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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

姉から妹への元気になるキス

作者: 秋田リリ

「んっ」

「ん~」


 私、佐倉茜は妹である萌絵とキスをする。

 妹とキスをするのは普通だと思っていた。

 けれど、高校生に上がるとそれが普通ではないと知った。


 私は萌絵のことが好きだ。

 家族愛でもあるが、一人の女性として好きだ。

 しかし、萌絵は中学生で見た目も中身もかなり幼い。

 だから、彼女を()()にさせるべきだと思った。


「むふっー、これで今日も乗り切れるよ!」

「じゃあ萌絵、気を付けて行くのよ?」

「うん!」


 天使のような笑顔で返事をする。

 この笑顔をいつまでも私に向けてほしいと思うけど、それではダメだ。

 萌絵のことを考えるなら、いつまでもこの行為をするのはよくないだろう。



☆☆☆



「んで、私に相談と」

「ええ」


 私は頼れる親友、木村琴に相談することにした。


「それで、何かいい案はないかしら?」

「う~ん、まぁ、別にそのままでもいいんじゃないの?」

「なんでよ」

「だって茜、萌絵ちゃんのことが好きなんでしょ?」

「ええ。だけど、ダメなのよ。私は萌絵を普通にさせてあげたいの」

「普通に?」


 そう()()にさせるのだ。

 いつまでも私とキスをするのは()()じゃない。


「ええ。私は萌絵のことが好きだけど、それは普通じゃない。だから萌絵には普通に男の人とお付き合いして幸せになってもらいたいの」

「……ふーん」

「だから、お願い! 力を貸してほしいの!」

「まぁ、こういうのはまどろっこしく言うより、正面から言った方が早いと思うわよ」

「……そうね。正面からちゃんと言った方がいいわよね」

「うんうん」

「ありがとう琴、今度何か奢るわ」

「それじゃ頑張ってね~」


 やはり持つべきものは親友だ。今度新作の抹茶プリンでも奢ってあげよう。



☆☆☆



「お姉ちゃんおかえりー!」

「んっ」

「ん」

「ただいま、萌絵。少しお話があるのだけど、いいかしら?」

「うん? なになにー?」


 私と萌絵はリビングに移動する。


「そのね、行きと帰りのね。キ……。キキ……キ」

「キ?」


 どうしてだろうか。

 今朝は妹のためにこの行為をやめるべきと思ったはずなのになかなかに言い出せない。

 心の中がもやもやする。

 けど、これは萌絵に()()になってもらうためにやることだ。


「そのキスをするのは、もうやめましょ!」

「え……」


 萌絵は雷にでも打たれたような顔になった。

 ああ、そんな顔はしてほしくないのに。


「えっと、理由を聞いてもいい?」

「そ、そうね。その……萌絵はもう中学生に上がったじゃない? いつまでも私とキスするのも嫌になるかもしれないからね。今のうちにやめようと提案したのよ」

「嫌いになんかならない!!!」


 萌絵の大きな声なんて聴いたことがなかったからビックリしてしまった。

 ああ、そしてなんだあの言い訳は。

 素直に男の人と付き合って幸せになって欲しいと言えばいいのに。


「も、萌絵?」

「ご、ごめんないお姉ちゃん。でもね。私がお姉ちゃんの事嫌いになるとかありえないから!!」

「そ、そう」

「うん! ぜーーーーーーったい!!」

「あ、ありがとう」

「うん! どういたしまして!だから、これからもキスしていいでしょ?」

「え、ええ」

「わーい!」


 その顔は卑怯だ。

 目をうるうるさせて、捨てられた子犬のような表情でこっちを見るのは。

 なにより上目使いが効いてしまった。

 これからもキスができると喜ぶ萌絵ははしゃぎ疲れ、私の膝枕で寝てしまった。

 私はスマホのカメラで、萌絵の寝顔を取りまくった。



☆☆☆



「それで溜息ついているのね」

「……ええ」


 親友の琴が溜息をつく。


「ちゃんと言ったの?」

「うっ。じ、実は……」

「はぁ、そう。萌絵ちゃんが可愛いから許したと」

「その通りでございます」

「しかも、萌絵ちゃんの寝顔を盗撮することに夢中でキスをやめさせることをすっかり忘れていたと」

「……その通りでございます」

「はぁ」

「……」


 居た堪れない。

 しかも、萌絵にキスをやめさせることを思い出したのは琴からその話を振られたからだ。


「うーん。この手は使いたくないけど」

「おっ!?」

「茜に彼氏がいるってことにして、もうキスはしないっていうのはどうかしら?」

「私に彼氏? ないない。私は未来永劫、萌絵一筋よ」

「設定よ、設定。彼氏がいるってことにすれば萌絵ちゃんはキスしようとは思わないでしょ?」

「そ、そうかしら?」

「まぁ、ものは試しよ。早速今日やってみなさい」


 むむむ。設定とはいえ私に彼氏か。

 ぐぐぐ。私は萌絵一筋だというのに。

 でもこれも萌絵のため。

 萌絵のためならなんだってやるわ。



☆☆☆



「お姉ちゃんおかえりー!」

「萌絵。今日は大事な話があるの?」

「大事な話?」

「ええ」


 萌絵はおかえりのキスができないのが不満で頬を膨らませながら私のあとに続いてリビングに移動する。

 こんなかわいい萌絵に嘘をつくなんて本当はしたくないのだけれど。


「それでお姉ちゃん、大事な話ってなあに?」

