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魔法少女、休日を過ごす(後編)

「ねえ、それ、本当に全部買うの……?」

「は、はい。大丈夫です、部屋のクローゼットが広いので!」

「そっか。まあ、いっか。明日から華やかになるね」


 そういうことばかり言うからこうなった。

 服が溢れそうな買い物カゴを二つ持って、わたしは壊れたおもちゃみたいな動きでレジへと向かう。列に並ぶからとロアと離れると、ずっしりとしたカゴの重さが存在を主張する。いっぱいお給料もらったから大丈夫だよね、多分!


 結局わたしは、ロアが持ってきてくれた服を全て買うことにした。というよりは、持ってきてくれた服を棚に戻すことができなかった。そりゃ、かわいいなんて言われたことあんまりなかったし、何をきても似合わないばかり言われてきたわたしが逆のことを言われれば、つい嬉しくなってしまう。ああ、わたし、単純だな……。でも、ロアが褒めてくれるんだから、いっか。


 列はそこそこ並んでいる。村にいた頃はまず見ない光景だ。ロアがよく行くお店っていうくらいだから、人気なのかななんて考える。周りをキョロキョロ見回すと気遅れしてしまう自信があったし、両手は塞がっているしで手持ち無沙汰。

 逃げるように、少し離れた場所にいるロアに視線を向ける。


「ほんと、きれいだなぁ……」


 ロアは遠目からでもよく目立つ。

 地毛らしい金髪はどこかのお嬢様みたいに美しく柔らかい。そこに入ったスカイブルーとピンクのメッシュもそれを邪魔せず引き立て、センスの良さを感じるし、顔だってスタイルだって服だって、とてもわたしと一緒に歩いていたとは思えないほどの美人さんだ。


 さっきまで一緒に服を選んだファンシーゾーンをフラフラとしながら、ふと何かを手に取るロア。何だろうと目を凝らすと、それがハートのついた可愛らしい髪留めだとわかる。少し子供っぽい感じもするけど、かわいいな。わたしに選んでくれているのだろうか。じっと凝視して、角度を変えて、たまにニマニマ笑ったり、うむむと口を曲げたり。見たことないような顔ばかりだ。


 この服たちも、ああやって選んでくれてたのかな。

 やっぱり、全部買うことにしてよかった。


「…………」


 でも、嬉しい気持ちになる反面、どうしても陰が差してしまう。

 ロアがわたしのために服を選んでくれたのは嬉しかった。

 ボルダリングなる遊びもしたし、お気に入りのご飯屋さんにも連れて行ってもらえた。

 でも、今日一日、ロアは楽しかったのかな。


「悪いこと、しちゃったのかな」


 わたしが壁から落ちて尻餅をついたとき、ロアは降りて手を差し伸べてくれた。

 注文した大好きなオムライスを、一口だけあげると、わたしに食べさせてくれた。

 たくさん服を買ったけど、ロアは服を一着も買っていない。

 そもそも、ロアは働きづめで疲れていたんじゃないのかな……


 小さかった陰りが、少しずつ心の中を覆っていく。

 救いだったのは、それが全てを覆い尽くす前に、お会計の順番が回ってきたこと。


 ☆ ☆ ☆


「あ、あれ……?」


 会計を終えて戻ってくると、ロアがいなかった。

 どうしちゃったんだろう。

 探しに行けばきっとわたしも迷子になると、立ち止まる。

 それよりも、一人にしてあげたほうがいいのかな、なんて思いが強かった。

 いっぱい付き合わせてしまった。これはロアの休日でもあるんだ。

 寂しさを忘れられるくらい呟いて、服がたくさん入った紙袋をぎゅっと握る。


 後ろにいた女の子が、わたしの後ろから顔を覗かせる。

 どうやら邪魔になっているようだ。ペコペコと頭を下げて、その場を後にする。

 気まずい。さっきまで楽しかったのは、ロアがいてくれたからなのだとわかる。

 ロアが自分の休日を使って面倒を見てくれていたから、だから……


「ごめんなさい。ロア……」


 新しくすがるものを探すように、服の森の中を駆けていく。

 救いの神はいない。わたしを救ってくれていたのは、全知全能の神様なんかじゃなくて、同い年の女の子だったんだ。神様だったら遠慮しなくていいのかもしれない。でも、ロアはわたしのせいで――


