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DAUNTLESS MOON

DAUNTLESS MOON -風の龍の子-

作者: のこまる

 時は風の時代。世は紛争と情報戦、そして疫病が蔓延していた。

 ある満天の星が美しい夜、一人の少年が生まれた。

 彼の名は零音。彼の祖父が名付けた。

「何も無い0の所に音と光を」という意味を持つ。

 同じ誕生の日の晩、黒い衣に身を包む男が。

 その男は山奥深く、一つの卵を抱えていた。「…闇と光。」

 男がそう呟く。男は卵を山の中腹へ埋め、去って行った。


 やがて、時が満ち少年は12歳と成っていた。

 その見た目は可憐な一輪の花のよう。まるで少女のような天使のような子と成った。

 ある日、少年の祖父が彼を呼び出し、こう言った。

「零音、お前に渡しておきたいものがある。さあ、着いて来なさい。」

 少年の祖父は骨董品を扱う仕事を生業としていた。

 零音にとって古びた宝物に触れることは日常生活の遊びの一つだった。

 少年は笑顔で「おじいちゃん、次は何を見せてくれるの?」と興味溢れる心持ちで尋ねた。

 準備された年季の入ったケースは見事なまでに輝いていた。

 祖父は言った。「これは鍵だ。」「何の鍵?」少年は言った。

「それはな…」その時、黒い衣を着た青年がその言葉を遮った。

 突如ともなく現れた青年に零音は息を飲んだ。

「爺さん、その子にはまだ早い。知るのは先のことだ。」

 青年は祖父から鍵の入った箱を奪い取り、「ウロボロス。この言葉を覚えとけ。」

 と言って、消えた。その鍵の箱と共に。


 三年の時が経ち、祖父光良の葬儀が執り行われた。

 零音は15歳。祖父の遺影を手に抱え、涙を一つも見せずに死を悼んだ。

 彼には父も母もなかった。一人祖父と共に暮らしていたので、皆、心配し声を掛けた。

 仲良しで面倒をいつも見てくれていた房子が零音に近寄り、「辛くないかい?辛かったら泣けば良いんだよ。」と言った。

 房子の言葉に零音は頷き、「一人にして下さい。」と言った。「分かったよ。」…


 その夜は満天の星が降り注ぐ夜。少年零音は独り、「星の見える丘」と呼ばれている所で佇んでいた。

「逝ってしまった。」その日、少年は初めて涙を浮かべた。

ー「強く生きなさい。お前は弱いのだから。」ー

 それが祖父の口癖だった。「…強く…成るんだ。」

 零音は涙の味を確かめながら、繰り返しそう呟いた。


 すると、星の見える丘に強い風が吹き、白いオオカミが現れた。

「シュバル…」零音がオオカミに気付き、声を掛けた。

「あぁ、友よ。」シュバルという名のオオカミは少年に息を掛けた。

「何故、僕のおじいちゃんは死んでしまったの?」

「それはな…」シュバルが続けた。「狂狼病さ。」

 零音には分かっていた。流行り病、狂狼病。

 その時代、人々はオオカミと共に生活していた。オオカミは美の象徴とされ、家の位をも象徴していた。

 人々は各家庭の象徴であるオオカミを競い合わせ、様々な形で闘わせていた。

 ある家の1匹の狼が不治の病に罹り、飼い主の男の腕を噛んだことが狂狼病の始まりだった。

 そこから人から人へと病は広がり、世界を狂狼病が支配した。祖父もそれで亡くなったと言うのだ。


「オオカミなんて怖くない。君だってオオカミさ。」

 少年の言葉にシュバルは軽く笑い、「私だって怖く無い。」と答えた。

「ただ一つ恐れなければならないのは、風評だ。」

 情報はいつの時代も人を左右する。狂狼病と呼ばれる病は確かな証しがなく、情報が先走り広まったのかもしれない。

「シュバル、僕はどうすればいい?」

 シュバルが答えに困っていると、一筋の閃光が星から放たれた。その光は零音に射し込み、彼は意識を失った。


 零音は目を覚ました。何があったのか、時間がどの位過ぎたのか、すぐには分からなかった。

「零音!大丈夫かい!?」房子の声がする。「夢を見ていたんだ。」

「星の丘であんたが気を失っていた。シュバルが教えに来て、探しに行ったんだ。大丈夫?」房子の目は涙で晴れていた。

「今は…」「朝だよ。一晩診ていたんだ。」零音は起き上がろうとした。「シュバルは?」

