魔法少女、引っ越しの手伝いをする
その日の朝日はなんだかとっても素敵だった。
窓を開けて、さわやかな風を感じて、お気に入りの服へと着替えて部屋を出る。
大好きな友人の「おはよう」を聞きながら朝の支度をするべく喫茶店へと赴く。
誰もいないフロアに一日の始まりを感じつつ、外へと出る。
「…………え?」
そこにあった屍を見たところでさわやかタイムは終了する。
喫茶店の扉近く、薄茶色の髪の毛の少女がうつぶせで倒れている。
なんでこんなところだとか、この子に見覚えがあるとか、今はそこまで気が回らない。ただただ、さわやかモードとは真逆の屍に背筋を震わせる。
「なっ……にょわぁぁぁぁあぁぁぁっ!!!!」
☆ ☆ ☆
「いや、いきなりすまなかったね……んぐ、もぐ……うっ!」
「大丈夫ですか? キューさん」
生き返り、もとい起きたキューさんはいつかのように両手でパンを食べる。
久しぶりだけど、まさかこんな会い方をするとは……
でも、なんでウチの店先に倒れていたんだろう。まさか、パンがほしすぎて徹夜で並んでいたとか? ……ないな。
「実は住む場所がなくてね。ここを頼りにしてみたんだが、力尽きた」
「住む場所がないって、それまたなんでです?」
「仕事をクビになった」
クビ?
なんだか想像がつかなかった。キューさんは科学者と聞いている。
どんな仕事か、いまいち想像がつかないけど、クビになるような仕事なのかな。
それに、クビになった割にはのほほんとしてるなー。
「お、今度は長いなと思ってたんだけどね」
「そうだね。あそこの紅茶は美味しかったから、もう少し在籍したかったのだが」
「しゃあない。ま、しばらくウチにいなよ」
ロアがにししと笑う。
でも、うちにはもう空き部屋がなかった気がする。
わたしとルームシェア? もしくはロアとルームシェア……かな。
あ、わたしとロアが同じ部屋ってのもありかもなー、なんて。
「恩に着るよ」
「ねね、キュー。アタシ、久々にキューの部屋に行きたい」
「構わないよ」
「え、キューさんの部屋なんてあるんですか?」
「おお、よくぞ聞いてくれた。驚くなよー! すっげーぞー?」
いつもよりロアのテンションが高い。
キューさんに会えてやっぱり嬉しいんだろうな。
残ったパンをロアがキューさんの口に押し込んで、厨房の柱をコンコンと叩く。
カパリとケースが開いて、たくさんボタンが出てくる。こんなんなってたんだ。
「ねえねえ、何番だったっけ?」
「9を9回だろ。ロアがぼくの部屋だからとふざけたんだ」
「あ、そうそう、キューの部屋はきゅーがきゅーかいっと」
上機嫌なロアが『9』のボタンを9回押す。
何の話だろうと思っていると、ガシャンと大きな音が響いた後、壁が開く。
いきなりの超常現象に驚いていると、ロアたちは、壁が空いた先の部屋に入る。
「な、何が起こっているんですか? そ、そこがキューさんのお部屋?」
「いや、これはぼくの部屋に続くエレベーターだ」
「えれ……べーた?」
「移動用の小部屋のようなものだよ。さあ、早く」
「え……、えぇ」
大丈夫なのかな……
ロアにも手招きされたので、恐る恐る脚を入れてみる。なんか少し揺れてる。
壁が真っ白で、ギリギリわたしが横になれるぐらいの狭い部屋。
移動用って言ってたけど、キューさんの部屋は他にあるってこと……?
