メルナ、魔法少女になる
魔女の家系に生まれたと理解するころ、わたしは箒で空を飛んでいた。
なんで箒なのかはわからない。昔から決まっている『でんとー』とかそういうものらしい。わからない。思えば、わからないことはいっぱいあった。例えば、わたしが住んでいる山の向こうに何があるのかとか、おばあちゃんが作るご飯はなんで味気ないのかとか、あとは、わたしはなにができないのか、とか――
わからないなら本を読みなさい。おばあちゃんはよく言った。何もない山の奥だけど、本だけはいっぱいあった。わたしが大好きなお話の本とか、図鑑とか、そういうものをおばあちゃんは山の外まで出て買ってきてくれる。一回だけ、おばあちゃんに内緒で外に出ようと思ったけど、すぐに見つかって怒られてしまった。それが、最初で最後に怒られた経験だったと思う。
「メルナちゃんは本当に優秀ねぇ」
おばあちゃんはよくわたしのことを褒めてくれた。泣いちゃったのかと思うくらいに目元をくしゃくしゃにして、痛いくらいに撫でてくれた。あとは、飴玉を一つ口の中に入れてくれた。うえってなるくらいに甘い飴玉だったけれど、我慢して最後まで舐めていた。たまに、途中で噛んでいた。でも、美味しかった。
わたしはお話の本が好きだ。おばあちゃんが遊んでくれないときはずっと読んでいた。綺麗なお花を育てる庭師さんのお話、美味しい料理を作るコックさんのお話、世界を旅する冒険家さんのお話、色々あったけど、おばあちゃんはよく魔法使いのお話の本を買ってきた。
中でも、『魔法少女』のお話は好きだった。
かわいいドレスを着て、キレイな魔法でみんなを笑顔にする。わたしは、魔法少女になってみたいなと、ずっと考えていた。
「ねえ、おばあちゃん。『少女』ってなぁに?」
「そうだねぇ、メルナちゃんみたいな女の子のことかね」
「じゃあ、じゃあ、わたし、魔法が使えたら『魔法少女』なの?」
「そうだねぇ、オババが魔女だから、メルナちゃんは魔法少女かね」
味の薄い夕飯を食べながらそんなことを聞いた気がする。
この言葉を聞いてから、わたしはより一層魔法の練習を頑張るようになった。お話の中の『魔法少女』はわたしにもなれるものなんだという希望が何よりも背中を押してくれた。
おばあちゃんのいない時もわたしは魔法の練習をいっぱいした。気づけば箒に乗らなくても空を飛んでいた。だって、お話の中の『魔法少女』は箒に乗っていなかったから。きらきらした魔法を出せるようになった。ハートとか、お星さまとか、そういうのがいっぱいついた魔法が出せるようになった。おばあちゃんに怒られたから、きらきらつきでもいつもよりたくさん魔法が使えるように練習したら、許してくれた。
あとは、かわいいドレスだけ。
お家にある服を組み合わせてもみたけど、これだけはどうにもならなかった。あんなキラキラした服は持っていないし、長くて白い手袋とか、膝まで隠れるブーツとか、そんなの見たこともなかった。
そして、それを手に入れるチャンスはすぐにやってきた。
――時をさかのぼれるとしたら、わたしはこのチャンスをやり直すだろう。
「メルナちゃん、これがオババが教える最後の魔法だよ」
「さいご……?」
「本当は、あと二十年ぐらいしてから教える魔法なんだけどね、メルナちゃんは優秀だから、教えることなくなっちゃったんだよ」
おばあちゃんはどこか寂しそうだった。でも、いつかこうなるとは小さいなりに思っていた。だって、昨日はおばあちゃんに内緒で外に出たけど見つかることはなかったから。残念なのは王都まで出向いても、魔法少女のような大きなリボンを見つけることができなかったことぐらい。
「変身の呪文を教えるよ」
「変身!?」
欲しかったおもちゃを与えられた時の気分だった。
そのおもちゃは当時のわたしには遊びきれないほどのものだった。本当に。
「魔女の力を使うための準備みたいなものさ。なりたい姿を思い描くんだよ」
おばあちゃんがこんな風にと片方の瞳を青く輝かせる。思い返してみれば、おばあちゃんは魔法を使う時いつも瞳の色が変わっていた。あまり大きな変化にはしない方がいいと、多分注意された。これはある種の儀式だ。ここで決めた変化はわたしがわたしである限りずっと引き継がれていく。慎重になるべきだ。なれ。
それでも、若き野望を抱くわたしは聞く耳持たなかった。だって――
「魔法少女トゥインクル☆ハート! 参上! 可愛すぎにご注意だよ!」
――名乗り口上まで決めていたのだから。
呆気にとられるおばあちゃんの顔なんて見ていない。夢にまでみた衣装や桜色の髪の毛が手に入ったのだ。輝く瞳は桃色に、中にはハートと星模様。瞳の変化で終わらせていてもきつかった気がする。ただ、当時のわたしはこの姿がうれしくて、数年後の後悔なんて知るよしもなくて、短いを通り越してきわどい丈のスカートを揺らしていた。
これが、全力でなりたいものを追い求めていた、幼少期のわたしというものだ。
月日が経ち、煌びやかな魔法少女姿を呪いだとすら思っている現在のわたし。
あのときの記憶は後悔しかない。
おそらく、これは夢。良くない夢。
ただ、なぜか、わたしはあの時のわたしを少しだけ羨ましいとも思うのだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
今回は番外編のようなものです。
本日中にもう一話投稿予定です!
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