「薬草を取りに行ったよ。」房子は零音に手を差し伸べた。

 すると、狼の遠吠えが聞こえた。「もう直ぐ帰って来るね。」房子は安堵した。


「声がしたんだ。真っ白い中で。」「どんな声だい?」房子は優しく問うた。

「記憶に在るんだ。あっちに行かない?って。面白いよ。何でも夢や想いが叶う世界だよって。」

 房子は怪訝な顔をした。「夢は夢。夢を見られて良かったじゃないか。」


「零音!!」シュバルが帰って来た。

「大丈夫か!?」「うん。」「ホラ、薬草だ。」シュバルは薬草を房子に渡した。

 房子は手早く薬草に魔法をかけ、粉末にし、零音に飲ませた。

「房子、君の技には驚く。」シュバルは感心した口ぶりで言った。

 房子は祖父光良の古い仲間であり、師弟関係にあった。房子のようなまじないが出来る人間は稀で、祖父光良が厳しくその技を育てたのだ。もちろん祖父もまじない師。


「この味は…苦手だな。」と零音が言うと、「言いっこなしだよ。」と房子が笑った。

 シュバルは息を整えてその晩見たことを語った。

「あれは、天の御使いだ。光が零音を包み、その背中に翼が見えた。私は見たんだ。あれは神の子の姿だ。」

 房子は不思議に思い、「零音が神の…?」

「子だ。伝説に在るだろう。光ある所に翼が宿る、と。」

「シュバル、それはおかしいよ。神の子は一人だ。土の時代に終わってる。」房子は信じてはいない。

「風の時代さ。今は。」シュバルが言った。

「ウロボロス。」零音が口を挟んだ。「夢に出て来た言葉。ウロボロス。」

 すると地響きが起こり、家の扉が開いた。そこには黒い衣を身に纏った青年が。

「その言葉を待ってたよ。」青年は高く笑い話しかけた。

「忘れてはいないだろぅ、3年前のこと。」零音はハッと気付いた。

「あの日、おじいさんは倒れた。」零音に怒りの表情が表れた。

「オレがやったのサ。」零音は立ち上がった。フラつきつつも。

「オレの名は君。君様。」キミは高笑いをする。

 零音はキミに近付いた。「鍵はどこなんだ?おじいさんが言ってた。」

「ホラよっ」キミは箱を零音に突き付けた。そして地響きと共に消えた。


 シュバルは影を追おうとしたが、もう時は遅かった。

「ちくしょう!」シュバルは悔しがった。影を追うことは狼の特技。今回はうまく行かなかった。ちくしょう。


 箱は3年前と同じ物で、不思議と時を感じさせなかった。

「さっきの夢の話だけど…」房子がおもむろに声を出した。

「零音。あんたは龍の子かも知れないよ。」房子の目は真剣だ。

「シュバルと零音、二人の話から察するに…」

「確かに!龍の伝説だ。」シュバルも察した。

「龍の子は光と共に翼を携え現れる。」房子は続けた。

「ボクが…龍の子…?」零音には疑問だった。

「人の子は神の子。龍の子は人の子。」房子は言う。

「しかしそれはまじないの世界の伝説だろう?」シュバルは疑う。

「まじないと真実はかけ離れてはいない。」房子がシュバルを嗜める。

 三人は黒い衣を纏ったキミが置いて行った箱を見た。

「零音、箱を開けてみな。」房子が言う。


 零音は箱を開けた。するとそこにはDMと刻印された二頭の龍をあしらった鍵が入っていた。

 零音はその鍵を手に持った。普通の鍵よりもっと大きな鍵だ。

「ウロボロス…?」零音が呟くと鍵は光り輝き、その先に太陽と月のモチーフと思われる影が映し出された。

「何でその言葉を?」房子は責めた。「おじいさんが!!」

すると、祖父光良の幻影が現れた。

「零音」語り掛ける祖父は今在るような、データの投影のような、どちらとも見分けが付かない話し振りだ。

「わたしはいつもお前と共にいる。」光良が続ける。

「卵を探せ。龍の卵だ。そこに私は居る。お前の母も。父も。」

「おじいさん!!!」零音が叫ぶと、光良の幻影は消えた。


「ネズミを探せ。ウサギの元に居るネズミを…」声だけが残る。

「ネズミを…ネズミを…」声は小さくなり、段々と消えていく。

「…ネズミ。」三人は息を飲んだ。


 旅立ちの準備は早かった。その日の夕刻には零音を背中に乗せたシュバルの姿が在った。

「いつでも帰って来るんだよ。私はここに居るから。大丈夫。」

