魔法少女、あわわわわ!
王都に来て一月が経った。
そういえば、村はあの後どうなったんだろうとか、考えなくなったなと思う。
居場所とかバレたらイヤだな。ロアにも迷惑かけちゃいそうだし。うーん……
しばらく悩んでも答えが出ない。久しぶりにイヤなことを考えちゃった。わたし、バカだ。
やっぱり、夜に考え事はよくない。
部屋を見渡す。
ロアから借りている寝室、この部屋もずいぶん変わった。
物が増えて、最初の殺風景から一転、生活感が出てきたように思う。
ロアと買ったものとか、ロアからもらったものとか、ロアばっかだ。
一月で癒しの空間となったわたしの部屋。でも、最近思うことがある。
――散らかったなぁ……
寝ようと思っていたベッドからもそもそと出ると、大事なものの棚を見る。
整理整頓はそこそこ得意だから、ごちゃごちゃはしてないけど、物が増えた。
それも、言ってしまえばゴミ。ゴミだけど、ゴミじゃないものが増えた。
「でもなぁ……、どれも捨てられないよ」
ロアからもらったシャンプーの袋についていたリボン。
ロアと行ったボルダリングのチケットの半券。
ロアと買った服についていたピン。
ロアにからかわれたワラワラ(?)様のおっきなお面。
それ自体はいらないけど、あの時の思い出も捨てるみたいで捨てられない。
ううん、いらないってことなんてない。どれも、こうして握れば……
「え、えへへ」
なんだか幸せな気持ちになる。
でも、こんなの、ロアが見たらちょっと引くんじゃないかなとも思う。
そう思うから。ロアが部屋に来るたび隠していたんだけど、量も増えてきた。
とても、これは見せられな――
「メルナ! お願い! 今晩泊めて!!」
「えわぁっ! どっ、どどどどうしたんですかロア!?」
瞬時にコレクションを背中に隠して廊下に出る。ギリギリセーフ!
髪を降ろしてお風呂上り、ちょっとかわいいパジャマにいつものクマキャラの枕まで脇に抱えてお泊りスタイルのロア。いつもは無意識に年上のように感じちゃっているけれど、こうして無防備なところを見ると同い年っぽくてちょっと安心。
「いやー、雨漏りがすごくてね。ちょうどベッドの真上。まいったなー、なんて」
「あ、あははー……」
忘れがちだが、シャルロの建物は古い。最近雨が降ったし、しかたないだろう。
ただ、それならすぐに直せると思う。
でもなー、とロアを見る。あくびをするお泊りロアさん、かわいい。
一緒に暮らしているとはいえ、ロアは朝が早いし、夜も遅くまで料理の下ごしらえしてたりとかで、仕事以外で顔を合わせられる時間は少ない。
ちょっと悪いことしてる気もするけど、ロアが言ってるんだし、いいよね?
「まあ、でも、メルナにもプライベートがあるし、うん、お店で寝ようかな」
「だ、だめです! わ、わたしの部屋に! わたしの部屋で寝ましょう!」
「お、おう。ありがたいっす」
「なので! す、少しだけお待ちを!」
勢いよく扉を閉めて、クローゼットを開ける。
その衝撃で扉があいたのでまた閉める。古い建物あるある。
でも、お泊り会もこの建物のおかげ。ありがとう。
中の服たちをぎゅっと端に寄せて、そこに仮面、裏に色々隠していく。
少しきつかったけど、クローゼットをゆっくり閉めて、扉から顔を出す。
「だ、大丈夫です! 片付きました!」
「もう、アタシなんだから気にしなくていいのに」
「そういうんじゃないっていうか、ロアだから困るっていうかうーん……」
「んー? なにー?」
とりあえず、見られちゃいけないものは全部隠した。
クローゼットを開けられることはないし、大丈夫――
「おお、クローゼットが爆発した!」
「なーぁっ!!」
「あはは、なんかね、この扉閉めるとクローゼット開いちゃうんだよねー」
「わ、わわわっ! これは、その、なんていうか……」
「ん? これは?」
ロアが散らばったコレクションを拾い上げる。
ああ、一巻の終わりだ。
これで気持ち悪いって思われてしまう。村に逆戻りもあるかもしれない……
「へー、懐かしいなー、この半券。あ、こっちのリボンも。取っててくれたんだ」
「ご、ごめんなさい。気持ち悪くてごめんなさい……」
「ん、どうして? この半券ならアタシも取っておいてるよ?」
「……へ?」
あまりの衝撃発言に変な声が出てしまう。
ロアも取ってる? この、役に立たない半券を? ……なんで?
