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30-a その頃の彼等

 私―ヴィオラ・エヴァンズはイザークとレオナルド様と一緒に美しい砂浜に来ていた。

 青い空に、美しいエメラルドグリーンの海。そして真っ白な砂浜は生まれて初めて見る光景だった。


「まぁ……なんて素敵な景色なのかしら」


近くにいるイザークもじっと海を見つめている。まさかイザークとこんな風に美しい景色を見れるとは思わなかった。


「レティシアも来れれば良かったのにな……」


イザークの声が私の耳に届いた。


そうだった、こんな風に浮かれている場合では無かった。レティは今、大事な話し合いの真っ最中だというのに。

自分の不謹慎な気持ちが恥ずかしく思うのと同時に、レティに申し訳ない気持ちが込み上げてきた。


「この辺り一帯はウミガメが産卵しにくる砂浜でとても有名な場所だ。それに向こう側の海岸では三日後に花火も打ち上げられる。大がかりな催しだから観光客も沢山集まるし、様々な夜店も並んでそれは賑やかなフェスティバルなんだ」


レオナルド様が教えてくれた。


「本当ですか!?」


花火と聞いて、再び私の胸は躍る。


「ああ、君たちはまだこの島に滞在予定なんだろう? 三日後のフェスティバル、皆で行かないか?」


「はい! 行きたいです!」


レオナルド様の言葉に大きく頷く私。

イザークと……レティと一緒に花火が見られるなんて素敵すぎる。


「花火……」


ポツリと呟くイザーク。


「どうかしたの? イザーク」


「い、いや。何でもない。でも花火か……楽しみだな」


イザークの口元に笑みが浮かぶ。


「そうだ、ヴィオラ。君は貝殻は好きかい?」


不意にレオナルド様が尋ねてきた。


「はい、好きです」


「この砂浜には綺麗な貝殻が沢山流れ着いているんだ。良かったら拾っていったらどうだ?」


「貝殻ですか? はい! 勿論拾いたいです!」


貝殻を沢山拾って、今日一緒に島を観光出来なかったレティにお土産に持って帰ってあげよう。


「ねぇ、イザークも一緒に貝殻集めをしない?」


私は隣に立つイザークに声を掛けてみた。ひょっとすると断られるかもしれないけれど、一緒に貝殻探しをしてみたかった。


「貝殻集め? そうだな。やってみるか」


意外なことに、頷くイザーク。するとその言葉を聞いたレオナルド様が提案してきた。


「よし、それでは皆で貝殻探しをしよう。とりあえず時間は三十分位でいいかな?」


「「はい」」


私とイザークは同時に返事をした――





****


「ねぇ、イザーク。どれくらい貝殻を集められた?」


レオナルド様が用意してくれた麻袋に貝殻を拾い集めた私はイザークに声を掛けた。


「あ、ああ……まぁまぁかな」


「どんな貝を拾ったの?」


イザークの拾い集めた貝殻を見て、私は一瞬息が止まりそうになった。何故なら彼が集めていたのは全て紫色の貝殻ばかりだったからだ。


紫…‥レティの瞳と同じ色の……


「どうかしたのか?」


私の様子に気付いたのか、イザークが尋ねてきた。


「う、ううん。別に何とも……紫色の貝殻ばかりだなって思っただけよ」


するとイザークがポツリと言った。


「今日、レティシアは俺たちと一緒に来れなかっただろう? だからレティシアの為に貝殻くらい拾って行ってやろうかと思ってな」


「そ、そうなのね? きっとレティ、喜ぶわ」


レティの為に……その言葉に胸がチクリと痛む。そこへレオナルド様がやってきた。


「ふたりとも、そろそろ時間だから次の場所へ行こうか……ん? イザークは随分紫色の貝を集めたんだな」


「あ、ああ。まぁな……」


曖昧に返事をするイザーク。


「そうか、それにしてもよくそれだけの紫の貝を集められたものだ。紫の貝は中々希少で見つかりにくいのに」


「え? そ、そうなのですか?」


何気ないレオナルド様の言葉だったけれども、私にはその言葉が重く響く。


「よし、それじゃ次は眺めが美しい岬へ行こう。そこはアネモネの花が咲き乱れる美しい場所で、『恋人岬』と呼ばれている。意中の相手と訪れると必ず結ばれるという言い伝えが残されているんだ。興味深い場所だろう?」


レオナルド様が意味深に私達を見て笑みを浮かべる。


恋人岬……


私は隣を歩くイザークを思わず見上げた。もし、そこへ行ったらひょっとして私も……?


そんな淡い期待を抱きながら、私は馬車へと向かった。


この時のイザークが何を考えているのか、考えもせずに――



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