 房子の言葉に背を押され、零音の旅は始まった。


「知っているウサギがいる。金の毛並みをしたウサギだ。」

 シュバルはそのウサギに会おうと言うのだ。

 ウサギが居る森はそう遠くはなかった。山を一つ越え、川を二つ渡るとそこがウサギの森だった。

 そこはしあわせの森と言われていた。


 しあわせの森に着くと、沢山のウサギが居た。ウサギたちは寄って来て口々に自分の名を伝える。

「こだんごだよ!」「おはぎです。」「ふりかけー」

 零音は嬉しくなった。こんなに可愛いウサギたちを見たのだから。

「おでんは?どこだ?」シュバルが尋ねる。

「まだ寝てるよー」こだんごと呼ばれるウサギが答える。

「あっちの方だよー」ふりかけが答える。

 シュバルと零音はウサギたちの案内で森の奥へと進む。

 大きな枕で休む雪の日の出立ちをしたウサギが居た。おでんだ。

「おでん!!」シュバルが声をかける。

「まだ眠いよー」おでんは起きて返事をした。

「金のウサギ、慧の居るところはどこだ?」

「ここだよー」すると、大きな枕の下に大きな穴が。

「この中に慧は遊びに行ったよー」零音とシュバルは穴の奥へと進んで行った。


 穴の奥へ進むと広い畑があった。

 木に成るトマト、トマリンを育てているモグラビットという種族の生き物が居た。

「ヤケに荒れた畑だな。」シュバルが言う。

 モグラビットの一人が「トマリンを好んで食べるウサギが居て、最近乱暴を振る舞うんです。」と言う。

「そのウサギの名は?」零音が尋ねる。

「大怪獣慧です。」モグラビットは恐れた様子で答えた。

「慧はいい奴だろ?何があった?」シュバルが問う。

「胃が動かなくなったんです。あいつ。トマリンだけが食べると胃が動くと言い、畑を荒らすようになって…」

 モグラビットは泣き出した。「畑がダメになってしまう…。」

「可哀想に…慧は本当にいい奴なの?」零音がシュバルに聞く。

「分からない…まずはあいつに会わないとな。どこに居る?」

「トマリンの貯蔵庫。」二人は貯蔵庫へと急いだ。


「慧!!」シュバルが吼えると、小さな黄金色の毛をしたウサギが現れた。

「シュバルぅ」腹をでっぷり抱えて慧は言う。

「何しに来た。あの借りは返してなかったな。今更しつこいぞ。」

「違うんだ。」シュバルは言う。「何故畑を荒らすの?」零音が問う。

「胃を動かすためさ。そのために畑は犠牲になる。」慧が言う。

「別に荒さなくても…」零音は悲し気だ。

「食い方ってもんがあるだろう?」シュバルは詰めた。

「食い方…忘れちまったんだよ!」慧は強気だ。

「ちょっと喰って捨ててるじゃないか!?」シュバルは怒る。

「それがオレの食べ方だ。」慧はやはり強気だ。

「あのトマリンのヘタが胃を動かす。だからそこだけ頂くのサ。」慧は弁明する。

「ヘタかぁ。」零音は何か考えている。「房子おばさんに頼むってのはどう?」

「それはいいアイディアだ!」シュバルも納得する。

 零音は鍵を取り出し祈った。「房子おばさんを出して。」

すると、鍵の先から光が放たれ、月と太陽をあしらったマークと共に房子が現れた。

「何だい?これは…」房子は手にフライパンを持っている。料理中だったようだ。

「房子おばさん!!」零音は嬉しそうだ。

「零音!どうやった?」シュバルは不思議そうに問う。「祈りが届いたんだね。」零音はやはり嬉しそうだ。

「私は呼び出されて来たんだね。」房子に疑問はない。

 慧は驚いた様子で「その鍵は銀細工のじいさんのか?」と尋ねる。

「なら話しは早いな。」慧は納得の様子だ。

「おじいさんを知ってるの?」と零音。「あぁ、古い馴染みだ。」と慧。

「先ず私が何をしに来たか教えてくれるかい?」と房子。

「あぁ、こいつがトマリンの畑を荒らしてな。そのトマリンのヘタが止まった胃を治すと言うんだ。」シュバルが説明する。

「房子おばさんの魔法でなんとかならない?」零音が尋ねる。

「私の魔法は薬の調合。任せときなよ!」房子はそう言うと近くにあったトマリンのヘタをもぎ取り、呪文をかけた。

「マーディガルサクティーン」するとヘタは粉に成り、房子の手の紙の上に落ちた。

「これでウサギさんの胃は良くなる。」房子は満足気だ。

