魔法少女、留守番を頑張る
「これは驚いた。飛行魔法をここまで使えるとは」
「い、いえ、わたしなんて大したことはないです。それより、早く泥棒さんを」
自分一人飛ぶだけでもすごい。さらに宙に浮いたまま自由に動ける者は王国の騎士団にもそういない。とかなんとか、すごく褒められた。実感がわかない。それに、今こうしてひったくり犯を見つけられていない時点であまり役には立っていない。
空から見る王都はあの人変わらず輝いていた。光の海のような街の灯り。しかし、そんな明りの数だけ街には人がいる。夜とは思えないくらい賑わう王都、そこから顔もまともに覚えていない人間を探すだなんて……
「キューさん、泥棒さんの行先、予想とか付きますか?」
「キミならどうする」
「多分、しばらく人の多いところに紛れてみると思います」
「だろうね。ぼくも同じ考えだ」
キューさんの声のトーンは低い。
街歩く人数、灯りがあるとはいえ人の顔が視認しづらい時間帯、他に同じ服装の人がいてもおかしくない犯人の特徴、すべての要素においてわたしたちは不利な状況だった。
じっと眼下を見つめたキューさんはブーツのスイッチを何度かいじる。
「え、うそ……」
「なに、キミのように自由には動けんよ。燃料だってある」
ブーツの底から炎が噴射し、キューさんの身体を浮かす。
ジェットブーツというらしい。わたしの手を離してもキューさんはその場で浮いている。これも魔法じゃないとしたら、飛行魔法なんかよりもよっぽどすごい。
「キミは飛行の他にどんな魔法が使える?」
「えっと、一般的なものなら一通りは使えると思います」
「それでは、『魔力視』は使えるかね?」
首を横に振る。
『魔力視』の魔法を使える人間はそれこそあまり存在しない。
自分自身の視覚に映ったものすべての魔力や精神状態がわかる分析魔法の中でも最高峰の魔法。もちろんわたしは使えない。しかし――
「そうか。まあ、仕方ない。だとすると」
「今から使えるようになります」
――手段がないわけではない。
確かに『魔力視』の魔法があればこの状況を打破できるはずだ。犯人の身体的特徴は平凡でも、ひったくりをして逃げている精神状態の人はまずいない。見えないはずのものを見る『魔力視』があれば、この中から犯人を探し出せる。
「いやいや、あんな高度な魔法、すぐに使えるようになんて――」
「なります。出来る、と思います」
思い出す。
『魅了』の魔法が使えるようになった時のことを。あの時、わたしはたくさんお客さんを呼びたいと考えていた。そして、ロアからブレスレットを受け取っていた。あの時感じた何かが流れ込んでくるような感覚、アレがもう一度来れば、きっと『魔力視』だって使えるようになるはず。
そして、そのきっかけとなったのは――
「キューさん、さっきの耳、貸してください」
「え? あ、ああ、いいけど……なんで?」
「ありがとうございます」
――かわいくあることだ。
どうすればかわいくなれるかなんて女の子の永遠の謎、わたしにはわからなかった。でも、それもロアから教えてもらった。自分を愛すること、それがかわいいということ。
だから、自信を持て。魔法少女として、ロアの友人として、わたしは――
「ぴょ、ぴょーんぴょん!」
「な、なにを……?」
石のように固まった表情筋をねじまげ、最高にかわいいと思う笑顔を作れ。
しなやかに動き、答えのないかわいいを導き出せ。
嫌いだった自分自身を愛し、信じ、魔法をつかみ取れ――
「魔法少女トゥインクル☆ハート! 参上! 可愛すぎにご注意だよ!」
ポーズを決め、名乗りを上げて、かつて憧れた魔法少女へと自分を重ねる。
わたしの好きだった魔法少女はこんなものじゃない。もっと可愛くて、もっと可憐で、そして誰よりも諦めない。そんな最高の存在なんだ!
