1話 始まる神話
知らない世界、全然違う環境、意味不明な世界の規則的な何かを暴き、正しい方向へ進める。
自分の仲間を探すため、この世界を救うなんて大袈裟かもしれないことをして、別れと出会いを繰り返す。
混乱した世界を正す。
祈りはしない。人々を祈りから解放する。皆が祈りをやめた時、皆の祈りの最後にはどのような景色が見えるのか…。
麦畑が目の前に広がっており、地平線には夕日が迫っていた。記憶は途切れ途切れで、朦朧とした状態だった。
「頭が痛いな…。二日酔いの後みたいだな」
もちろん吐き気はない。眩暈はする。貧血気味といっても間違いではない。自分のいた場所はこんな地平線の彼方が見えるようなところではない。そうだな水平線ならいくらでも見れた…、なぜここにいるのだろう…。
「「グォぉぉぉお」」
目の前をドラゴンらしき物が空を飛んだ。
確信がついた。これは、誰の悪戯で海を飛び越えるはめになるわけでも、俺のいた場所の面積が増えたのでもない。
ここは、俺のいた世界ではない。
「世に人が言う異世界なのか」
頭の痛みや怠さがなくなっていた。状況がよくわからない。
「あ〜、考えても拉致があかん。あのジジイ、何してくれてんだ」
その時、後ろからガシッと頭を掴まれた。
「おい、小僧。麦なんて盗んでも意味ないぞ」
渋い男の声が背後から聞こえてきた。
男の手は丸々俺の頭を囲むほど大きく、自分の体を覆い隠すほど図体も大きかった。
「おかしい。俺は2メートル越えであったはず…」
自分よりでかい奴なんていなかった。この男は俺よりでかいのか。
「何言ってんだ、ガキ。お前はせいぜいあって140センチくらいだ。夢見んな」
男の手を振り払い、その男を見るため振り返った。
男は髭を剃っておらず、片手に酒瓶を持っていた。髪は茶髪でムキムキなおっさんだった。服はシミだらけのタンクトップと汚い皮らしき物のズボンで、腰に地図のような紙を付けていた。
「こんな麦畑で何やってんだぁ?もしや、麦泥棒かぁ?」
自分で何言ってるのかわからなくなったのか、男は笑い出した。
「いや、さすがにな。あはははっ」
人は歳をとると自分の言ったことに笑い出すともいうが、ここまでひどいものなのか?それにまだアラサーくらいだろこの男。
「この辺境に子供は来れないはずだがな〜。おかしいな〜」
男は首を傾げ、俺をガン見した。確かに、辺りには村らしきものも道もない。怪しまれてもおかしくはない。
「おい、お前家はどこだ。送ってやる」
男は考えるのを諦めたのか、自分の髪をわしゃわしゃして聞いてきた。今わかることはこの男はまともということだけだ。
「ない…。というかなんでここにいるのかもわからない」
男は目を大きくしてこっちを見てから、大きくため息をついた。ポッケに手を突っ込み、タバコらしき物を取り出し、口に咥えた。
パチンッ…。
男の指パッチンと共にタバコに火がつき、男は息で過剰に燃えるタバコの火を消し、大きく息を吸った。
「迷い人か、どうしたものか…」
男の口から出た『迷い人』という言葉がなんとなくわかった。『神隠し』などの類と同じなものだろう。
「ま、いっか」
「へ?」
男は吹っ切れた顔をして言った。
「おい小僧、とりあえずお前は保護だ。断じて誘拐ではない」
「はぁ…」
先程、まともと言ったが訂正させてくれ。こいつはただのろくでなしだ。
「さ、帰るぞー」
「ここら一帯何もないけど…」
男は腰にあった紙を広げた。そして、空になった酒瓶を割って、その破片で自ら指の先を切った。滴る血を紙の中心に付け、唱えた。
「テレポート」
俺らの周りが光出した。
「少し時間がかかるぞ。危ないから光の外に手を出したりするなよ。手だけここに残るから」
にやけた顔をしながらこっちを見ていることに苛立ちが出てきた。
「俺はウォル。そういや、名前は?」
名前…。本当のものを出していいもなのか、明らかに違うし、差別をくらうかもしれない。でも、ここに来た仲間達がいるかもしれない。自分を主張できて、シンプルそうな名前は…。
「カムイだ」
男、ウォルは微笑んだ
「いい名前じゃん」
辺りは真っ白な光を放ち、最後に見えたのは夕日で見えなかったが二つの墓石だった。
ウォルは墓参りのためにここに来たのだろうとそこで気がついた。
何も見えない状態がしばらく続いた。
すると、カンッ、カンッという音が聞こえてきた。
「今戻ったぞー」
ウォルは大きな声で言った。
目の前にあった光景は鍛治職人の村だった。