「それでは足りないのでは?」シュバルは疑問だ。

「ここにちょいと持続性の効く魔法をかけといた。」房子は得意気だ。

「一ヶ月、一月は持つよ。」慧は喜んだ。「命の恩人!!感謝いたします!」

「ところで…」零音は「おじいさんの知り合いなの?」と。話は本題だ。

「その鍵は人を呼ぶことができる。」慧は話し出す。

「銀細工師のまじない師、光良さんは昔のオレを救ってくれた。」慧は続ける。

すると、地響きが鳴り、あのキミが現れた。

「昔の話はするな!今は風の時代だ。土の時代は…終わったんだ!」キミに怒りの表情が。

キミはマントを翻し、黄金ウサギの慧を連れて立ち去った。

「慧!!」シュバルが影を追う。が、またしても捕まらない。「ちくしょう!」

「あれ?」零音が落ちている少し太い黄金色の毛を見つける。「これを辿って行けば、慧の居場所が分かるかも。」

それは頭のいい慧が考えた作戦に違いない。

「よし!!」シュバルは零音を背負い乗せる。「房子さん、またね!」と零音。

「あぁ、必要な時はいつでも呼んどくれ。私は料理中!」そう言うと、房子の姿は風と音と共に消えた。

「さぁ、黄金色の毛を追うぞ!」シュバルは意気揚々だ。


 モグラビットの里、畑を抜け、ウサギたちにお別れし、山を一つ越え、川を二つ越えた。

 すると大きな宮殿のようなほこらが見えて来た。

「シュバル、もしかしてあそこじゃない?」シュバルは頷く。

 二人は宮殿のようなほこらの入り口に立つ。門が閉じている。

 零音は鍵を取り出し、門へ向けた。すると光が放たれ土を象徴したようなマークが照らし出された。

「いつもと違うな。」シュバルが口を開くと次の瞬間門は開き、中を鍵の光が照らした。


すると、大きな生き物が…


「探している者はなんだい?ここには居ないはず。」キーキーと言うか細い声はその図体に合わない。

 ドーン!!という地響きと共にキミが現れた。「このネズミはデカいのさ。」キミが言う。

 すると暗がりで見えなかったネズミの姿が光と共に現れた。

 キミはネズミの横で背をもたれかけた。

「私の名はギエス。」キーキーと言うか細い声が深い声に変わった。

「こいつがお前さんたちが探していたネズミさ。」キミが言う。

 ギエスの背には鱗のような跡と龍のような翼が生えている。

「もしかして、君は?」零音が問う。「龍の使いさ。土の龍。」ギエスが答える。

「オレは2000年もの間、時代に仕えていた。」

「土の時代の龍か。」シュバルは納得した様子だ。

「そしてここに閉じ込められて数年。」ギエスは悩まし気だ。

「今、時は来た!」そうキミが言うと、ギエスの口から黒煙が立ち込め、舞い上がるように黄金色の毛が立ち上った。

「食べたのか!?慧を!?」シュバルが問い詰める。

「食べた?あいつは、あのウサギは私と同体と成った。」ギエスは徐にウサギを吐き出した。慧だ。

「寒い!寒さには弱いんだ。」と毛の無いハダカの慧が言う。

 するとギエスの身体から黄金色の毛が背に生えた。

「これで私は完璧だ。」するとギエスは天に向かって大きく吠えた。その声はキーキーと細く太く地に響いた。羽を広げ天高くキミを背に乗せギエスは消えて行った。

「これは…どういうことだ?」シュバルが慧に問う。

「内臓で聞いた話だが、あんたは選ばれたんだ。」ハダカウサギの慧が零音を指差す。

「風の時代の申し子が各時代の龍を救い出す。」零音が気付いて、「それが僕の役割?」と。

「そうみたいだな。他に水の龍、火の龍がいる。」慧は説明する。

「その解放のために零音は生まれたのか。」シュバルの読みはいつも確実だ。

「でも、僕は弱い…」零音は嘆く。

「その鍵と少しの勇気さえあれば零音さんにもできるさ!」慧が励ます。

「旅は道連れ、世は情け。ハダカウサギの慧、お前も行くか?」と、シュバル。

「もちろん答えはYESだ!」慧は嬉しそうだ。「胃の調子も診てもらわないといけないしな!」と慧。

「では零音、背に乗れ。次は水の龍だ!」シュバルの冒険心は高い。

「何故水の龍だと分かるの?」零音が問う。

「その鍵の光の先を見ろ。」すると光の先に地の龍ギエスが飛び立った跡に水をあしらったマークが照らし出されていた。