「まだ、まだ足りない……。も、もっともっと、頑張るぴょん!」
「あ、ああ、なんだか理解できないが、もう一息だ、メルナ」
「わ、わかったぴょん! が、がんばりましゅっ!」
不甲斐なくも舌を噛んでしまう。
そういえば、ロアが出て行く時もこんな感じだった。なんて思った時、あの感じがやってくる。視界が一度揺れ、身体の中に何かが流れ込んでくるような感覚。
心地よい力の奔流の中、わたしは願う。
この人の海の中から、たった一人の犯人を見つける魔法がほしい。
『魅了』の時とは違う。
過去に身に着けた魔法の知識、経験、おばあちゃんから受け継いだ魔法少女の力、全てを願いに乗せて、頭の中で構築、再構築をする。これだけの力が流れ込んできているのだから大丈夫なはずだと、ただ自分を信じ、思考を続ける。
「――できた!」
つぎはぎな魔法を力がつなげ、頭の中に明確なイメージが出来上がる。
この感覚を完全に自分のものにするため、わたしの呪文を唱える。
「きらきらマジカル!! クリットアイ!!」
おそらく、厳密に『魔力視』とは違う。
この魔法はわたしのもの。眼下のに広がる人の海の中、作業服を着た男にハートマークがついて見える。全ての魔力が見える『魔力視』とは違い、わたしが見たいと思ったものを見せてくれるオリジナルの魔法。
「わ、わかったのか……?」
「はい、バッチリです。あそこの閉まった酒屋、その陰にいる人がそうです」
「うそだろう……?」
大丈夫だと、自信をもって答える。
クリットアイのおかげで、男が服の中に隠しているカバンすらも見えていた。
そして、そこにたどり着く最短距離でさえも――
「キューさん、一人でお店に戻ることはできますか?」
「それは平気だが、まさかここから行くつもりかい?」
「はい。それが一番確実です」
ブーツで宙を蹴って、その反作用で真っ逆さまに急降下していく。
見えているルートを信じ、自分の瞳に従い光の海へと飛び込んでいく。
久しぶりに魔法少女になれたような、そんな高揚感と共に。
☆ ☆ ☆
「ありがとうございます! なんとお礼を申し上げていいか……」
「いえ。大したことはしていませんので。また来てくださいね」
「はい。……それで、その、かわいいお耳ですね。ドレスも……」
「あ、いえ、これは違うんでしゅっ!」
何とかカバンを取り返すことに成功したけれど、思い返してみれば色々醜態を晒してしまった気がする。外したうさぎカチューシャ、これを付けたまま帰ってきたということは忘れよう。もう、つかれたよ。いろいろと……
「大活躍だったじゃないか」
「ありがとうございます。キューさんのおかげです」
「いや、ぼくは何もしていないよ」
キューさんが付いてきてくれなかったら、途中であきらめていたと思う。
そう考えると、ああ、わたしはやっぱり駄目なやつだ。ポジティブのリバウンドが襲ってくる。ああ、お家帰りたい。早くベッドにもぐりたい。
「それにしても、興味深いね。すごい服だ」
「あんまり見ないでいただけると、助かります」
「魔法を短時間で習得したのも、その変身のおかげかな?」
「はい。わたしもよくわからないんですけど、その……」
わかっているところを言おうとして言葉に詰まる。
かわいくなれば魔法が使えるようになりますって、ぶりっ子みたいでなんかイヤだ。それにわたし、かわいくなんかないし、そんなこと知られたら……
「ロアから話は聞いていたよ。半信半疑だからびっくりしたけどね」
「え、あ、そうなんですか。お恥ずかしい」
「聞いたことはないけれど、まあ、なくはない話だと思う」
魔法は精神状態に大きく作用される。
例えば大魔導師と呼ばれる魔法使いでも、精神が乱れていては子供が使うような簡単な魔法でも使えないことがよくあるという。それは極端な例だけれど、魔法の出力や成功率に関してはおおむねその通り。
「例えば南国では大きな魔法を使う際にヘビを体に巻き付ける。それ自体に意味はないが、巻き付けることで魔法を使えるという気分にはなる。それが重要だ」
魔女の変身にもそういう作用があると昔聞いた。
これをすることによって、自分の中のスイッチを入れ、大きな魔法を使えるようになる。もっとも、わたしのように大きく姿を変える人はそういないけど……
そもそも、魔法少女になっちゃったし、わたし。
「とはいえ、『かわいい』がスイッチというのは聞いたことがない。それに、いくら気分を高揚させてところで、さっきみたいな魔法の瞬間習得、いや、創造のようなことは不可能に近い。できれば、すぐにでも色々調べたい」
「そ、それは勘弁してほしいというか……」
正直、さっきまでのやり取りで顔を合わせるのも結構つらい。
あろうことか、耳を付けてぴょんだなんて、……うわああ!!