「私ね。……彼氏ができたの。だからもう萌絵とはキスできないわ」

「は!? 彼氏!? お姉ちゃんに!!! 彼氏!!!??」

「突然のことで驚くのは分かるわ。私も今日告白されて驚いたもの」

「……お姉ちゃんに彼氏……か……れ……し」

「だからね。もう萌絵とは……」


 キスできないと言おうとした瞬間、萌絵が気絶してしまった。

 それから目を覚ますことなく、次の日を迎えた。



☆☆☆



「萌絵ちゃんが気絶しかたら話にできなかったと」

「ええ」

「もうさぁ、ちゃんと話せばいいんじゃないの?何か遠回りしているように見えるし」

「そうかしら。もう一度ちゃんと話し合うべきなのかもしれないわね」

「無駄な嘘つくのやめて、本音で話しあったほうがお互いのためよ」

「……本音」


 本音か。そういえば一度も本音で話していないな。

 嘘でしか話してないから話し合いにすらならないのだろうか。


「今度こそ、正真正銘本音からの気持ちをぶつければ萌絵ちゃんだってわかってくれるよ」

「ええ、そうね。ありがとう琴」



☆☆☆



「お……お姉ちゃん。お、お、お帰り」

「ただいま萌絵」


 私に彼氏がいる。そう思っている萌絵は最近私に近づくのを躊躇っている。

 ああ、ごめんね。ダメなお姉ちゃんでごめんね。


「萌絵。悪いのだけど、昨日のことで話があるわ」

「……」


 萌絵は俯き答えない。

 きっと彼女の心の中は私では測り切れない葛藤が渦巻いているのだろう。

 ならば、まずはその不安を取り除くとこから始める。


「まず、昨日私に彼氏がいるって言ったけど。あれは嘘よ」

「えっ、嘘!?」

「ええ。ごめんなさい。不安にさせてしまったことは謝るわ」

「嘘。彼氏は嘘。……嘘!?」

「ええ」

「なんでそんな嘘ついたの!!」


 怒られてしまった。でもそんな萌絵の表情すら愛おしい。

 だが、こんなことを想う私は萌絵のそばにいるべきではない。


「萌絵が私から離れてもらうためよ」

「なにそれ」

「ちゃんと、私の本音を言うわ。萌絵、あなたはいつまでも私にくっついていないで離れなさい。それがあなたのためよ」

「なんで。なんでお姉ちゃんから離れるのが私のためなの?」

「こんなことを言うと引かれてしまうかもしれないけど。はっきり言うわ。私、佐倉茜は佐倉萌絵が好きです」

「私も好き」

「いいえ、萌絵の好きは家族としての好き。私の好きは家族としての好きはもちろんの事、一人の女性として好きなのよ」

「……」

「そうよね。やはり気持ち悪いよね。そして私は普通じゃない。だからね、萌絵。あなたには()()になってもらいたいの」

()()?」

「ええ。男の人と付き合って幸せに暮らしてほしいの。それが私の願い。だから、私とキスはしないでちょうだい」

「……」

「話は以上よ」


 沈黙が続く。萌絵は私の本音を聞いて何を思っただろうか。

 すました顔の姉が、実の妹に興奮していると知って引いただろうか。


「私は……いやだよ」

「萌絵!」

「お姉ちゃんのいう普通ってなに?普通の何がいいの?」

「それは……。それが社会の常識だからよ」

「そんな常識いらない!」

「萌絵! いうことを聞きなさい!」

「お姉ちゃん!! お姉ちゃんが言ってくれたことは私のためだって分かるけど! この際私もお姉ちゃんに言えなかったこと話すね」

「萌絵! いうことを!」


 私の言うことをいつも素直に聞いていたのに、どうしてか今日は全く聞いてくれない。

 そして、萌絵は大きく深呼吸して。


「私!!! 佐倉萌絵は! 佐倉茜を愛しています!!!」

「……えっ」

「私もお姉ちゃんと同じだよ! 家族としての好きもあるし、一人の女性としてお姉ちゃんのことが好きなの!!!」

「……萌絵」

「お姉ちゃんが私のためだって言ったけど! 本当に私の為を想うんなら私の事も聞いてよ!! 急に突き放したりしないでよ!!!」


 こんなに感情をむき出しにして話す萌絵を見たのは初めてだ。

 萌絵が私の事を好き、そのことが胸を締め付ける。

 まさか、両想いだったとは……。

 そして自分の間違いに気づく、萌絵のためだと言ってはいたがその実、萌絵の話を聞いていなかったのだ。

 私は泣きじゃくる萌絵を後ろから抱き着き慰める。


「萌絵。ごめんね」

「……キスしてくれるなら……許す」


 萌絵の唇に私の唇を重ねる。


「……許す」

「ありがとう萌絵」


 私とのキスでご機嫌になった萌絵は可愛らしい笑顔を浮かべた。


「それとお姉ちゃんが私のこと好きって分かったし、今のは許しのキスだけど誓いのキスでもあるからね!」

「え」

「私たちはもう恋人ってこと!」

「ふふっ、そうね」

「だからもっとキスしよー!今まで出来なかった分たくさん!!」

「ええ」


 その日の夜は久しぶりに一緒のベッドで寝た。

 そして夢の中で、萌絵がまだ幼く体が弱いときのことを思い出していた。



☆☆☆



「ケホッ、ケホッ」

「もえ、だいじょうぶ?」

「うん。でもちょっとくるしい」

「はやくなおらないかなー」

「うん」

「そういえばパパとママいつもチューすると元気になるよね」

「うん。げんきげんき」

「もえ」

「なーに?おねーちゃん」

「ん」

「んっ!?」

「どうー?元気になった?」

「うん!」

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