「そうと決まったら話しは早い。行くぞー!」慧はノリノリだ。

三人は地の龍の門から飛び出し、東へ向かった。


 山を三つ越えた所に水の都アクアがある。それは三者皆が知っていた。何か手掛かりがあるだろうと、三人はアクアへ向かっていた。二つ目の山の中伏に差し掛かったところでブーンという大きな音に纏わりつかれた。音は次第に大きくなり、あっちへ行ったりこっちへ行ったりした。

 すると、目の前に大きなハチが。体長2mはある赤いハチだ。

「レッドビー、伝説の生き物のはず。」シュバルは驚いた。

 レッドビーは黄色い鋭い目でこっちを見ている。

「何だ!文句があるなら言ってみろ!」慧の威勢がいい。

 すると、レッドビーの毛が燃え盛る炎のように逆立ち、ハダカウサギの慧を鋭い尻尾の針が襲い刺し貫いた。

「ぐぎゃあ!」慧は息の無い悲鳴を上げた。慧を刺したままレッドビーは山頂の方に飛んで行った。

「慧!」零音が叫ぶ。

 シュバルは影を追ったが、またしても間に合わない。「ちくしょー!」

「慧を助けに行かないと。」零音がシュバルに言う。

「なんでいつもあいつは面倒を起こすんだ?」シュバルは呆れる。


 山頂へ向かうと、不思議な花々の咲く花畑があった。そこにはお釜の様な穴が大きく広がっていた。

「あの水の池の中にレッドビーはいるのかも。」零音が言う。

「そうだな。しかし、オレは水を潜れない。」シュバルが言う。

「房子おばさんにどうにかしてもらえないかな?」零音が提案する。

「それは名案だ!」シュバルも納得の様子だ。

 鍵の先から光が放たれ房子が現れた。手には手芸用の糸と針、布が。「またかい?何があったのさ?」

「水の中に入りたいんだ。出来るかな?」零音が房子に問う。

「花があるね。この花を使えばいい。大地に根差しているからね。あとは少しの魔法。マーディガルサクティーン!」

 するとあっと言う間に薬草の粉が出来た。「そして背中に花びらを付けるんだ。これで水中も泳げる。」

「君の魔法には驚く。」シュバルが感心する。

「ただし、水の中に居れるのは40分。それを超えると溺れるからね。気を付けて。」

 房子の言葉を残し、零音はお釜の水中へと潜って行った。


 花の妖精の様な姿の零音は水の奥深くへと潜って行く。するとどうだろう、水の奥に炎が燃え上がっている。レッドビーだ。大きなハチは水中の炎のようだ。レッドビーは零音の姿に気付くと水面へ向かった。零音がそれを追いかける。スピードは同じくらいだ。零音がレッドビーに追い付きそうになると、レッドビーは水から外へと飛び出した。零音も追いかけて水の外に出る。「飛べるんだ!この魔法。」そのまま花畑の方までレッドビーを飛んで追いかけると、レッドビーは地上の花畑に慧を落として遠くへ飛び去って行った。


 そこには赤い毛並みをした慧が息絶え絶えになっていた。房子が慌てて駆け寄る。魔法で花畑の花から薬草を作る。

「これを飲みな。」すると慧はみるみるうちに回復した。

「助かったー。」慧の息はまだ荒い。「何があった?」シュバルが問う。

「今回は刺されて気を失った。それだけさ!」慧の返答にシュバルは呆れ顔だ。

「手掛かりは?」シュバルが問う。

「毎度毎度あるわけないさ。何もない!」慧は怒り気味だ。

「でも助かって良かった!」零音が喜ぶ。

「でもその赤い毛は見たことないね。」房子は疑問に思った。

「レッドビーに刺されたからかな?」零音が言う。

「そうだろーな!」慧はまだ不機嫌だ。

「機嫌を直しなよ。さぁ、トマリンの粉だ。」房子がトマリンの粉を渡すと、慧は気を良くした。

「いつもありがとうな!」そう言って粉を口にする。すると慧の赤い毛がみるみるうちにブルーへと。

「何だ!?」シュバルが驚く。「トマリンとの相乗効果だね。」房子が言う。

「とうとう青いウサギになっちまったー。」慧はブルーだ。


 房子を見送った後、三者は水の都アクアを目指した。アクアの宮殿の城壁を見つけるとシュバルは感嘆した。

「水だ。水で出来ている…」それは美しい滝のようだった。

 零音の持っている鍵が光り滝の城壁を照らした。光の先には水をあしらったマークが。すると滝の城壁がカーテンの様に割れ、中を光が照らした。するとそこにチョロチョロとネズミの大群が現れた。

