魔法少女、グランプリに参加する
「ヒヨナ商店街グランプリ……ですか」
ここ、シャルロは王都の端のヒヨナ商店街に建っている。
そこら辺のもろもろの付き合いはマスターでありコミュニケーション能力に長けたロアにお任せしているので、わたしはよくわかっていない。
ロア曰く、ここはまだまだ田舎らしいけど、そうなのだろうか。
少なくとも、商店街どころか道すらない村から出てきたわたしにとって、ヒヨナ商店街は大都会そのものだ。お店あるし、公園あるし、最高!
「あんまし興味ないかも。捨てといて」
「えぇ、楽しそうじゃないですか」
グランプリのお知らせのハデハデな文字に惹かれて読んでみる。
毎日ポストに入っているチラシというものを読むのがわたしは好きだ。
ロアはあんまり興味を示さないけど、なんでだろう。楽しいのに……
「何を読んでいるんだい?」
「チラシです! キューさんも面白そうだと思いますよね」
「少なくともメルナの方が面白いと思う」
興味なさそうだなー……。
とはいっても、一応目を通してくれるのはキューさんのいいところだ。
キューさんの部屋の機械のように、感情のない瞳でチラシを読み上げる。
「グランプリにはチェーン展開用の資金も援助。……大きく出たね」
「チェーン……展開? なんです?」
「簡単に言えば、ここの他にもシャルロを作ることだよ」
キューさんは景品のところを指さして教えてくれる。
『トレンダ』という大きな企業が関わっているらしく、今回は豪華らしい。
グランプリさえとれば、チェーン展開のサポートをしてくれるらしく、そうなれば、いずれシャルロが世界中に出来るってことか。なんかすごいな。
でも、肝心のマスターはあまり乗り気じゃないしなぁ……
「――出よう。グランプリ」
「えっ?」
「チェーン展開、やろう」
お店の端で眠そうにしていたロアがチラシを手に取る。
さんさんと輝く瞳には、絶対にそうするという強い意志が感じられ、
かくして、シャルロのグランプリへの挑戦が始まるのだった――
☆ ☆ ☆
「――ふむ、ルールはこんなもんかね」
その日の夜、ロアと一緒にルールを確認した。
ヒヨナ商店街に面している店ならどこでもエントリー可能。
再来週一週間の売り上げを比べ、最も高いものがグランプリ。単純だ。
他にも、既に商談が成立しているものはグランプリの売り上げに計算しないとか、様々なルールがあったけれど、喫茶店のウチには関係ないものばかり。
とにかく、来週一週間売って売って売りまくる。それが大事だとロアは言う。
その認識で問題ないと思った。
「これ、勝てるもんなんですか?」
「うーん、今のままじゃ厳しいだろうね。そこで作戦がある」
「……作戦?」
ロアがノートを取り出した。
そういえば、今日一日、お仕事の合間にこんなものを書いていたなと思い出す。
「ひとまず、一週間限定でご飯の値段を極限まで下げるよ」
「どのくらいです?」
「この値段で行く」
用意周到だなと感心する。しかし、そんな関心もすぐに吹き飛ぶ。
ロアが用意した値段はいつも売っているものの半額以下。ものによっては八割ぐらい引かれているものまである。こんなに下げて大丈夫なのかな……
「ちゃんと売り上げは出るようになっているから大丈夫だよ」
「そう、なんですか……」
指摘されてノートの隅を見る。
材料費が書かれていて、一つを除いて売り上げはちゃんと出るようになっていた。ただ、原価ギリギリだなと、そこだけが心配。しかしそこは、たくさん売れればその分儲けが出るとロアがフォローしてくれる。
「この『焼き魚定食』だけ、売り上げが出ないみたいですけど」
「そこも大丈夫。そもそもあまり出ないメニューだし」
それに、ここを利益が出るようにしてしまうと全体的に高く見えるらしい。
リスクもあるけど、その分いいこともあるんだよと教えてもらう。
少し無理はあると思うけど、値段に関しては大丈夫かな。
「あとは、営業時間を増やそうと思ってる」
「営業時間ですか?」
「そうそう、開店を一時間早めて、閉店を一時間遅くするんだ」
確かに、閉店時間すれすれにやってくるお客さんも少なくない。
価格のセールと組み合わせれば、それなりにお客さんが増えそうだなと思う。
でも、……大丈夫かな?
