魔法少女、喫茶店をはじめる
「メルナには『シャルロ』の味を覚えていただきます」
「よ、よろしくお願いします!」
シャルロ勤務二日目。
昨日はお店自体がお休みだったし、やっていたのが修繕作業だったこともあって、今日が事実上の初勤務。ようやく塗料も乾いて心機一転の『シャルロ』店内、わたしの都会での仕事もこれから始まると思うと感慨深い。
「メルナって舌は肥えてる方?」
「肥えてる……?」
「えっと、グルメさんなのかなーって、その……」
「そうですね、美味しい雑草はたくさん知っています。なので、グルメですね」
「やせ細っている気がするよ。可哀想に。お食べ」
なぜだか憐みの目を向けられた。なんでだろう、雑草というと美味しくなさそうだけど、ちゃんと火を通せば大体のものはいけるというのに。山菜:雑草=1:9で煮込むと、微かに山菜を食べてる気分になれるからおすすめ。わたし、グルメ。
「それでは、いただきます」
焼き色がついたパンを手に取る。焼きたてらしく、ほのかな熱とバターの香りが脳を刺激する。ロア曰く成功作。朝の爽やかな空腹感をみたすため、パンの表面へとかぶりつく。
「ん? んんっ! 焼きたて! 焼きたてです!」
「そうだろそうだろ、焼きたてだからね」
「焼いたばかりのパンってこんな感じなんですね。わたし、初めて食べました!」
「それはよかった。それで、他には……?」
「焼きたてで暖かくて――」
「もういいよそれ!」
どうしてだろう。褒めたつもりだったんだけど、悪いこと言っちゃったかな。でも、焼きたてなところが美味しいんだよね。ホカホカして、ほわほわして、それを自分たちがデザインした店内で食べてるなんて、なんか夢みたい。
「聞き方が悪かった。えっと、焼きたてじゃなかったとしたら?」
「うーん、それ以外は普通ですね」
「じゃあダメじゃん。お客さんが来る頃には焼きたてじゃないもん……」
「ええっ? 『普通に美味しい』ですよ!」
「メルナの基準、雑草だもん」
「そんなことありませんよ。わたしだって美味しくないって思うものもあります」
「例えば……?」
「泥にまみれの雑草とか、枯れちゃった雑草とか……」
「やっぱ雑草じゃん」
よよよと泣いてしまうロア。ああ、元気づけようと思ったのに。
まあ、たしかに美味しいかといわれたら、なんだか普通だなとは思う。
失敗作はどんな感じだったんだろう。あの時食べておけばよかったかも……
「ま、まあ、正直なのはいいことだよね。ささ、お次はコーヒー」
「はい、ありがとうございます」
カップに注がれたコーヒーを受け取る。
よくないことだけど、どう感じてもすごく美味しいって言った方がいいのかな。
わたしのバカ舌でロアを傷つけるのはイヤだ。でも、ウソをついてしまうのはもっとイヤだっていうか――
「メルナ、正直に感想お願いね」
――ロアはこういう人だから。
出されたコーヒーカップを見よう見まねで回して口につける。
大丈夫、ロアがわたしに淹れてくれたコーヒーだ。美味しいに決まっている。
正直に言えば、ロアを傷つけるなんてそんなこと――
「メルナ、どう?」
「普通にマズいですね」
その日、『シャルロ』の店が開くのは一時間遅れたという。
☆ ☆ ☆
「うぅ……、アタシ、向いてないのかなぁ……」
「ごめんなさい。で、でもっ、そんなことありませんよ!」
お客さんが来ない店内でマスターのロアを慰める。店が開いてしばらく経つが、いまだ誰かが入ってくる気配はない。
「そうだ、他のメニューはどうなんでしょうか!」
「ウチはパンとコーヒーのお店しかないよ」
「……えっ?」
改めて、今までどうやって成り立っていたのか不思議だ。そりゃ、パンは普通に美味しいけれど、コーヒーは……う~ん。
――ぐぅ……
「あ、ご、ごめんなさい。つい!」
「あはは、仕方ないよ、朝から何も食べてないし。よし、お昼ご飯作ろう。お客さん誰もいないし、こんなお店誰も来ないし、あはは……」
ふらふらと厨房に入っていくロア。
やっぱり正直に言い過ぎたかなと反省。
店の景観が多少良くても、やっぱり喫茶店である以上は美味しい食べ物か飲み物がある必要がある。でも、美味しいものって何だろう。日向に咲いている紫がかった雑草は普通に美味しいけれど、それではダメらしい。
