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ハイーダ、救いを求める

「また魔物が出たか……。くそ、このペースじゃ追い付かん」


 メルナが去って数日、ハイーダ村には混乱が生じていた。

 囲まれた四方の山からは魔物が降りてきて作物を食い荒らす。メルナがいなくなったことで、魔物と戦える人間はほぼいなくなっていた。最初こそ自信満々で立ち向かっていった男たちも、メルナに甘やかされていた十年のブランクは大きく、一匹として打ち取れず返り討ちにされてしまった。


「アンタたち何やってんだよ。揃いも揃って情けない」

「もう、村の男で怪我をしていないものはいません。診療所も当てにはなりませんし」


 文句を言うために出てきた村長夫人に、片手を怪我した男が答える。

 夫人は男の怪我を見て情けないと吐き捨てると、満足したように帰っていく。


 診療所だけでない。農業も商業もこの十年で腐り果てていた。

 怪我をしても治療するものはおらず、戦い、成長していくための糧もない。全て、あの少女がいたから成り立っていたのだ。自分たちが追い出したあの少女が、自分たちを支えていたのだ。それは誰もが薄々感づいていた。

 しかし――


「弱音を吐くな! 小娘一人いなくなったぐらいでどうということはない!」


 村長をはじめとした住民は誰もそのことを口にしない。

 言ってしまえば、自分たちの過ちを認めてしまうことになる。例え村の誰が犠牲になろうと、自分がそれを言い出すという頭は彼らにはない。どんな状況であれハイーダの村、自分が正しいのだ。長年の経験と、過去の栄光があるからそうに違いない。


「お前らがしゃんとしないから、魔物の一匹退治できんのだ!」

「オ、オレたちですか!? ぐぅっ!!」


 村長の拳がその場にいた男の腹に当たる。怪我した男は、それでも言い返すことがなかった。ハイーダの村は年功序列。年上の者、さらには村長に反抗すればどうなるかわかったものではない。

 あいつさえいれば、村の男たちはみんながそう思う。

 あの少女さえいれば、全てがうまく回る。年下だから、村長たちの苛立ちなんかは彼女にぶつけられるし、村の魔物だって勝手に倒してくれる。失って初めてわかる都合のいい存在に思いを馳せながら、今日も村長の苛立ちの犠牲となるのだった。


「お前たちには根性が足りん。田畑の魔物を倒して来い。あれは村の役人、アギルさんのものだ。魔物に食われたらその責任はお前たちにあるのだぞ!」

「ひ、ひぃっ……!」


 村長に駆り立てられ、男たちは転がるように部屋を出ていく。

 もはや、村中の田畑を守るのは不可能。しかし、村でも顔が立つものともなれば話は別。村長の知り合い、身内の畑は何を犠牲にしてでも守る。それすらできない現状に、村長は一人唸る。


「ボクはいつになったらメルナちゃんと結婚できるんだ?」

「お前はまだそんなことを……」


 今度は息子のバンタが出てくる。

 メルナとの一件の後、村中の食料をやけ食いし、さらに大きくなった身体をゆさゆさと揺らし、目の前に座る。あれから数日はメルナのことを口汚く罵っていたバンタだが、しばらくするとけろりと機嫌が治り、再び催促してくるようになった。


「いい女を用意してやる。あんな小娘はやめておけ」

「ハァ? ふざけんじゃねぇよ! 約束は約束だろ!! 結婚はする。早く連れて来い!」


 ため息しか出ない村長。

 しかし、これも愛しい息子のため。夫人からも、最近になってもいつになったらバンタの結婚相手を見つけてくるのかと催促される。

 よりにもよって、息子が希望しているのは、あの小娘、メルナだ。

 追い出しておいて、今更頭を下げて連れ戻すなんて、村の沽券に関わる。


「いいか。あの娘はお前を拒絶した。しかし、それは奴に見る目がなかったからだ」

「ボクは拒絶なんてされていない!」


 どすんと、大きな拳を床に突き立てる。

 その音に、夫人も何事かと扉を開ける。バンタは顔を真っ赤にして続ける。


「ボクのことを好きだから、照れて拒絶したんだ。本当はボクのことが好きで好きで違いない。そうに決まっている。あの日、彼女とボクは三度も目が合っている。運命の相手だ。だから、とっとと連れ戻せ! ボクは結婚するんだ!」


 そうなのかと村長は奥歯を噛み締める。

 だが、かわいい息子はそう言っているんだ。それに――


「そうよ。バンタちゃんが振られるなんてありえないわ。あの礼儀知らず、釣り合わないからって怖がって逃げたのよ。とっとと連れ戻して孫の顔を見せてちょうだい」

「ま、孫……。そうだ。早くボクと結婚して、それで……フフフ」


 二人の言葉を聞いて村長は思い直す。

 そうだ、我々は気高きハイーダの一族。拒絶だなんてありえない。

 あの小娘だって今はどこかで這いつくばって、あの日のことを後悔しているに違いない。これは下手に出たお願いなんかじゃない。あの小娘に対する温情だ。


「しかし、あの小娘、どこへ……」

「それなら、王都の寂れた喫茶店にいるって聞いたわ」


 噂好きの村の女性陣を束ねる夫人が自慢げにそう言う。

 ついで、王都にあるその喫茶『シャルロ』とやらの噂を次から次へと並べる。大体が悪口。何のメニューがまずいとか、この料理なら自分で作った方が安いとかそういう情報。

 そして、その情報を聞いて立ち上がるのは、他でもない息子。


「そ、そこに行けば、メルナちゃんがいるんだな……」


 息を荒げるバンタ。

 少し不安は残るが、この息子に任せようと村長も頷いた。ここまでくれば多少強引にでも息子に連れ戻してもらおう。

 なに、どのみち結婚するのだ。多少傷つけても構うことはない。


「よし、馬車と村の若いのをつける。準備が出来次第、行ってこい」


 診療所にいる男たちの中から、数人護衛につけよう。次期村長の護衛だ。光栄だろうから無給でもやってくれるはずだ。 

 それに、村の金で馬車も出そう。次期村長と、村長の孫のためだ。つまりは村のためでもある。

 そうして、連れ戻したメルナに今まで通り、魔物の盗伐などしてもらえばいい。あの小娘は使い勝手がいい。


「ハイーダ村、そしてわが一族の未来のために」


 バンタが王都へと旅立つのは、もう少し先の話――


ここまで読んでいただきありがとうございます!


今回は番外編のようなものです。

ざまぁ回前編みたいなもの

彼らはしばらく絡んできませんが、そのうち


本日中にもう一話投稿予定です。


面白かった。続きが読みたいという方、

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