、お役に立てて良かったです」


「またね、セブラン様。レティ」


フィオナは笑顔で私達に手を振ると、夫人とともに去っていった。



「それじゃ、レティ。僕達も行こうか?」

「ええ、行きましょうか」


歩き始めるとすぐにセブランが声を掛けてきた。


「レティ、馬車の中ではずっと静かだったけど……もしかして具合でも悪いの?」


「いいえ、大丈夫よ。ただ……イメルダ夫人が一緒だったからちょっと緊張してしまっただけよ。ほら……一応私の義理のお母様になる人だから」


言葉を濁すようにセブランに説明した。


「そうだったのか。確かに僕も夫人がいたときは少し驚いたけどね」


「ごめんなさい、迷惑かけて」


「迷惑なんて思ってないから気にしなくていいよ」


そこまで話した時、教室の前に到着した。


「それじゃ、レティ。また放課後にね」

「ええ、セブラン」


私とセブランは教室の前で別れた。

……大丈夫、セブランは優しい。きっと私のことを考えて、あの2人にも親切な態度を取っているだけに違いない。


「不安に思う必要は…ないわよね」


私は無理に自分に言い聞かせた。



けれど、この後私はショックを受けることになる――

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― 新着の感想 ―
[良い点] 激しいわかりやすい虐待をされるのではなく、じわじわと日常が侵食されていくうっすらとした恐怖が、細やかに書かれていて素晴らしい
[一言] 母娘で図々しい行動ですね…。特に夫人、自分の帰りのアシの事考えてない? 時間差で迎えの馬車を指示してたのかな? …読み返しての感想でした 嫌がらせ感、強いですね(^_^;)
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