前略、雪だるまの中より
ええ、私は雪だるまの中にいました。
いいえ。何かの隠喩とかそういう話ではございません。
この辺りは積雪量が多いので、1時間くらいで十分な大きさの雪玉が完成しました。
外側に霧吹きで水を吹きかけ、少し凍らせて強度を上げるのがコツです。
中をくり抜き、体育座り状態で入ります。
ただ、少し穴が小さかったのか服を着ていると引っかかってしまいまして……
これがあの時私が全裸だった理由です。
冷たくなかったかって?
冷たいに決まってますよ!痛いくらいでした。
でも、それも醍醐味ですから。
目の部分の穴から外の様子が見られることを確認し、準備は完了です。
数十分後、ターゲットが来ました。
数十分も雪だるまの中に居たのかって?
そりゃ居ましたよ!
実は体育座りのまま完全に雪だるまの中で嵌ってしまいまして……
壊して出ようにも、凍らせて強度を上げていたのが裏目に出ました。
あ、ターゲットというのは会社の同僚の柿崎さんです。
彼女は温泉巡りが趣味で、今週末はここに来ると確信していました。
盗聴?いえいえ、そんな無粋なことはしません。
彼女のSNSと行動傾向から割り出したんです。
自信はありましたが、実際に彼女が露天風呂に現れたときは震えました。
寒さで、ではありません。
あれは、興奮です。
盗撮?いえいえ、そんな無粋なことはしません。
私の流儀として、肉眼で見て心のアルバムに焼き付ける、というスタイルでやらせていただいております。
お湯に浸かる柿崎さんを雪だるまの中からじっと見ていました。
二人の間に流れる静寂はとても心地よいものでした。
その静寂を切り裂いて、男が現れました。
手に包丁を持ち、目出し帽を被った男です。
男は柿崎さんに包丁を突き付けて襲い掛かります。
気づけば私は、雪だるまの底の部分を踏み抜いて立ち上がり、走り出していました。
二人から見れば、突然雪だるまから足が生えたように見えたでしょう。
そのまま男に体当たりを食らわせ、その衝撃で雪だるまの頭の部分がはじけ飛びました。
包丁が怖くなかったかって?
凍った雪だるまの防御力を舐めないでください。
下半身が雪だるまの胴体部分で隠れていたのは不幸中の幸いです。
柿崎さんに恥ずかしいところを見られないで済みましたからね。
悲鳴を聞きつけた従業員が女湯に現れたのは、まさにこの時でした。
私は、その後、大勢の男に拘束され、今ここにいます。
ねぇ、刑事さん。
暖房の温度、少し上げてもらってもいいですか?
どうしても『第3回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』に参加したいがために投稿を始めました。2作目です。
よろしくお願いいたします。