「あ」

「……え?」


 女神様がいた。

 試着室から出てきたその子は、フリルのついたワンピースに身を包んで、カラフルな色の入った金髪をふわりと揺らす。星空のような大きな瞳がまんまるに見開いて一秒、二秒、静けさの中、お互いの心臓の鼓動だけが大きく、早くなっていく。


「ロ、ロアじゃない! アタシはロアなんかじゃない! そんな人知らない! いい?」

「え? あ、はいっ! え? ……うん? あ、でも、はい!」

「え、えっと、あなたのお友達はお店の入り口で待ってれば会える! オッケー?」

「おっけー、……です」


 フルフルと、普段出さない健康的な肩を震わせる。

 羨ましいくらいスタイルのいい身体を翼のように覆うレースのワンピース。幼い少女のようでありながら、表情や仕草からは大人っぽい色気も感じさせ、本当に女神様のような出で立ちだった。お互いに、どうしていいかわからずいると、小動物みたいな謎の音を出した後、「もう終わりだ」と言って試着室へと戻って行ってしまう。


「神様、ありがとうございます」


 少しだけ肩の荷が降りたような気がした。

 さっきのアレはそういうことか。

 ロアじゃないそのひと、多分女神様に感謝を告げると、約束の場所へと向かう。

 一つ、買い忘れたものを買ってから。


 ☆ ☆ ☆


「い、いや〜、大変だったよ〜。迷子になっちゃってさ〜」

「そ、そうだったんですね」


 帰り道、わたし以上にぎこちない動きのロアと歩くのは少し気まずい。

 わたしも詮索する気はないのだが、ロアが必要以上に否定するもんだから、何か口を滑らせてしまいそうで怖い。まあ、ジャンルは違えど、わたしも魔法少女として気持ちはわかる。誰が何と言おうとも、恥ずかしいものは恥ずかしいよね、うん。


「メルナ、いっぱい買ったね。あ、アタシ持つよ!」

「平気ですよ。そんなに重くありません」

「そ、そっかー……」


 わたしも大概だけど、ロアもわかりやすいなと思った。

 否定しながらも、視線はチラチラとわたしの持っている袋の中へと向けられている。

 目が合うとプイッとよくわからない方向を向くから、少し意地悪してみたくもなってしまう。しないけど。かわいそうだし。あと、この状態がかわいいし。


 でも、そっかと少し納得する。

 わたしがつけているブレスレット、これはロアからもらったものだ。

 冒険して買ってみたと言っていたけど、やっぱりロアもこういうの好きなんだ。


 似合うんだけどな、もったいない。

 お嬢様みたいな清楚な服も、お姫様みたいなフリフリのドレスも、きっとロアは着こなしてしまう。それこそ、あの魔法少女衣装だって、ロアが着たらもっと様になる。

 魔法少女ロアがいたら、きっとわたしよりもカッコ良くて、頼りになるんだろうな。ちょっと衣装がキツそうだけど、そこもまたセクシーな感じがしていいと思う。フリフリな服と、キレイかわいいロアのギャップ。魔法使うとこ、みてみたい。