「よっしゃ、ゴーっ!」
「え? これ、なに、動いて!? わひゃぁっ!!」
部屋がなんか下に向かって落ちてる気がする。
え、これ大丈夫だよね、大体ここ一階だし、じゃあどこに向かって落ちてるの? もしかして世界の裏側とか? だとしたら大変なんじゃ……
「大丈夫だよ。ほら、抑えててあげる」
「ほ、ほんとですかぁ……、わわわわ、ひゃぁぁああ!!」
耳が変な感じする。
わたしはせっかくロアに抱きしめてもらったのに、その感覚を噛みしめることなくぶるぶると震えていた。ああ、死ぬ。帰ってこれないかもしれない。
「着いたよ」
「せ、世界の裏側ですか……?」
「裏側? やっぱりメルナはおもしろいね。でも、違うよ」
厨房に続いていたはずの扉が開いて、真っ白で大きな部屋が現れる。
それを見たロアが、わたしを離して駆け出していく。ああ……。
怖かったけど、このエレベーターとかいう部屋よりは安全な気がしたので、わたしも後に続く。謎の機械が並ぶ、不思議な空間が広がっていた。
「ここ……どこですか?」
「ぼくの部屋だよ。まあ、一年以上使っていないけどね」
「位置的には、シャルロの地下一階ってとこかな」
地下なんてあったんだ。
しかも、物が置いていないからかシャルロのお店よりも広い気がする。
でも、地下なんて大丈夫かな。もし、上がすっぽ抜けちゃったらどうなるんだろう。うーん、わたしには住むのは難しそうかも。
「さて、荷物を持ってこなくては」
「お、住む気満々だねー。いいよいいよ。あ、お掃除ロボくん貸してくれる?」
「構わないけど、上に乗って遊ばないでくれよ」
「なはは、流石科学者さん、よく覚えているねー」
「科学者は関係ないのだが」
二人とも仲がいいなー、なんてぼーっと眺めてみる。
わたしは、まだいまいちキューさんと打ち解けられていない。
助けてくれたし、ロアの友人だし、いい人だけど、まだ何でも話せるかはわからない。ご飯は一緒に食べられる。一緒に顔を洗うのもおっけー。二人切りも何度かやった。でも、なぜかまだできないことの方が多いと思う。慣れかな。
もしくは――
「ねえねえ、あの子元気? マッサージくん」
「今はマーク3だ。全身のツボを同時に押せるように調整した」
「おー、マーク。あの子が暴走してさ、シャルロの壁ぶち破っちゃったんだよね」
「暴走させたんだろ。ロアは機械が苦手過ぎる」
「えー、アタシは好きだよー。キューの作ったメカたち」
「――っ!?」
この、たまにやってくるモヤモヤした感情のせいかもしれない。
ロアの友達は自分しかいないと、心のどこかで思っている。でも、そんなことないんだ。ロアは社交的だから、わたしの他にも友人はたくさんいるし、第一こんな素敵な人をみんなは放っておかない。わかっている。でも……
「それじゃあ、大好きなメカを運ぶのを手伝ってくれ」
「へーい。キューの頼みだ。仕方ないなー……」
「――あ、あのっ!」
でも、わたしの”わかっていない”部分が諦めるのを止める。
こんな物分かりのいない自分は、きっと昔はいなかったんだと思う。こっちにきて、ロアと出会って、色々な経験をして生まれたわたしの一部分だと思う。
だから、たまにはこんな自分に任せてみようとも思った。
「わ、わたしっ! わたし、手伝います!」
「おー? 重いしいいよ、キューとアタシで行ってくるよ?」
「い、いえ、平気です! わたし、魔法少女ですし!」
「うーむ……、一理ある。どうだね、キューちゃんよ」
「ぼくは構わないよ。本当は二人来てくれると助かるけど、お店もあるだろう?」
ロアとキューさんが二人で行ってしまったら、このモヤモヤはもっとモヤモヤすると思う。自分勝手な理由だけど、だからわたしはキューさんのお手伝いに立候補してみる。ロアは少し意外そうな顔でうむむと考える。
「そかそか、よし、それじゃあメルナ、ふぁいとだよ!」
「は、はい、がんばります!」
「よろしく、メルナ。こき使ったら許しておくれよ」
「えぇっ!? は、はい、がんばりましゅ!!」
「むー。ウチの大事なメルナちゃんなんだから、優しくしなきゃダメ」
「え? あ、あははー……えへ」
ちょっと、安心した。
☆ ☆ ☆
「よし、ここだ。なるべく一度に運び出す。頼んだよ、トゥインクル☆ハート」
「あぅ、変身してないときは、その呼び方はやめてください」
冗談だよと笑ってキューさんが大きな施設へと入っていく。
真っ白な外壁の、見上げるほど大きな建物に驚きながらも、キューさんが持ってきた台車を入り口脇に止めてついていく。
入口にキューさんが立ってぴょんと跳ねると、扉が勝手に空いた。
「え、えぇっ!? 今の、どうやったんですか?」
「このドアは勝手に開くんだ」
「生きてるんですか?」
「生き物だったら、もう少しセンサーの位置を低くしてもらっている」
わたしたちが通り過ぎると、今度は勝手に閉じた。
キューさんは、すごいところに住んでいるんだなーと思う。
科学者で、発明も出来て、どことなく知的なオーラが出ている。シャルロの建物もキューさん名義だし、おまけにロアと昔からの知り合いで――
ダメだダメだ、弱気になるな、わたし!
