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魔法少女、留守番で決意する

「いやー、すまんね。本当はすぐにでも来るつもりだったんだが」

「いえ、来ていただいてありがとうございます。ずっとお待ちしていました」

「ずっと!? い、いや~……そう言われると、また来なくちゃな!」


 最終日、昼。ここを踏ん張れば一人ぼっちのカフェもおおむね終了。

 一昨日よりも昨日、昨日より今日とわたしのウェイトレススキルも上がっているような気がする。相変わらず転びはしたけれど、大きなミスなくランチタイムを切り抜けられたのは大きい。

 ロアがいたら褒めてくれるかななんて考えることもあるけど、それで寂しくなって仕事が手につかなくなることはなくなった。これは成長なのかもしれない。


「それにしても、メルナちゃん、前よりさらにかわいくなったね」

「え、そんな……」


 この店を建て直すとき、角材をくれた工場のおじさんだ。

 きっとお世辞なんだろうけど、不意打ちで言葉に詰まる。いつもなら条件反射的にそんなことないと返していたのだろう。しかし、そうではないとこの二日間で思った。難しいし、出来そうにないかもしれないけれど、わたしは、わたしを認めてあげたい。


「あ、ありがと……ございましゅ……」


 道のりは遠い。でも、進む方向さえあっていればそれでいい。

 顔が熱くなる。あの日と比べたら、多少はマシになったのだろう。わたしはどうあれロアがくれた髪留めはかわいい。なんて後ろ向きな言い訳を何個も並べて前を向く。それでもどこかいたたまれなくなったので、確実なことを一つ。


「ロアのおかげだと思います」

「そうか。また来るよ。ロアちゃんにもよろしくな」


 満足そうに帰っていくおじさんをいつものあいさつと共に見送る。

 次のお客さんからオーダーが入ったので、急いで向かう。今日は昨日より盛況だ。

 こうして、だんだん良くなっていけば、きっといい場所にたどり着けるはず。


「ふぁぶっ!! ……ご、ごめんなさい」


 きっと、いつか――


☆ ☆ ☆


「昨日はありがとうね。息子も連れてきちゃったわ」

「この人がきらきらのおねーちゃん? うさぎさんのお耳は?」

「あー……、あははははは、……あう」


 昨日のお姉さんが律義にも来てくれる。

 最近、こうしてお客さんの顔がわかってきて接客が楽しくなってきた。

 昨日のことはすぐに忘れてほしい気がするけれど、とにかく来てくれたことがありがたかった。相変わらずここのパンがお気に入りらしい。

 お子さん用の椅子も作るべきかなと思いながら席に案内。息子さんはお花型の椅子を不思議そうに見ながら、お母さんのアシストもあって腰かける。注文はもちろんパン。本当に好きなのだろう。


「今日は頑張っているじゃないか」

「キューさん、普通に厨房にいるんですね」

「いけなかったかい? 消毒はしているつもりだよ」


 いけなくはない。……と思う。

 この建物自体がキューさん名義で借りているらしいし、ロアさんの知り合いだし、わたしも色々とお世話になったし。

 厨房の椅子にちょこんと座り、なぜかトマトとにらめっこしているキューさん。好きなのかな、それとも苦手? 出会って三日しか経っていないけれど、キューさんと一緒にいるのはどことなく気が楽だ。一昨日、昨日と醜態を晒し続けたせいで付き合いのハードルが低くなっているのか、もしくはキューさん自身がそれをまったく気にしていないからなのか。後者、だといいな。

