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魔法少女、職を探す

「えっと、メルナさん、希望の条件は――」

「はい、お給料はそこまでなくてもいいです。休みも別に……」

「何かしら希望してくれると助かるよ」

「えっと、住み込みだとありがたいです」

「住み込みね。他には?」

「えっと……ベッドはフカフカがいい、とか望みすぎですかね?」

「キミはいい子だね」


 毎度このセリフを言われる。

 日が高いうちに王都に着くことができたわたしは職業紹介所を訪れた。

 希望に満ちた新生活だが、やはり先立つものが必要だ。

 お金はなくても今まで生きてこれた。

 住処もそこまで必要とはしなかった。

 自由だったら今満喫しているといっても過言じゃない。

 だからこそ、仕事はしてみたかった。


 魔法少女とはいえ聖人ではない。だから特別働くのが好きというわけではない。

 ではなぜ仕事を探すのか、それは、ずばり都会への憧れからである。

 整った石畳、背の高いレンガの建物、そして人が行きかう大通り。すべてが夢にまで見た王都の光景。そして今、わたしはここにいる! テンション上がる!

 ここで働くということは、ここの一部となり、王都という歯車を動かすということ。そうして初めて、わたしは王都の一員となれるのではないのだろうか。


 ――なんて、やる気だけはあるんですが……


「厳しいね。住所不定となると簡単に雇ってくれるところはないんだよね」


 ですよね。

 このセリフも毎度言われる。これで七件目。

 どれだけいい子だといわれても、結局田舎から出てきたよくわからん小娘を雇うほど王都は甘くない。いい子というのも多分お世辞だ。他に言うことがないだけ。

 ああ、都会での生活も難しい。


 ☆ ☆ ☆


「はぁ……、連敗だ。負け続き」


 王都の日はすっかり暮れていた。

 憧れの都会生活一日目といっていいのかもわからない野宿確定。

 村にいた頃も吹きさらしの家に住んでたし、それ自体はいいのだけれど、やはり連戦連敗の心の傷はジクジクと痛む。


 王都の夜は明るい。

 日が沈んでも人々の生活が灯りとなって綺麗な道を照らしている。

 トボトボと歩いているうちに周囲は夜の灯りに照らされて、わたしはなんとなくそれから逃げるように路地裏へと身を隠す。この灯りはわたしには眩しすぎる。何とか村から逃げ出したものの、まだこの街に馴染めていないわたしとは別世界の光だ。暗い路地、腰を降ろすとそんなことばかり考えてしまう。でも、落ち着く。


「わたし、だめだめだな……」


 言わば、わたしは空っぽである。

 紹介所の職員から特技や趣味を聞かれてそう実感した。

 わたしは魔法少女である。それだけで自己紹介が成り立っていると思っていた。

 そんなことはなかった。

 魔法なんて誰でも使えるし、少女なんてどこにもいる。そう考えれば魔法少女なんて珍しくもない。

 それに、わたしは魔女の家系に生まれたというだけ、人よりちょっとだけ魔法が得意だったそうで、『魔女』ではなく『魔法少女』を名乗っているけれど、それだってわたしの意思とかじゃない。わたしの意思なら魔法少女は名乗らないし、スカート丈はもう少し長くする。あと、ピンクはちょっと控えたい。