「思い出に浸れるじゃん、こういうの。捨てられないよねー」
ああ、そうなんだ。
わたし、普通だったんだ。おかしいと思ってたけど、そんなことなかったんだ。
うーん、待てよ。ロアもおかしな子なのかもしれないな。
でも、ロアといっしょなら、変な子でも悪くないのかもしれない。
それに、ロアもわたしとの思い出を大事にしてくれていたんだ。
「うーん、でも、ワラワラ様は捨てよっか」
「は、はい。そうします」
ゆっくりと、時間が過ぎていく。
他愛ない雑談をしたり、笑ったり、なんかすごく友達って感じがする。いいな。
そんな時間はあっという間に過ぎ、ロアが大きなあくびをする。
「そろそろ、寝ますか?」
「だねー。明日も早い。頑張るぞー! オラ―!」
ロアがベッドに飛び込む。元気だなと笑う。
クマさんをポカポカ叩き、ご機嫌なロアを見ながら、わたしは床に――
「あれ? なにしてんの?」
「え、寝ようかなと……」
「じゃあ、こっちでしょ?」
「え? でも、ベッドはロアが……、ちょっと!?」
強制的にベッドに引きずり込まれてしまった。
ベッド、一番のプライベート空間。そこにロアがいるというのは変な感じがする。
狭いとかじゃない。イヤじゃない。むしろ……
でも、寝返りとか打ったらぶつかりそうだし、それに……
「イヤ?」
「そ、そんなことないです! で、でも、狭くないですか?」
「えー、メルナちっちゃいからむしろ広いぐらいだよ」
このベッドでっかいんだからと両手を広げて寝てみるロア。
たしかに、わたしが五人ぐらいは寝られそうなサイズだけど、そうじゃなくて!
「ふふん、メルナさんは枕の下になんか入れてないかなっと」
「枕の下? どうしてです?」
「誰かの絵とか写真とか入れると夢に出てくるんだって。昔流行ってたよ?」
「そうなんです?」
そうなんだ。村育ちだから、流行りとかあんまりわからない。
でも、ロアもそういうの好きなんだなと思う。
ロアも憧れの人の絵とか枕の下に入れてるのかな。どんな人なんだろう?
「ちなみに、『しゃしん』って何です」
「なんか、キューが持ってるメカで撮れるやつ。あ、この間のも写真」
「このあいだ……?」
「ほら、ぴょんぴょんメルナ」
「なっ! ――も、もう寝ます! おやすみなさい!」
寝たふりをしてごまかす。
ロアもしばらく「えー」とか言っていたけど、すぐに寝息が聞こえてきた。
結論からいうと、ここからが大変だった。
「……すぅ、……ふぅ」
「…………っ!!」
ロアの寝息が首筋にかかる。
布団がロアの体温で温められている。一体どこまでがロアで、どこからがわたしの体温なんだろう。そんなことを考えると余計に眠れなくなってしまう。
ゆっくりと、気づかれないように身体を動かす。
ロアは寝ているときどんな顔をしているんだろうと気になったからじゃない。これは、そう、寝返りだ。自然なことなんだ! だからおかしくない。わたしは、おかしくなんかなっていない!
「むにゃ……、えへへ……」
「……っ!!!!」
とろけた顔のロアが口をもごもごと動かした。
やっぱりまつげが長い。鼻筋が通った美人さんの顔。でも、今は赤ちゃんみたいなかわいい顔をしている。なんでだろう。不思議だなー。眠れないなー。
月明かりに照らされたロアの顔をじっと見ている。
薄いパジャマごしに当たる柔らかい肌に、ときどきびくりとする。
無音の空間、無防備なロア、わたしの意識も段々と薄れていく。
――綺麗な手だな。
わたしは、この手が大好きだ。
この手で撫でてくれるなら、割と何でも言うことを聞いてしまう気がする。
すべすべで、あったかくて、優しい手。少しぐらいならさわってもいい、よね?