 とにかく、なぜかトマトを観察するキューさんに構わず、料理を――


「あ、あれ?」

「どうかしたかい?」

「パンが、……なくなってしまいました」


 ロアが置いて行ってくれたパンがない。

 数えていた限りではあと五つはあったはず。


「キューさん、もしかして食べました?」

「ぼくではないね。というか、三日間ありつけていない」

「そんな。でも、たしかに……」

「初日、キミが食べた分は数えていたかい?」

「…………あ」


 そういえば、と思い出す。

 初日にキューさんが頼んだ分、アレの会計は今だうやむやになっている。

 ほとんどわたしが食べている時点で、払ってもらう必要もないのだけれど……


「疑ってしまってすみませんでした」

「ああ、それはいいよ。でも、どうするんだい?」

「それは、やはり品切れだとお伝えするしか……」


 仕方がない。重い足取りでフロアへと向かう。

 しょぼくれたわたしの顔を見て、しかしお子さんはぱぁっと笑う。


「パンきた? おかあさんが好きなパン、食べる!」

「え、あ、ああ、も、もう少しだけ待っててください」


 退散。あの笑顔を裏切るわけにはいかない。

 厨房へと戻るとキューさんが驚いたように口を開けている。


「どうするんだい。気持ちはわかるけど、ないものはないんだよ?」


 それはわかる。わかっているけど、このままあの子を帰すわけにはいかない。

 せっかく『シャルロ』に来てくれたんだ。ロアのパンを求めてくれているんだ。

 考えろ。わたしに出来ること。何もできないわたしでも、きっと何か……


「わ、わたしが、作ります!」

「……正気かい?」

「はい。それしかできないし――」


 わたしなんかが出来るかわからない。多分、出来ないことの方が多い。

 でも、だからって何もしなくていいなんてことない。

 わたしも、ロアと同じ『シャルロ』で働いているんだから!


「――きっと、やります!」


 とはいっても見様見真似。

 でも、誰よりもロアのことを見ていたから、ロアの見様見真似なら絶対出来る。

 厨房のロアの姿を鮮明に思い出し、腕をまくったとき、キューさんが腕をつかむ。


「きみはやっぱり面白い。いいだろう。ぼくも手伝うよ」

「でも……」

「ロアが使っていた材料ぐらいなら、ぼくも覚えている。役には立てるよ」

「あ、ありがとうございます!」


 にっこり笑ってキューさんが厨房をパタパタ回る。

 あっという間に材料が集まった。一度読んだ本の内容は覚えているらしい。

 本当に、この三日間お世話になりっぱなしだな。


「これを混ぜて、一口大に切って、捏ねて、膨らむまで焼く……」

「一つ問題がある。最低でも三十分ほど発酵させる必要がある。どうする?」

「発酵……?」


 密閉状態でパン生地自体が活性化する必要があるのだという。

 目安として最低でも三十分、最大で一時間。とても待たせていい時間じゃない。

 だけど、これをしなければパンはふっくら膨らまない。それじゃだめだ。

 考える。しかし、思いつかない。わたしが最後にすがるのは、一つ――


「ま、魔法で、何とかします」

「そんな都合のいい魔法、知っているのかい?」

「いえ。これから作ります! ……じゃ、だめですよね」


 流石に賭けが過ぎる。

 そもそも発酵が何か理解もできていないのに、そんな魔法は作れない。

 何か別の案をと考えていると、キューさんが笑って頷く。


「いいと思う」

「ほ、本気で言ってます……?」

「そのつもりだ。だって、キミなら出来るだろう?」


 何の疑いもない瞳だった。

 わたしはまだ、出来るという確信はない。

 昨日のは偶然上手くいっただけ。わたしなんて、いつも失敗だらけ。

 でも、やらなくちゃいけない。

 キューさんはわたしを信じてくれている。

 ロアはわたしが愛しきれない分のわたしを愛してくれると言った。

 だから、こんなわたしでも、きっとできるはず。


「はい。やります」

「頼むよ。密閉空間でパン生地に大きなエネルギーを与えられればそれでいいはず。もしくはタイムスリップだ」

「前者なら、多分」


 密閉空間でエネルギーを与える。『魔力視』よりはハードルが低い。

 幼いころ習った魔法をパズルのように組み合わせて、魔法を頭の中で構築する。

 一秒、二秒……、十秒かかってしまったけれど、明確なイメージが出来上がる。

 あとは――


「材料を運ぶの、手伝ってもらえますか?」

「ここで作らないのかい?」

「はい。『かわいい』が足りないので」


 恥ずかしいと怯える心を奮い立たせる。

 わたしはかわいい。そんなぶりっ子のような言葉を何度も唱え、拳を握る。

 材料、作り方、魔法のイメージ、全て完璧に仕上がっている。

 最後に必要なのは、わたしがかわいくあることだ。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


面白かった、続きが気になるなどございましたら、

下の☆☆☆☆☆より評価、ブックマークなどいただけますととても励みになります。

感想、ご意見、いつも本当にありがとうございます。


お留守番編完結――だと思ってたのですが、もう一話続きます。

勘違いしてました。すみません。


活動報告にも書いた通り、

二話目の大幅改稿をしました!

興味を持ってくださった方はぜひ!


おかげさまで毎日頑張れています。

これからも投稿続けて参りますので、よろしくお願いいたします。


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