「……メルナ?」


 髪型はそのままかな。

 あ、おろしているところもちょっと見てみたい。お風呂の後、もう少し意識して見てみよう。自然に見てる気がするけど、最初見たとき新鮮でいいなって思ったのは覚えてる。

 ツインテールもいいかもしれない。おっきなリボンで二つ結びにして……、あ、さっきの魔法少女ロアに引っ張られちゃってるかも。いけないいけない。


「えへへ……」

「メ〜ル〜ナ〜っ!!」

「ひっ、な、何でしょう!?」

「何でしょうって……、どうしたのさ、そんなにニマニマしちゃって」

「え? あ、ああ……」


 妄想していたとはとても言えない。

 またいつかこうやっている色考えてみよう。

 楽しくてすっと考えていそうだから、そこだけ気をつけないと……


「そっか」


 気づく。

 こうやって考えるの、けっこう楽しいんだ。

 きっとロアもそうして楽しんでくれていたんだ。


「だから、どうしたの?」


 自信はない。

 でも、わたしの考えなんかよりはきっとこっちの方が正しいはず。

 だって、今日見たロアの笑った顔は、本当に楽しそうだったのだから。


「ロア、お休み、楽しかったです」

「アタシも。付き合ってくれてありがとね、メルナ」

「また、一緒にお出かけしましょう」

「もちろん! また二人で遊びに行こうぜっ!」

「はい」


 今度は楽しみ方を交代してみるのもありかなと思う。

 ロアに似合う服を探したり、美味しいご飯を一口あげたり。

 少し、羨ましくなってしまう。

 だって、ロアはこんなに楽しそうに笑っているのだから。


「あ、でも、まだお休みは終わってないよ」

「え?」

「マッサージ、忘れないでよね」


 そういえばそんなゲームをしていたと思い出す。

 袋の中はロアが選んだ服ばかり。言い逃れができないくらいに完敗だ。

 次があったら、負けないようにしよう。


 そんなこんなで、わたしたちのお休みはもう少し続く。



 ☆ ☆ ☆


「メルナ、めっちゃうまいじゃん!」

「あはは、小さい頃、おばあちゃんにしてあげたいたもので」

「そっかぁ、メルナはおばあちゃんっ子なんだね、えらいえらい」


 なぜか褒められる。

 久しぶりすぎたから上手くできるかわからなかったけど、ロアは満足してくれたみたいでよかった。シャルロに帰ってきたわたしとロア。夕飯も食べて終わってしばらく、そろそろ今日も終わるかなという時間になっていた。


「おー、すごい、かわいい服いっぱいだね」

「ロアが選んでくれた服です。どれも、着るのが楽しみです」

「いいなぁ、こういう服似合う子って。きっとモテモテ人生なんだろうな……」


 ロアが言うかなと思う。

 でも、今日の夕方の出来事を思い出せば、ロアの気持ちは少しわかる。

 きっと、こういうかわいいものに憧れがあるのだろう。

 わたしが何か言っても、きっとロアは謙遜するだろう。

 自分よりわたしの方が似合うよと、そんなことを言うはずだ。

 わたしもそうだったから、よくわかる。


 それでも、わたしはロアに認められることで、自分を好きになれた。

 もし、ロアが言っていたように、自分を愛することが『かわいい』ということなのだとしたら、わたしはロアがもっとかわいくなれるように、背中を押してあげたい。

 だってそれは、とっても幸せなことだから。


「ロア、少しだけ目を閉じていてください」

「ん? いいけど?」


 ロアが目を閉じる。

 長い睫毛がとても色っぽいなと、そんなことを考えてしまう。

 わたしの部屋、二人きり、そっと憧れの金色の髪の毛に指が触れる。吐息にも似た声がロアから漏れ、わたしはロアに触れているんだという実感を得る。

 ポケットから、帰り道ずっと持っていたものを手に取り、ゆっくりとロアの髪の毛につけてあげる。言われた通りに目をギュッと閉じているロアを見て笑い、一歩後ろに下がる。


 なんだ、やっぱり似合うじゃないか。


 ロアのことなのに、なぜか優越感に似た何かを噛みしめながらロアに合図を送る。

 ゆっくりと目を開けたロアは、鏡に映る自分の姿を見るなり、瞳の輝きを増していく。


「こ、これ……」

「ロアに似合うかなって。今日のお礼とか、そういうのです」


 頭についたハートの髪飾りはロアが今日見ていたものだ。

 本当は自分で選んだものをあげたかったけれど、結局これを見ていたロアの横顔が忘れられなかった。カラフルな頭の上でも、少し大きなハートは紛れることなくロアの可愛らしさを彩ってくれている。