「待ってくれ!小さなネズミは苦手だ。」シュバルが怯える。

「大きなネズミは?」零音が問うと、「大丈夫だ。」とシュバルが答える。

 ネズミの大群は滝の様に上から下へと落ち、やがて波の様に成った。みるみるうちに大きな形をしたネズミと成り、キーキーと騒ぎ出した。

「我は海の子デスラ。私にそのウサギを。」とデスラが言うと、青い毛をした慧はデスラに飲み込まれ、吐き出された。

「またハダカだ。」慧は不満気だ。ネズミの大群は青い毛並みを出し始めた。すると、水面が唸りキミが現れた。

「よくやった!これでまた一歩近付いた。」キミはネズミの大群の集まった大きなネズミ、つまり今となっては水の龍と成ったデスラの背中に乗り、天に消えて行った。


「さぁ、残るは火の龍だ。」シュバルは意気揚々だ。

「待って!この水の中からどうやって出るの?」零音が問う。

 滝の中に閉じ込められた三者は行き場を失った。

「お前には花びらの羽が生えている。あとは薬草の粉だ。まだあるか?」シュバルが言うと、零音はポケットに手を入れ房子から渡された粉末を取り出した。

「時間は40分だ。その間に外へ行き鍵で門を開くのだ。」シュバルが零音に託す。


 零音はスピードを上げて水の中を飛び交った。しかし、海藻が邪魔をする。40分、時間は40分。それほど長い水中ではないはずなのに、中々地上へ出られない。そこにまたしてもあのレッドビーが現れた。レッドビーは零音を貫き、水中から去って行った。