むさ苦しいおっさんが大多数で子供や女性はいないようだった。
「ウォルさん。どこいってたんで〜す〜か〜?」
このむさ苦しいおっさんどもの中で珍しい若者だった。
「げっ」
ウォルはめんどうと思っているのか若者の顔を見て嫌そうな顔をした。
「というか、また転移の魔導書を使ったんですか?もったいない…」
「いいだろ。余るほどあるんだし」
二人は俺を置いて話を進めていた。トンカチの音や鉄の響き渡る音にも負けないくらい大きな声で言い合いをしていた。他の人はまた始まったみたいな雰囲気で笑っていた。
「アンタなぁ、この魔導書一つに軍隊がどれくらい金出すと思ってんの。知の極地が作った物なんだぞ」
「たとえ、無駄遣いだとしても、使わなきゃ。消費期限みたいなものはあるんだぞ」
「王の贈り物を無駄遣いするんじゃないです」
状況がいまいちわからないが、つまり、ウォルはそのなんだ『知の極地』?人類の叡智の結晶的な物を勝手に使ったんだな。
「はぁ、あの二人もつい最近の魔王の暴走で死亡したじゃないですか。ここ一応帝国との国境付近ですよ。一番最初に潰されるのはここですよ」
「わかってる。けどな…」
活気のあったそこの活気もいきなり冷めたようだ。重い空間に圧迫されそうだ。まるで、戦争でも起きているような重さだ。
パンッと若者は手を叩き、話を切り上げた。
「それよりも!」
「この子何ですか…」
ウォルやおっさんどもも含めた人々皆、若者の指先の方にしせんを向けた。すなわち、俺の方である。
「あー、拾った」
適当なウォルの返事に若者の堪忍袋は切れた。
「おいてめぇ、真面目に答えろや」
少し高めの声だった青年はどすの利いた声でウォルに言った。
「えっと、その、麦畑にいたんですよねー」
青年は「はぁ?」みたいな顔をしてウォルの顔を睨んだ。
「ねぇ、君、家は家はどこ?」
「えっと、わからない…」
ウォルは話にならないと判断されたようだ。しかし、ウォルもめげずに青年に話しかけた。
「そいつ、多分迷い人なんだよね。名前だけしか知らないようだったし」
「はぁ?迷い人っているんですか?あ、でもあの人も迷い人だったんですよね」
「まぁ、あいつはただの記憶喪失だった可能性もあるけど」
とまた俺のわからない領域に話は流れて言った。ずっと立っていたからか、仕事していたおっさん達が椅子や飲み物おまけにパンとかくれ。
「お前さん、ウォルの旦那に拾われたんかい?」
1人少し身なりが違うおっさんが話しかけてきた。
「うん」
「へぇ。あいつさぁ、ついこの間に師匠と幼馴染を無くしてね。今、傷心中って感じなんよ」
酒瓶を持って墓参りに行っていた理由を知った。
「それにな、その師匠の弟さんと大喧嘩している最中なんだ」
おっさんは俺の横を座り、干し肉らしいものを口にした。
「一つの国が滅んだんだ。仕方ないだろうよ。ここにいた奴らもほとんどが帝国の難民みたいなものでね」
「はぁー」とため息をついたおっさんは干し肉をじーっと見てからこっちを見て笑った。
「やっぱ干し肉はときどきしか食いたくないな」
おっさんの一言は今まで言っていた愚痴を誤魔化すようだった。どうやら状況は酷いようだ。
「おい、ヴィンクス。お前なら、こいつをどうする」
ウォルは俺らの方を向き、隣にいたおっさんに尋ねてきた。
「いや〜、弟子にするかな。いい、素質を持っていそうだし」
おっさん、ヴィンクスはウォルの中途半端な質問に答えた。
「まぁ、カムイは冷静で賢そうだしな」
「てか、カムイっていうんですか。なんか、しっくりしない名前ですね」
若者ははっきりと言った。俺が子供だとしても失礼だな。普通そうはっきり本人がいるところで言わないだろ。
「僕はメイム。君はここで預かります。カムイ君、よろしくね」
「よろしくお願いします」
メイムは何か悶えてから、俺の前まで顔を近づけた。
「カムイってなんか呼びづらい。ムイ君と呼びます。それとここでは基本敬語禁止で」
「え?」
メイムの勢いはいきなり速くなって、戸惑わせてきた。
「おいおい、メイムさんよー。お前のそのいきなり急接近してくんの俺にとっても怖いから、ガキにゃ恐怖の象徴だぞ」
おっさんの二人は笑って、メイムは顔を少し赤くして言い訳をしたが、おっさん達はそれも笑ってメイムをからかった。
暗かった雰囲気も良くなった。
悪くない。この世界のどこかしらに同じ仲間もいるはずだ。
いずれ会うことができるだろう。