「あ、あははー。かわいいけど、アタシにはかわいすぎない?」


 首を振る。少し頭が痛くなるくらいに、ブンブンと。


「ロアも、自分を愛してください。それがかわいい、です」


 受け売り。しかも、ロア本人がくれた言葉。

 それを聞いたロアは参ったなと頬を書いた後、もう一度鏡を見て満足そうに笑う。


「あ、ありがとう、メルナ……」

「こちらこそです。ロア」

「あの、その、……ね? うーん……」


 何か言いたいように表情をコロコロと変えるロア。この髪飾りを見ていた時と同じ様子。ロアは、かわいいものを目にするとこうなってしまうのかな。だとしたら、毎日プレゼントしたくなっちゃうかもしれない。

 しばらく言葉に悩んだ後、少し顔を赤くして、小さく手招き。

 なぜかバツが悪そうなロアと一緒に鏡の前に立ってみる。


「メルナ、目、閉じてて」

「え?」


 既視感を感じるセリフ。

 言われた通りにすると、頭を触られるのが分かった。細い指がわたしの髪の毛を摘んだり、撫でたり、時たま前髪をくすぐるロアの吐息に照れていると、「ふふ」という笑い声の後、目を開けていいよと告げられる。


「え、うそ……」

「あはは、考えること同じだね」


 わたしの頭には見覚えのある髪飾りが乗っていた。

 同じ髪飾りを頭につけたロアが笑う。わたしは返す言葉が思い浮かばなくて、ただ、つけてもらった髪飾りを指で撫でてみた。


「ホントいうと、アタシも久々に冒険してみたくてさ、買ってみたの」

「そう……だったんですか」


 嬉しいような、寂しいような。

 わたしが背中を押さなくても、ロアはちゃんと自分を愛することができるんだ。

 でも、よかった。


「多分、自分で買ったらこっそりつけて終わってたと思うけどさ、メルナが買ってくれたんだから毎日つけないとね」

「そうしてくれると、ありがたいです」

「でも、うーん。やっぱりメルナの方が似合うね。アタシもかわいいを磨かなければ!」

「そ、そんなことありません。ロアの方がずっとずっとかわいいです!」

「そう……かな。お世辞でもちょっと照れるよ」


 お世辞なんかじゃない。

 鏡に並んで見てもわかる。ロアはかわいい。

 わたしよりも少し大人な雰囲気とか、それでいて表情豊かで明るくて……、比べるだけでも失礼なくらい。同じ髪飾りをしたことで、それが浮き彫りになる。


「わたしには、これはかわいすぎます」

「あはは、そこまで同じじゃなくていいよ」


 ハッとする。

 かわいいは自分を愛すること。さっき自分でも言った言葉だ。


「でも、わたしには自信がないです。ロアはキレイだし、かわいいからいいですけど……」

「嬉しいけど、嬉しくないような言葉だね。でも、今後愛せるようになればいいよ」


 頷く。やっぱり自信はない。

 こんなに急に、自分の全部を愛することはできないのだ。

 そんなわたしの様子を見て、ロアは冗談っぽくこんなことを言う。


「それまでは、アタシが足りない分愛してあげるよ。なんてね」

「え……?」


 にししと笑って、鼻歌まじりにわたしの部屋から去っていくロア。

「おやすみ」の言葉を返すことは、もちろんできなかった。

 誰もいなくなった部屋、ロアがいた場所をキョトンと見つめる。


「足りない分……愛する」


 ロアの言葉が耳から離れない。

 もしも、本当にそうしてくれたのなら、わたしは可愛くなれたのだろうか。

 足りなかった器に注がれて、一人分の愛で満ちたのなら、わたしはどう変わるのだろうか。

 確かめる術はない。

 今は鏡を見られそうにないから。


「ね、寝よう! 寝よう! 寝るぞ! ……寝られるかな」


 こうして、人生最初の休日は終わっていく。

 わたしの気持ちが安まるのには、もう少しだけ時間がかかりそうだった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

面白かった、続きが気になるなどございましたら、

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感想、ご意見、いつも本当にありがとうございます。

おかげさまで毎日頑張れています。

これからも投稿続けて参りますので、よろしくお願いいたします。

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