魔法少女、助手になる
「こういう場所ではよくあることだよ」
「そう、なんですね」
「気にしていたらキリがない。仕方ないことだと割り切るのが一番いい」
その通りだと思っていた。
だから、村でも理不尽な言葉をずっと受け止めて生きていた。
あの時はそれが正しいと信じていたけれど、果たしてそうなのだろうか。
「さて、それでは手伝いを頼むよ」
「は、はい」
キューさんの部屋はおおむねさっきの地下室と同じ雰囲気だった。
白い部屋に機械がいっぱい。なんだろう、研究室って全部こんな感じなのかな。
少し気になりながらも、キューさんの指示に従って荷物を仕分けする。
ベッドとか、机とか運ぶのかなと思っていたけど、違ったようだ。
「あの、キューさん。これは……?」
「キューメイザーだ」
「きゅー……めいざー?」
変わった形の機械に梱包材を撒きつけ、箱に入れていく。
ロボットの一種だと言われたけれど、ロボットって何だろう。
一つだけ、この間のブーツを見つけた時は安心した。
――ヴヴヴヴ。シュイ―ン。
「わわっ! な、なに! なんですか!?」
「キューメイザーだ」
「だから何ですか!?」
「それは、ホットカーペット機能を付けようとして失敗したキューメイザーだ」
「ほっと、かぺと?」
「とても強い火が出る」
「わ! わわわわ!?」
ボンっという音と共に、平べったい機械から火が出た。
キューさんが他の機械を持ってきてそれを消化してくれたけど、危ないよ。
引っ越しのお手伝い、思ってたより命の危険がありそうだ。
恥ずかしいけど、変身しようかな。
「キミもロアと同じで機械が苦手なタイプだね」
「え、ほんとですか。……えへへ」
「なんで嬉しそうにする。まあ、いいよ。向こうで書類を整理してくれ」
「は、はい!」
戦力外通告は少し悲しかったけど、危険からは離れることができた。
今度はキューさんの机周りの書類をまとめていく。
ここなら危険はないはず――
「って、きゅ、キューさん、なんですかこれは!?」
「うん? ああ、かわいいだろう」
「これ、わたしの写真ですよね!」
書類の山の中から出てきたのはわたしの写真。
これは例のうさ耳のやつじゃなくて、パンの実演販売をしたときのもの。
改めてみると、やっぱりすごい格好だな、魔法少女。
「これ、ロアにも渡しましたよね!?」
「渡してくれたか。よかったよ」
「そうじゃなくって……、もー……」
「すまない。ただ、あまりにも愛らしかったから知ってほしくてね」
「あ、愛らしくなんて、……ないです」
おかげで、ロアと半日だけギクシャクしてしまった。
ロアはあの写真を枕に、なんて、偶然だとしても少しうれしい。
もしかして、ロアの手に渡ってよかったのかな。いや、でも、だったらもうちょっと普通の格好してる写真がいいな。あと、できればわたしもロアの写真がほしい。どこかに紛れてたりしないかな……
「それで、この資料はなんなんですか?」
「ああ、メルナについての実験だ」
「わたしについて……?」
わたしの写真は一枚の紙に貼られていた。
そこには写真の他にも難しい計算式とか書いてあって、よくわからない。
そんな顔が科学者魂を刺激してしまったのか、キューさんはわたしから資料を取ると、机に座って解説をしてくれる。
わたしに話してもわからないと思うんだけどな。
それに。
「あの、大丈夫ですか?」
「何がだい?」
「これ、引っ越しの準備終わらないパターンでは、と」
「大丈夫、引っ越し準備機能付きキュウメイザーを起動した」
巨大な機械が、他のロボットを仕分けしていた。
何でもあるな、ここ。
☆ ☆ ☆
キューさんは『魔装学』と呼ばれるものを研究しているらしい。
産まれつき、もしくは何かの事故で魔力を失った人が安全に暮らしていけるように衣服やアクセサリーに魔力を宿すことで補助をする。それによって魔力に不自由のある人間が生きやすい世の中を作るという研究だそうだ。
すごいなと、ただただ感心してしまう。
「まあ、メルナの研究はまた別だけれどね」
「別、なんですか?」
「ああ、何かしら応用も出来そうとは思っているが、この研究はまた別だ」
「はぁ」
「『かわいい』という曖昧なものをどう魔力に変換するのか、それを調べた」
わたしの力の源は『かわいい』という得体のしれないもの。
感情、ないしは感想の一種であるものを魔力へと変換して魔法を生み出すだなんて、わかっていても理解はできていない。それをキューさんは調べてくれていたそうだ。
見れば、わたしが見つけたもの以外にも、わたしについての資料はたくさんあった。様々な文献を読み、少しでも関連性があるものは出典と共に記されている。
「どうして、わたしのことを……」
「どうして、か。まあ、気になったから、かな」