「…………」
そっと指を伸ばす。
布団を動かさないように手を動かして、人差し指を伸ばしてみる。
何をやっているんだわたしは、途中で指が止まる。
寝ているロアの手にさわりたいなんて、そんなのおかしい。
大体、ロアなら頼めば握らせてだってくれる。だから、今さわんなくても――
「……うぅっ」
心の中に言い訳がいっぱい出てくる。
今、腕を戻したら布団が動いてロアを起こしちゃう。
お願いすればさわらせてもらえるなら、今さわっても問題ないはず。
ちょっと当たっちゃったのと変わりない。
なんて、色々。全部だめなこと。でも、うーん、わたしは悪い子だ。
「…………!」
ロアの手だ。
お風呂上がりのロアの手はいつもよりも暖かくて、気持ちいい。
人差し指の先を手の甲に当てて。なんだこりゃと思うけど、すごく安心する。
ああ、ずっとこうしていたいかも――
「……んむっ」
「ほぇっ?」
わたしの指が握られる。
ふわふわで柔らかい手に包まれて幸せ――じゃなくて、バレた?
恐る恐るロアの顔を見てみるけど、やっぱり寝てる。大丈夫……だよね?
「んむっ……ちゅっ、ちゅぱっ、ちゅぱっ……えへへ」
ロアは眠ったまま、ゆっくりとわたしの指を口元に持っていき、入れた。
赤ちゃんのようにわたしの指をチロチロ舐めて、指を吸う。
ロアの口の中、指の先をベロが撫でて、撫でて……
「にょわっ! にゃにゃにゃにゃ! わーっ!」
「わわっ! ど、どしたどした!?」
幸い、ロアが驚いた瞬間に指が抜けた。
黙っておいた方がいいのかな、これ。言った方がいいのかな、これ。
悩みながらも、たしかに湿った指先の感覚を確かめる。
首を傾げるロアを見ながら、わたしは指を背中に隠す。
何もしてない何も見てない何も吸われてない! そういうことにしよう!
「あ、雨漏りを……、なおします」
☆ ☆ ☆
「おー、一瞬で直った。これで寝られる! ありがとね」
「はい……、よかったです」
わたしのベッドにしたように、自室のベッドにダイブをかますロア。
少し名残惜しいけど、お泊り会は中止だ。
仕方ない。身体が持たないもん、あんなの……あんなの。
「ありがとね。メルナ。でも、また今度泊まりに行くね」
「そ、そうですね、それでは……うん?」
「どったのー? あ、今日はアタシの布団で寝るか―?」
ロアのベッド、枕の下に何か挟まっている。
中途半端に挟まったそれが落ちそうだったので、手に取ってみると――
「なっ……! なななななんでこれが!?」
「え? あっ! ああ! ちょ、それ、違う! 違うから! 勘違い!」
わたしの、黒歴史ぴょんぴょん写真。
燃やさなきゃと思っているうち、ロアに取られて、ついでに部屋から出される。
なんで? わたしの写真なのに……!
「そう、友達として! もっとすっげー仲良くなりたいだけ! それだけ!」
「えぇっ! 何のことですか!?」
「何でもいいの! おやすみ!」
そんな強引な……
というか、あんな顔のロアは初めて見たかも。ほっぺがリンゴみたいだったし、ちょっと泣きそうだったし、ロアでもあんな顔するんだなー。
でも、なんでだろう。恥ずかしいのはわたしのはずなのに。
なんで、写真を見られて恥ずかしがってたんだろう。何かのおまじない――
「え、うそ、わたし!?」
夢を見るおまじない!?
ロアが、わたしの夢を見たいってこと……、そんなわけ、ないよね。
だって、ロアは美人だし、それに女の子同士だし、それに、それに……
「……似顔絵の勉強でも、しようかな」
結局、次の日はわたしもロアも寝不足だった。
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