 どのくらい時間が過ぎただろう。40分は過ぎている。息を失くした零音のもとに一人の天使みたいなチョウがやってきた。

「この子、死ぬのかな?」天使は不思議そうだ。するともう一人天使のようなチョウがやって来た。

「生き返らせてあげたいね。」するともう一人、もう一人と大量のチョウが集まって来た。口々に何かを言っているが零音には聞こえない。

「私は虹のチョウ。」一人の大きなチョウがやって来て声を掛けた。「命の源。この方に命を。」

 すると零音の目がゆっくり開き、一言、「こっちに行かない、か。」あっちだのこっちだのと言う夢は零音のお得意分野。また夢を見ていたのだ。虹のチョウは声を掛ける。

「こっちに来たのですね。あなたは誰の子?」

「僕は…龍の子?」うろ覚えの記憶が口走った。

「ならば完成させなさい。火の龍は近くに居るはず。」虹のチョウは旗を振ると大量のチョウ達が零音を取り囲み、零音の意識を飛ばした。


 零音は滝の門の前に立っていた。「ここは…あ!そうだ!門を開かなきゃ。」

 鍵は光り輝き滝の門をカーテンの様に開けた。シュバルと慧が駆けて来る。

「よくやった!零音!」シュバルは嬉しそうだ。

「間に合ったの?」零音が聞き尋ねる。

「時間は35分!ギリ間に合ったってとこかな!」慧も喜ぶ。

「もっと時間がかかったような…」零音にとって疑問が残った。

「まぁいいじゃないか。火の龍を探すぞ、零音。」シュバルが誘う。

「レッドビー…あれが火の龍じゃないかな?」零音は続ける。「虹のチョウが言ってた。近くにいるって。」

「虹のチョウ!?お前、虹のチョウを見たのか!?」シュバルが詰問する。

「うん。夢の中で。」零音は夢だと思っている。

「お前はもしかして一回死んだのかも知れない。あれは復活の女神だ。」シュバルが説明する。

「伝説の知識はお前のじいさん、光良から教えてもらった。」

「伝説はもういい!早く次!火の龍のとこへ行くぞ!」慧は躍起だ。

「わかったわかった。さあ!背に乗れ。」シュバルは二人を背に乗せ、お釜の花畑へと向かった。


 お釜の花畑に着くとお釜の中は水ではなく炎が燃え盛っていた。

「噴火だ。」シュバルは唸った。そこには火を遮るように鉄壁の門が建っていた。

 零音は鍵を取り出すと光の筋が鉄壁の門を照らし炎をあしらったマークが投影された。すると重たい引き摺る様な音と共に門は開き、炎の階段が現れた。

「これを登るのか?」シュバルは怪訝だ。「燃えちまうぜ。」慧も同意する。

「房子おばさんを呼んでみる。」零音は祈った。

 すると房子が現れた。洗濯をしていたようだ。

「この炎の階段を登る方法はないかな?」零音が言うと房子は「火はね、扱えないんだよ。私の力じゃ。」と言った。なすすべはないのか?

 ブーンという音が近寄って来た。レッドビーだ。レッドビーは四人の周りを飛び交いまたしてもハダカネズミの慧を突き刺した。みるみる慧は赤い毛になり炎の階段の奥へ連れて行かれた。

「またか。」シュバルは呆れ顔だ。

「レッドビー。あれに乗れば中へ行けるんじゃないかな?」零音が気付く。

「しかし去って行っただろう。」シュバルが言うと同時に、三人は落胆した。

「花畑にハチがいるだろう。カラフルな。あれはどうだい?」房子の案だ。

「しかし小さい。」シュバルが言う。「小さい者が力になるかも知れない。」房子は優しく言った。

 花畑に向かうと沢山のハチが花粉を集めていた。それが蜂の巣に運ばれて行くようだ。

「蜂蜜は使えるね。」房子が言う。「蜂の巣に向かおう!」シュバルが先頭を切った。

 ハチ達の集まる巣はカラフルに彩られ蜜が溢れ出ていた。蜜を手に房子が魔法をかけるとキャンディの様なものが出来た。

「これを持って行くといい。何かの役に立つはずさ。」と房子は零音にキャンディを渡した。房子はハチにも魔法をかけた。「飛べよ飛べ、この子を火の奥へ連れて行っておくれ。」するとハチ達は一体化し大きなカラフルなハチに成った。零音はハチの背に乗り、お釜の炎の中へと向かって行った。


 鉄壁の門を潜り抜け、炎の階段を昇る。頂上に達すると鉄壁の要塞があった。そこに一匹の中太りのネズミが。

「ウサギは美味じゃ。」ネズミが唸る。するとネズミから赤い毛が背に生え、翼が生まれた。

「我の名はライダ。」炎がうねりキミが現れる。

「キミ!」零音が声を掛けるとキミは「あとは天界で待とう。さらばだ零音!」とライダの背に乗り天へと飛び立った。

「慧が連れて行かれた。」呆然と立ち尽くす零音。

 ハチの背に乗りシュバルと房子の元へ戻る。「慧が連れて行かれた!」

「いつものことだろう。」シュバルが嗜める。「天界へだよ!」零音が訴える。

「キャンディを使えばいい。それとトマリンの表皮だね。その球体。」房子にはもう分かっているようだ。

「それで重力に逆らえる。天界へ行くには、いいんじゃないかい?」二人は頷く。


 房子に別れを告げ、零音とシュバルはしあわせの森へと向かった。そこにはこだんごたちが居た。

「ぼくたちにできることはあるかな?」屈託のない表情でこだんごは零音とシュバルを見つめる。

「今は、おでんの枕の下へ行くことだ。」シュバルが嗜める。

「そうかぁ…」こだんごたちは淋しげだ。

 こだんごたちを背にしてモグラビットの洞穴へ着くと、モグラビット達は大歓迎。

「大怪獣慧から救ってくれてありがとう!」とモグラビット達は口々に感謝の言葉を伝える。

「今、困っているんだ。」零音が打ち明ける。

「トマリンの表皮を使った大きな球体が欲しい。」シュバルが説明する。

「裁縫はボクたちの得意技!」そう言ってモグラビット達はみるみるうちにトマリンの表皮を使った大きな球体を作った。

「ありがとう!」零音が喜ぶ。

「いえいえ。」モグラビット達は地上のしあわせの森までトマリンの皮を運び出してくれた。

 球体に入り、キャンディを舐めるが何も起こらない。

「房子は間違っていたのか?」シュバルが問う。

 すると周りにこだんご、おはぎ、ふりかけ、こはる、こざくら、みそら、みくも、おでん、おでんおでん、おしるこ、さくらんぼ、ちびごま、ちびだんご、くろごまだんご、こゆるり、こゆらり、ありとあらゆるウサギたちが集まって来て、一斉に「グラビティ!!」と声を上げた。