少し悩んで、何かに納得したように言葉を付け加える。
「それと、メルナの作るパンが好きだからかもしれない」
ああ、この人はロアの友人なんだなと、なぜかここで思った。
だから、わたしが気負うことはない。
きっと、わたしはキューさんとももっと仲良くなれる。
「キューさんの研究、わたしに出来ることがあれば手伝います」
「ふむ。キミなら歓迎するよ。まさか本当に助手になってくれるとは」
「じょ、助手? そんな大層なものじゃなくていいです……」
「なに、こちらも研究所を追い出された身だよ。気長にやろう」
わたしの悩みに答えは出ない。
ロアと暮らす相手がわたしだけじゃなくなるんだなと思うと、それはそれで寂しい気持ちもある。でも、不安と期待を並べた時、今なら期待の方が大きいなと感じることはできた。だから、もう大丈夫。
ロアとも、それにキューさんとも、これからもっともっと仲良くなれば、きっと寂しさなんて感じている暇はなくなる。
だから、わたしはキューさんの手を握る。
「ふふ、そうですね」
☆ ☆ ☆
「そんな、ひどい……」
キューさんの荷物を載せた台車、そのタイヤ部分が火で炙られ穴が開いていた。
明らかに人工的な故障、その犯人ですと言わんばかりに、研究員たちが笑っている。さっきの二人を含んだ十数人、この中の一部、いや、おそらくはみんなで……
「仕方ない。一つずつ運ぶとしよう」
「でも……」
そんなの無理に決まっている。大きな台車にようやく収まるほどの量なんだ。これでは何往復するかわかったもんじゃない。それに、ここに荷物を置いたまま離れれば、あの人たちがどうするかわからない。
「メルナ、怒ってくれるのはありがたい。でも、どうにもならないんだよ」
キューさんは言ってくれる。
それはわかる。どうにもならない。
わたしも、村人たちの理不尽に抗ったこともあったが、どうにもならなかった。
結局は逃げるのが精いっぱいで、今もたまに怯えている。
「はははっ、おいおいまさか手で持っていくつもりかぁ?」
「あーあ、助手にも逃げられて台車も壊れて、散々ねぇ」
あの時と同じだ。
だから、今回も同じ結果になるのだろうか。
わたしは、あの時と何も変わらないのだろうか。
「変身」
そんなことは絶対にない。
目の前で起こる魔法による現象に研究員たちが目を丸くする。
人前で変身するのはあまり好ましくないけど、会うのは今日で最後だろう。
「メルナ、一体何を……」
「助手ですから、荷物ぐらい持ちますよ。シャイニーリボンボン!」
背中のリボンを大きく広げて、箱を一つ一つ包んでいく。
手で運んだときは重かったけど、リボンがあれば全く重さを感じない。
その様子を見て、研究員たちが口をパクパクさせている。
「な、なんだあの子……」
「うそ、あんなの魔法だとしてもあり得ないわよ……」
すぅーっと、大きく息を吸い込む。
何も言う権利はないと思っていたけど、それは職務怠慢だ。
わたしはキューさんの助手なんだ。だから、このくらいは言うべきなはず。
「わたしは! キューさんの! 助手です!!」
わたしは声があまり大きくない。
それは魔法少女になっても変わらず、叫び慣れていないから声もひょろひょろ。
でも、さっきまでキューさんに囁かれていた陰口よりは十分大きい声が出た。
「お勉強とかわかりませんけど! キューさんの昔の助手さんのことは知りませんけど! わたしは! 一生キューさんの助手で居続けます!」
魔法少女に変身しているのに息が切れきれだ。
顔が熱い。頭がキンキンする。でも、キューさんへの陰口は止んだ。
もう少し何か言おうかと、色々頭を回していると、キューさんに手を掴まれる。
「メルナ、行こう」
「で、でも、いいんですか?」
「ああ、いいよ」
呆気にとられた研究員たちを見て満足そうな表情を浮かべると手を引く。
わたしの顔をじっと見つめて、冗談のように言う。
「こんな面白い助手ができたんだ。他に構ってる暇はない」
面白いってどういうことかな。
不思議と馬鹿にされてる気はしないけど、うーん。
頼りになる、じゃあ違うし、頭がいい。はよくないし……
――ぐぅぅうぅぅ……
「あう、……ごめんなさい」
「ふふ、仕方ないさ。いっぱい頑張ってくれたからね」
面白い、なのかな、わたしは。
なんか他の言葉に変わるように頑張ろう。お勉強とか、お仕事とか、色々。
「何か食べたいものはあるかい?」
「えっと……、キューさんは何かあります?」
「そうだね――」
くすりと、静かに笑ってわたしを見つめる。
少し足を速めながら、いたずらっぽい顔でこんな答えを出した。
「今日は甘いパンが食べたいかな」
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