 事は衣装のことだけではない。


 つまり、わたしにはこれがしたいとかアレがしたいとか、そういうのがない。

 王都に来たのも、路地裏に来たのも、逃げでしかない。

 そんなわたしを、憧れの王都が歓迎してくれるはずなんて、もともとないのだ。


「はぁあ……」


 大きなため息をつく。すると、向かいに座っていた男が睨んできた。

 すぐに謝罪をして、バツが悪く目を逸らす。すると他の男と目があった。

 すごいな王都は、路地裏まで人がいっぱいだ。

 なんて、そんなことない。

 概ね、ここにいる人たちはわたしと同じなんだろう。

 華やかな世界だって、華やかでない部分は必ず存在するのだ。

 都会も世知辛い。


 考えれば考えるほど暗くなってくる。悪い癖だ。

 もう今日は寝てしまおうかと思っていると、暗かった空気が晴れた気がした。

 路地裏の人々も少しざわつき、入口の方へと鋭い視線を向けた。


「やぁやぁみなさん。今日もおつかれさん」


 その子は、街の灯りに負けないくらいの笑顔をしていた。

 眩しいな。目を逸らそうとするも、それができないことにわたしは気付く。

 わたしが都会に憧れたように、今、わたしはこの子に視線を奪われている。


 街の灯りが照らす、キラキラ輝くウェーブのかかった金髪。

 人の賑わいの中でも埋もれはしない、少し個性的で派手な服装といで立ち。

 瞳は星空を閉じ込めたみたいに綺麗だし、何より屈託のない笑顔と態度にわたしは引き寄せられる。ああ、世界にはこんな娘がいるんだ……


「よぉ、リーダー、元気してるー?」


 モデルさんみたいな歩き方で路地の奥へと入っていく女の子。

 どことなく、彼女が通った後にはオーラみたいなものが見える――気がした。

 とにかく、そんなくらいに、わたしは彼女に衝撃を受けた。

 何も知らないのに、自分にないものを全部持っているような印象を抱いた。


「今日の分、晩飯」

「わかってるって。ほれ、今日のは自身がある失敗作だ」


 リーダーと呼ばれた少年に目線を合わせると二カっと笑う女の子は、大きなクマのぬいぐるみがぶら下ったカバンから紙袋を出す。

 この子のファッションは少し変わっている。

 黒のシャツと少し破れたホットパンツ。同じ破れているでもわたしのぼろ切れとは違う。ちゃんと破ってるやつだ。基準はわかんないけど、向こうはかっこいい。

 ジャラジャラとアクセサリーを服につけ、言ってしまえば不良っぽい。

 でも、この子の明るさもあってか怖くはない。

 むしろ、この服装のおかげで少しとっつきやすそうとすら思える。


「なかなかいけるっしょ?」


 女の子は路地裏の人たちにパンを配っていた。

 気づけばわたしはお腹が減っていた。それでも、ぐうぐう鳴るお腹を無視してもわたしは彼女を見つめていた。まるで絵画を見るように、じっと、その光景を遠くから眺めていた。


「いやー、わたしも罪深い失敗作を創り上げちゃったもんだよね。もしこの中に一流シェフがいたらさ、この味に感動してウチの店にきてくれるかもしれないよ。失敗作でこんなに美味いなら、成功したの食べたらくちびる落っこちちゃうよってね。あれ、くちびるだっけ……? まあ、いいや、それでね――」


 ――少し変わってるなとは思ったけれど、うん、そこがいいな。

 気づけばパンはなくなっていた。

 我に返って少し後悔。もらっておけばよかったのかもしれない。

 もう一袋出したりはしないよねと、女の子に目をやって、”それ”に気づく。


「――え、ちょっと、キミ!!」


 つい声をあげてしまった。

 同時に、女の子のポケットから財布を引き抜いたリーダー少年がこっちを睨む。

 よくなかった、なんてことはないよね。泥棒だよね?


「チッ!!」

「え、なにを!?」


 手を伸ばすと、少年は財布をわたしの後方に向かって投げる。

 何が起きたのかわからないでいると、わたしの後ろにいた男が財布を受け取って逃走する。路地裏の人たちが何かの競技のように財布を投げ合って、わたしと女の子からうまいこと逃げていく。

 あっという間にもぬけの殻となる路地裏。

 何もできなかったわたしの背後、女の子が慌てたような声を出す。


「ど、どどどどうしよう! 頑張って貯めた大事なお金なのに……」

「わたし、追いかけます!」


 こんないい子に悲しい思いをさせちゃいけない。

 それに、わたしは追い出されても魔法少女。人を助けるのが当たり前。

 ばらばらになって逃げたとしても、きっと集合場所はあるはず。

 脚は痛いけど、走って追いつけばまだ――


「待って、アタシもいく」

「え? どうして?」

「どうして? どうしてってそりゃ、アタシの財布だし……」


 そりゃそうだと後ろ向きに納得する。

 この子からすれば、わたしだって路地裏にいた一人にすぎない。あの人たちの仲間だと考えるのが正しい。疑うのは当然。自警団に突き出されないだけ感謝をしなければならない。

 とりあえず弁明しようか、はたまた不安にさせたことへの謝罪が先か、なんて考えていると、少女はクスクスと笑う。よほど、わたしの様子がおかしかったのだろうか。再び後ろ向き思考に呑まれそうになっていると、予想もしなかった一言。


「ありがと」


 ――なんでだ?

 しばらく言われたことのない言葉に目をぱちくり。

 村では命がけで戦ってもそんな言葉をかけられたことはなかった。

 ましてや、まだわたしは財布を取り戻せてすらいない。言われる筋合いもない。

 しかし、彼女は笑う。

 路地裏の子供たちにパンを与えていた時と同じ、屈託のない笑顔だ。

 わたしなんて、何の取柄もない怪しいだけの少女なのに、なんでそんなに優しくできるのか、学のない頭でいくら考えても答えは出てこない。


「じゃあ、いこう」


 やがて、少女はわたしに手を差し伸べた。

 都会の灯りに手を伸ばすように、無意識にわたしはその手を取る。

 少女に手を引かれ、わたしは夜の街へと駆け出した。

 王都の灯りは、もう夜だというのに煌々と街を照らしていた。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

面白かった。続きが読みたいという方、


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