すると、どうだろう。トマリンの皮で出来た球体は空高く、天界へと飛び立って行った。

「ありがとう!!」声が届いたかどうかは分からないが、零音は挨拶をした。


 天界へ向かう途中、零音とシュバルは虹を見た。

「きれいな虹だな。」シュバルが言う。

 すると、虹から天使のようなチョウが沢山こちらに向かって来た。

「龍の子ー!」天使のようなチョウたちは口々に叫ぶ。

「零音、これは…?」シュバルが不思議そうに尋ねる。

「友達だよ!会ったことがあるんだ。」零音は嬉しそうだ。

 そこに大きな一人のチョウが現れた。虹のチョウだ。

「これが伝説の虹のチョウ…?!」シュバルは驚き、「オレは死んだのか?!」と呟いた。

「あなたたちは死を迎えずに天に来たのですね。」虹のチョウが答える。

そこに大きな雲が渦を成して現れ、そこに黒い影が現れた。キミだ!「よくここまでたどり着いたな。」

「この方こそ、土の時代を創った神です。」虹のチョウが言う。

「神?!」零音が驚く。「人の子は神の子…」シュバルが呟く。

「宇宙にお前が解放した龍が集まっている。そこに行け。あの言葉を使う時だ!」

 キミが叫び、「ウロボロス!!」と零音が言うと、宇宙へ向かって太陽と月のマークが映し出された。

「行け!」キミが言うと、零音一人宇宙への光へ乗った。


 零音のもとに土の龍、水の龍、火の龍が集まって来る。ギエス、デスラ、ライダは龍が変わったように懐っこい。

「やっと来てくれた!」「待ってたんだよ!」「時は来た!」三龍は口々に言葉を発した。

 ギエスが「オレは土の力しか使えない。」デスラが「私は水のみ。」ライダが「炎が専門。」と。

「あとは風の力だ。」とギエスが言う。

「僕の力…?」零音は言うと、「そうだそうだ!」と三龍が言う。

 ギエスが吼えると惑星アンガルドに土が隆起し、山を形作った。デスラが吼えると水がその山を削り、ライダが吼えた。すると天に向かいマグマが放たれ、一つの卵が押し上げられた。

「さぁ、あの言葉を!!」と三龍が言うと、零音は「ウロボロス!!」と力強く言った。

 すると一つの卵を強い風が砕き、そこから光と闇が溢れた。

 そこには可愛らしい二頭の龍が現れた。二頭の龍は交わりその口から炎を吐いている。

「これがウロボロス。この形はウロボロスだ。」天からその様子を見ていたシュバルが言う。

 ライダが突然ハダカウサギの慧を吐き出した。「慧!!」零音が叫ぶ。

「わぁーーーっ!!」ハダカウサギの慧は闇の中へ吸い込まれ、二頭の龍のうち一頭の龍に飲み込まれた。

「これで一つは完成。」ギエスが言った。「あとは…」デスラが言う。ライダが「光か闇か分からないが、この先は風の時代。風の龍に任せましょう!」と言った。


そして、世界に新たな光と闇、風の時代の光と闇が生まれた。


そして時代は新たな時を迎える。ここに記した伝説と共に…




ーエピローグー

 零音は虹のチョウの力を借りて、地上へ戻っていた。

 キミの行方は分からない。土の時代が完全に終わったからかも知れない。

 房子は零音を抱き締め、強い接吻をした。そんなことは初めてだったので零音もたじたじだ。

 シュバルも地上に戻り、しあわせの森でウサギたちと影の追いかけっこをして毎日楽しんでいる。

 ギエス、デスラ、ライダは他の惑星の時代を創りにそれぞれの惑星へと旅立った。零音との別れを惜しんで。


 慧…。慧が光の龍と成ったか闇の龍と成ったかは未だに分からない。しかし、毎日天高く意気揚々と飛んでいる二頭の龍を見れば幸せであることが分かるだろう。


 あれ?天の龍一頭がもがき苦しんでいる。

「うえ〜!」何かを吐き出した。慧だ!地上に落とされた慧のもとへ皆が駆け寄る。

「大丈夫?」零音が咄嗟に口にする。

「まいったぜ。天界で聞いた話しだが……。」と慧。


このお話はここまでです。


ー話しを聞くみんなの背後に影がー


END

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