「はい、……これ、野菜炒め」
「え、もう?」
「ごめんね。アタシが作ったやつで、ホントごめん、あはは……」
謎に謝られる。いつもと逆になった感じがする。
「えと、気にしないでください。その、いただきます」
厨房に入って一分にも満たない時間で出てきた野菜炒め。
シナシナになるまで炒められた野菜の中に香ばしい薫りのお肉が入っている。おてごろなサイズより少し小さめにカットされた野菜を口に運ぶ。
「はむっ……」
ほどよくお肉の油と風味が絡んだ野菜は、柔らかいなりにシャキシャキと歯ごたえがある。野菜の甘みと苦みが丁度良く合わさった味は何ともいえないくらい――
「美味しいです!」
「え……?」
「この野菜炒め、すごく美味しいですよ」
「い、いやぁ、いいって、今さらお世辞とか……」
しょぼくれロアはすぐに否定したけど、わたしの目を少し見つめると、問う。
「マジで?」
「はい、マジです!」
これは本当。
しかし、そっかぁと納得した後、ロアは微妙な顔。
「あの、ロアさんって、得意料理とかは?」
「え? うぅ……」
少しイヤな顔をした後、料理の名前をあげていく、からあげ、とんかつ、焼き魚に焼きそば、あとちょっとしたものだとおつまみ系。完全に戦うべき場所を間違えている人だ。でも、なんだろう、そういうの得意料理だと自分で作ったご飯が美味しそうでいいなとは思った。
「でも、全部お店に出せないしなぁ……」
「どうしてです?」
「う~んと、その、喫茶店っぽくないっていうか……ね?」
少しだけ理解してしまう。
でも、といいかけて引っ込める。わたしなんかがマスターであるロアにこんなことを言っていいのだろうか。ここは元々、ロアのお店だ。わたしは昨日来たばかりの新人。好き勝手いいはずがない。
「……でも」
パステル調の花びらテーブルに目が行く。お店の中全部。ここにはわたしとロアが混ざっている。二人でやっていこうって、ロアも言ってくれた。だから――
「へ、変身」
今度はわたしが厨房に入る。
目をぱちくりさせているロアの元に、魔法少女姿で戻ると腰を降ろす。
「なんで着替えたの?」
「えっと、これを着ると、この服のことしか気にならなくなるので……」
何とも後ろ向きな勇気の出し方だと自分でも思う。
でも、変身していると、例えばスカートの丈が気になってあまり後ろ向きなことを考える余裕が生まれない。よくないことだけど、今は役に立つこと。
「えと、話を戻すと、それでも得意料理をメニューにするべき、だと思います」
ロアが不思議そうにわたしの様子を伺っている。
変だよね、引っ込みたくなるけど、引っ込んだらただ変身しただけになってしまう。だから、もうやるしかない。
「わたし、魔法少女やってました。ホントはこの格好も少し恥ずかしいですけど、でも、助けた人が元気そうにしてると、わたしでもやれたんだって、少しだけ恥ずかしいこともどうでもよくなります。だから……」
頭の中がぐちゃぐちゃになる。
それでも、嬉しかったこととか、大変だったこととか、それを乗り越えたこととか、この衣装を着ていると、色々な感情を思い出せる。
だから、言う。
「きっとロアもこの料理で誰かを元気にすることができます。それはとってもすごいことです。だから、どう、でしょう。……じゃなくて、やりましょう!」
言葉を全部出しきった。
わたしは、ロアが誰かを元気にするところを見てみたい。それだけだった。
本当なら、変身なんてしなくても、すぐに伝えられるようなこと。それでも、今のわたしにはこうして勇気を生み出すことが必要だった。そしてその勇気は――
「よし、やろっか」
――ロアが受け止めてくれた。
「本当ですか?」
「うん、メルナが言うんだもん。やってみようよ」
メニューいっぱい作るから、試食よろしくと厨房に走っていくロア。
どことなくその後姿が楽しそうで、でてくる料理を想像してお腹が鳴る。
ロアが作る料理の音を聞きながら、静かに机にもたれかかる。
喫茶店っぽいなと、なんとなくそう思った。
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