「大丈夫、メルナはいつも通りでいいからさ」
「いえ、わたしも頑張ります」
「そっか、それは心強い。まあ、でも、無理はしないでね。秘密兵器もあるし」
ふっふっふと不敵な笑みを浮かべるロア。
なんだろう、首を傾げるけど、お楽しみとはぐらかされてしまう。
結局、限界ギリギリのセールに営業時間の拡張、シャルロではこの二軸をベースにグランプリを戦うことに決まる。
ロアが大丈夫だというと、わたしもそんな気がしてくる。
ここ最近はずっとそうだったのだけれど、どうしてだろう。何か引っかかる。
少し肩に力が入りすぎているような……
☆ ☆ ☆
「メルナちゃん、ごちそうさまね」
「はい、ありがとうございます!」
ロアの戦略は見事に当たり、グランプリ初日、シャルロは盛況。
開店を一時間早めたのも、一週間前からの告知の甲斐あり、列ができるほど。
行列がそのまま宣伝となり、昼過ぎの今まで客足が途切れたことは一度もない。
「メルナ、これを5番卓に届け、2、4番卓の皿を下げて戻って来てくれ」
「わ、わかりました!」
「急がなくていい。足元だけに気を付けていってくるんだ」
ここまで忙しいのに転ばないのはキューさんのおかげ。
今日に合わせてお休みを取ってくれたらしく、厨房の椅子に座り指示をくれる。
お客様の頼んだメニュー、年齢、性別などから食べ終わるタイミングを予測しているらしく、おかげで店の回転率が凄まじい。
「キューさん、2、4番卓空きました」
「よし。おつかれさま。1番卓に料理を届け、7番にお水を注いでから、お客様を「4番、2番の順番で通してくれ。ロア、生姜焼きと親子丼の準備を頼む」
「わかりました」
「あいよー!」
キューさんは来たお客さんの顔つきを見て、注文する料理を当てる。
これもまた、顔色とか性別とか、あと歩き方を見ればわかるらしい。名探偵。
この注文予測があるおかげで、わたしが注文を聞く前から料理が作れているのも回転率向上に大きく貢献している。すごいや、科学者さん。
「メルナの記憶力と冷静さがあってのことだよ。五分、休憩してくれ」
「あ、ありがとうございます」
キューさんはこうして、あえて暇な時間が出来るようにしてくれている。
おかげで一時間に五分、定期的な休憩を取ることが出来ている。
五分でこの忙しさの回復ができるのかとも思ったけど、そこは秘策がある。
「はぅ~……、うぐっ、わわわわわわわわ――」
キューさんが持ってきた大きな椅子に座って、ボタンを押す。
一瞬くすぐったさに襲われるけど、すぐにツボを押されて動けなくなる。
ちなみに、声は出さなくていいらしいけど、なぜかわたしは声を出してしまう。
ロアはマッサージくんと呼んでいたらしいが、正確にはキュウメイザーらしい。
キュウメイザーって何なんだろう……
それにしても――
「ロア、それが終わったらキミも休憩にいってくれ」
「大丈夫だよ。仕込みして、買い出しして、あとお店の掃除もやんなきゃね」
「そういって、朝から一度も休んでいないぞ……」
――大丈夫なのだろうか。
ここ数日のロアはどことなく余裕がない。
料理の質も落ちていない。話しかければ笑顔で返してくれる。
その点はいつものロアだけど、他の、わからない部分で何かが違う気がする。
わたしも上手くはいかないけど、でも、このままだとマズい気がする。
そんな不安を抱えながらも、シャルロは順調に売り上げを伸ばしていく。
一日で十日分以上の売り上げを出し、来客者数も日に日に増えていく。
前後計二時間だった営業時間の延長も好評につき六時間伸びた三日目の深夜。
わたしはキューさんに呼び出された。
「秘密兵器が完成した」
「なんです、それ?」
一瞬、何のことだかわからなかった。
しかし、すぐに数日前にロアが言っていたものだと思い出す。
ああ、なんだかいつもより頭が回っていない。
正直、村でほぼ二十四時間働き続けていた経験がなければ、今頃倒れている。
「まあ、大したものではないのだがね。便利なキッチンだとでも思ってくれ」
「これ……、ですか」
「ああ、調理機能付きキュウメイザーだ」
「これもキュウメイザーなんですね」
キューさんの部屋の一角にキッチンが出来ていた。
シャルロの厨房で使っているものより新しく、色々なものがついている。
炒め物をするのに使う火口が二つから四つに増えているのがぱっとわかる進化。
「この冷蔵保管庫が大きい。ここに入れておけば、生ものも腐らないし、作り置きも可能になるだろう。買い出しに行く頻度は大きく減る」
わたしよりも大きな箱をキューさんが開く。
中からひんやりとした空気が出てきて、少し寒かった。
でも、これがあれば氷と一緒に保管しなくてもいろんなものが痛まなくて済む。
「すごいじゃないですか。早速、ロアに――」
「渡すかい?」
「……え?」
「これがあれば、客の回転率は格段に上昇する。ロアの作業量もその分増える」
キューさんが感情を押し殺したように言う。
ロアはこの三日間、もっといえばグランプリに出ると決まったときから休んでいない。やるからには全力で、お客さんには最高のものを提供したい。ロアの妥協を許さない性格は、今回裏目に出てしまっている。
もっとも、それだけではないような気もするのだが……
「ぼくはロアの夢を応援している。協力を惜しんだことはない」
「わたしも……、です」
「しかし、今回に関してはそもそも無謀な挑戦だ。メルナもわかるだろう?」
「…………はい」
薄々感づいてはいた。
ヒヨナ商店街に数あるお店の中でもウチは新参、言ってしまえばまだまだ。
頑張るにしたって限界はある。
現状、グランプリを取るには、多少道から外れた行動か、もしくは誰かが無理をする必要がある。前者は、例えばわたしが魔法を使うなど。『魅了』の魔法があれば、グランプリも見えてくる。キューさんの機械の中にもそういった類のものはきっとある。でも、それを使って成功を掴むことをロアがなんて思うか、考えるまでもない。
だとすると、残された道は一つ。誰かが無理をすること。
これは現状そのものだ。ロアが無理をして、本来成し得ないことをしようとしている。この調理器具を渡せば、きっと道は見えてくる。でも、その分ロアは――
「キューさん、このキュウメイザー、わたしに託してくれますか?」
「元々そのつもりだ」
キューさんは最初から決まっていたように頷く。
「シャルロはロアとメルナの店だ。ぼくの友人を頼む」
「はい」
そうだ。わたしはロアの夢を応援する立場じゃない。
ロアと一緒に夢を叶える立場なんだ。
だからこそ、背中を押してあげる選択肢以外を選ぶ時だってきっと来る。
「任せてください」
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