でも、得るものもあった。奥の手ではあるけど、あんな風にすれば新しい魔法が使えるようになる。確実性はないけど、何かの時に役に立つかもしれない。
「あの、もっとこの力を使いこなすにはどうすればいいのでしょうか……」
「それは調べてみないとだね。しかし、一つ言えるとすれば自由に色々やってみることだ。名乗りのポーズだとか、それこそ耳とかね」
「……あう」
「かわいいなんて曖昧なものだから、きっと自分が正解だと思ったものが正解だ。がんばってかわいくなってくれたまえ、ぼくの友人のためにも」
「は、はい……」
かわいくなるということには、やはりイマイチ肯定的にはなれない。
わたしより、ロアやキューさんの方がよっぽどかわいいし、センスだって少しずれているとは思う。でも、ロアのためなら頑張れる気はしている。
「もっとも、その心配もないようだけどね」
「……はい?」
「いや、あんまり言うと怒られるけどね、よくロアから聞いてるよ。メルナのここがかわいい。アレがかわいいとね、メロメロだよ、彼女」
「え!? えぇぇえぇぇぇえぇええっ!!!!????」
「そうだね、具体的には朝起きた時の笑顔がかわいいとか、髪の毛をブラッシングするときなぜか背伸びするのがかわいいとか、それからね――」
「わ! わわわわ!? わーっ! わーーーっ!!!!」
なんてこと言ってるんだあのマスターは。
こんなの全部聞いてたら、聞き終わるころには死んでしまう。すでに心臓が飛び出そうだ。全身の筋肉がぴくぴくとしている。もう死ぬのかもしれない、わたし。
最後にそんな言葉が聞けてよかったよ。でも、さよなら。
「それに、あまりにのろけられたから、ではないけど、ぼくもそう思うよ」
「や、やめてくだひゃい!!」
「まあ、いいよ。あ、そうそう、これ、のろけ王子に渡しておいてくれ」
封筒をテーブルに置くと、静かに笑ってキューさんは店を出て行った。
のろけているのか、ロアは。なんてことだ。なんてことだ!
もう少し聞けばよかったかな。でも、うーん、やっぱ、やめといてよかったな。
ああ、まだ顔が熱い。ピンクの髪の毛と合わさって全身赤系統に染まってる。
浮かれ過ぎてるな、わたし。でもいいか、今日は昨日よりがんばったし……
「もっとがんばろう!」
色んなことを。
一人ぼっち最終日の明日も、それから、もっとかわいくなって、魔法少女として強くなって、そしてら、ロアはもっとのろけるのかな、なんて……
「えへへ……」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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お留守番編第三話です。
明日でラスト! ここまで見守っていただいた方、ありがとうございます!
二話目の改稿、今日か明日にはできると思います。
おかげさまで毎日頑張れています。
これからも投稿続けて参りますので、よろしくお願いいたします。