負けちゃだめだ、わたし! ……何に?
「これ、え、えれぽーたー!!」
「エレベーターだね。そこの三階を押してくれ」
「こ、こうですか?」
「よし、よくできた。えらいえらい」
「えへへ、そうでしょうか……」
なんか、既に負けてる気がする。
不思議がいっぱいの研究所を進んでいくキューさんの背中を追いかける。
これからウチに住むのかと思うと、なんだか変な感じがする。
発明品とか見せてもらえるのかなー、なんてワクワクする。
三人で食べるご飯もきっと楽しいし、お店もたまに手伝ってもらえるかもしれない。楽しいことがいっぱい。でも、その一方では不安もある。
ロアがキューさんに夢中になってしまうのかもしれないという不安。
キューさんがウチに来れば、ロアだってわたしだけを見ているわけにはいかない。キューさんにも笑顔を向けるし、怒ったり悲しんだり喜んだりもする。その中にはきっとわたしが知らないロアの顔があるのだろう。
そう思うと、ダメなんだけど素直に喜べなかったりもする。
ああ、わたし、やっぱりだめだなぁ。
「なあ、あの子、例のちびっこ科学者じゃないか?」
「ああ、ホントだ。今日でクビになったって子ね」
とぼとぼ歩いていると、廊下の向こうから白衣の男女が歩いてくる。
ニヤニヤとキューさんを指さしながら、談笑している。とても嫌な感じ。
キューさんの表情はまるで変わらないけど、彼らが悪口を言っているのはわかる。すれ違う瞬間、男の方がひっかけるように脚を出した。
「キュ、キューさん危ない――わひゃっ!」
このままじゃキューさんが転んでしまう。
そう思っての行動だったけど、今度はわたしの脚がもつれて転んでしまう。
おかげでキューさんが立ち止まってくれたのはよかったけど……
「なに、この子?」
「おい、ちびっこ。なに研究所に部外者入れてるんだよ」
露骨な敵意。
キューさんもやれやれといった風に答える。
「そうだね、……では、ぼくの助手だよ」
「えぇ!?」
「面倒なことになりそうだから話を合わせてくれ」
「は、はい」
助手になってしまった。でも、少し無理やりなウソじゃないかな。
しかし、研究員たちはそんなこと気にしていないようでニヤニヤ笑う。
「あっはは! 助手? アンタ、逃げられすぎてこんなガキを助手にしたの?」
「おいおい、可哀そうだよ。こいつもガキだからお似合いじゃないか!」
ゲラゲラと笑う。
キューさんは表情一つ動かさないけど、わたしは睨んでしまったと思う。
それを見てか、今度は女の方がわたしに顔を近づける。
「こいつの助手なんて長続きしないから、他の子と遊んだほうがいいわよ」
「そうだぞ。こいつの助手、七人連続で脱走してんだからなぁ!」
「……やめてください」
そんなことないと、声を大きくして言いたかった。
しかし、そんなことをしていいのだろうか。ここで強く言い返して、キューさんの立場が悪くなったらどうしよう。村にいた頃のイヤな経験が足かせとなって動くことができなかった。
この状況は、どこかあの時に似ている。
「行こう」
キューさんに手を引っ張られ、その場を後にする。
後ろでさっきの人たちが何か言っていたけど、幸い手を引っ張られているおかげで気にならなかった。庇うつもりが、庇われちゃったな。
「ありがとう」
キューさんのお礼を素直に受け取ることは、この時のわたしにはできなかった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
後編も本日投稿予定ですので、そちらもよろしくお願いいたします!
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