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 小百合の慰めを受けながら、飲み会の日のことを思い出すと、未だに憂鬱な気持ちになる。加藤の何が嫌かって、そのデリカシーのなさと、そしてそれが許されて当然だと思っている厚顔無恥な態度だ。こうがんむち!まったく加藤のためにあるような言葉だ。

 柿ピーを貪りながら、加絵はあの夜の加藤の顔を思い出していた。


* * *


「わたし、別にぜんぜん加藤くんと気心知れてるって感じしないし、むしろずけずけ物言いするところがきらいです」

 加絵がそう言い放った数瞬後、物凄い静寂が支配した。加絵の酔いが少し覚めるくらいには。遅れて、加藤の爆笑。

「なんだよ、山城サンえらく正直じゃん!」

 何がツボにハマったのか、加藤の笑いは続いている。周囲のざわめきも再び戻ってきた。

 正直ってなんだ、と加絵はグラス片手に思う。そのグラスが空になっているのに気付いて、焼酎の瓶に手を伸ばすと、加藤が「ちょ、山城サン、手酌とかしちゃうの。…くふっ、オレが注ぎます注がせていただきます、くっはっは」未だ笑いを引きずって、さっと加絵の持つ瓶を取り上げてしまった。デリカシーのない奴。

 何が加藤の気に入ったのか知らないが、彼はえらく愉快そうにしている。

「そういえば元カノにもデリカシーないとこが嫌って言われたわ、俺」

 それを口に出して言ってのけるのもデリカシーないけどね、と思ったが、別にわざわざ言ってやる必要もないので、作ってもらった水割りに口をつける。が、

「げほっ…」

「なに、山城サン。大丈夫?」

「大丈夫?じゃなくて!濃い!」

「ごめんごめん、俺あんま作ったことないからさー。大体一緒にいる奴がやってくれるし」

 無言で見つめる加絵に、相変わらずまったく申し訳なさを見せずに謝ってくる。普段、摩擦なく過ごしていくために無意味に口角を上げるのは加絵が大学時代に4年間勤め上げた接客のアルバイトを経て身についた癖だが、酔いのせいか加藤のせいかおそらく両方のせいだろうと思うが、今晩その癖はどこかへいってしまったかのようだった。

 時折、奥の席から視線を感じる。誰のものかなんて、分かりきっているのでそちらの方を見るのは癪だった。元彼がこちらの様子をうかがっている、ということなんて。

 デリカシーがないくせに、妙に敏い加藤だから、やがて加絵が意識して奥の席を見ないようにしていることも、何度も加絵の方に視線が注がれていることにも、気づいたようだった。

「何、あいつとケンカでもしてんの?」

「…してません」

「じゃあ、そんな妙な雰囲気出さなくていーじゃん」

「妙な雰囲気って、ねえ……」

 頬杖をついて、枝豆を食べる加藤。

「じゃ、なに」

 そこは察してひいてくれればいいのに、と思うが、加藤がそんな玉ではないことくらいとっくに分かっている。加絵が話すのを完全に待っている。

「別れました」

「…あ?」

 剥いた枝豆を口に入れる動作を一瞬止めたせいで、口が開いたままになっている。口を閉じろ、みっともない。

「別れました、つい最近」

「いつ」

「先週?先々週?それぐらい」

「なんで」

「さあ」

「なんか理由があんだろ」

「性格の不一致じゃないですかね」

「だから――」

「っていうか、近い」

 離れてください。

 ただでさえ隣にいるというのに、軽く身を乗り出すような体勢のせいで、えらく距離が近づいていた。そもそも、なぜ加藤にこんなに詰問されなければいけないのか、全く分からない。

「加藤くん、あの人と仲いいし、何か聞いてるのかと思ってましたけど…この様子じゃ違うみたいですね」

「……っていうか、前から言おうと思ってたけど、なんで俺には敬語なわけ?あいつには普通だったろ?なんで?」

 さっきまでは楽しそうにしていたくせに、今度は急に雲行きが怪しくなってきた。先程より更に酔いが深まった頭で、よく分からない奴だと思いながら、加絵は見下ろしてくる加藤の眉間の皺を見つめる。いつも軽薄そうな表情なだけに、少し眉を寄せただけでもひどく不機嫌に見える。

「だって、私別に加藤くんと仲よくないので」

「仲良くないって……まあ、そうだけど」

 それが何か?

 加藤は何か言いたそうにしていたが、それは枝豆と一緒に飲み込んでしまうことに決めたらしい。

 加絵も氷が溶けてきてようやくちょうどいい濃さになってきた水割りをあおる。加絵の記憶がはっきりしているのは、ちょうどこの辺りまでだ。




...to be continued.



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