表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/76

輸送船って足が遅いから、自分たちで見張りをする。目的の島は日本の租借地で光島って呼んでるらしい。

この日の日没から、乗務員の海上見張りが始まった。

「艦長から船内の諸君に通達する、先ほど我が輸送船の護衛に基地から飛行機が直上監視任務を行ってくれたことは承知と思う、本船は監視が必要な海域に入っていることを理解して欲しい、そして夜間の監視が出来ない飛行機の代わりと十分な監視を行なうために、私たち乗船員が夜間の監視を実施する。監視体制の詳細は別途各隊長から指示を受けることとする。」

突然の艦内放送に、ゼロ戦の飛行を見た高揚感と今日の夕飯のメニューを心配していたお気楽な気分が一気に吹き飛んだ。

「艦長もずいぶんと気合が入ってますね、でも今まで監視海域でイレギュラー事例なんて無かったでしょ」と北沢さんが軽口調子で問いかける。

「酒田くん、少し説明してくれ、酒田くんがこの4人の中で一番の事情通だからな」

「はい、岩崎さん。まず我々の任務先では、太陽光発電が実用段階中、それと物理科学の基礎実験と実証実験を行なっている、これはある国と島の租借を国レベルで交渉を行い、20年間の借用と日本の自治権を獲得した上で行っている、言って見れば重要な日本の国家プロジェクトになる。」北沢さんが話を中断し3人を見回す。

「各国にも、事前に目的を説明しているが、太陽光発電と科学の基礎実験と実証実験の実施であれば、気にもしなかったのだろうが、任地での設備の工事状況、貨物船の物資供給量などが、漏れ伝わる様になり、各国が真剣に関心を持ち始めたということだ、さらにゼロ戦での海上監視が始まると、『ただの実験設備では無い』と考えを改めて、ありとあらゆるルートを使って積極的に調査・観察を始めたと聞いている。

さあ艦長から監視実施の指示が出たんだ、早速開始しよう。

「監視は1時間交代、酒田くんが最初で北沢くん、私岩崎、最後が伊吹くんの順序でローテーションしたい、伊吹くんは監視任務が初めてだから、今夜は私と一緒にやろう、では監視任務開始だ。」

岩崎さんが話を切り上げると、酒田さん、北沢さんが「はい分かりました」と返し、さっと行動に入る。無駄な動きのない、経験を積んだ人の動きだった。

岩崎小隊長が「い・ぶ・き、挙動が変だぞ、大丈夫か、俺たちの監視任務は2時間後だ、軽く夕飯を食べて休憩待機にしよう、たぶん夜食がでるから、満腹になるまで食べるなよ、監視任務で眠くなるぞ」「それと、海図は持って来い、暗くて分かりにくいが今日は満月に近い月齢だから、暗視装置が無くても結構明るく見えるぞ。

監視の時間となった、北沢さんに「交代です」と告げると「おっ、交代待ってたぜ」と背伸びのストレッチをしながら答え、「伊吹は指定の作業服だけか、夜風は寒いぞ、船も船足を上げているから余計に風が強い、昔の海軍なら根性で何とかしろだろうが、この時代は気合と根性じゃないから、俺の毛布を貸してやる、使え」と毛布を渡される、「ありがとうございます」と答える。

北沢さんは続けて「伊吹は民間で搭乗員の養成を受けたんだよな、総飛行時間はどれくらいだ」「はい、単独飛行時間は約500時間です。」

北沢さんはものすごく驚いた表情になり「500時間かすごいな、岩崎さんが十分な戦力になると推薦した訳だ。」「でも体の線が細いな、もう少し筋肉をつけないと特殊飛行のGに耐えられないぞ、アドバイスって柄じゃ無いけど、空いている時間に筋トレをした方がいい。対G耐久はこれからの任務に絶対に必要、最低でも6Gは必要。」「それに、Gに負けて操縦席でゲロったら機器故障の原因にもなるし、掃除は自己責任だからな」「さて『監視任務 引継ぎ事項なし、以上』、俺も仮眠するわ」と北沢さんは船内に戻っていった。

岩崎さんは少し遅れて来た。「悪い、少し遅れた。おっ毛布持参か、夜間の監視任務分かってるなと、監視の要領を説明する、説明は耳で聞いて、目は海面に注目だ。」「はい、お願いします、後毛布は北沢さんからお借りしました。」「ははっ、北沢も少し丸くなったか、部下に気を使えるなんて、そろそろ狂犬も卒業だな。」とカラカラと笑いながら話を続ける。

海上は風も無く凪の状態で白波も見えない。船の進ことによる風が顔をやや強く叩き、音は微かに聞こえるエンジン音と風切り音のみ。煙突からの煙の匂いで、ディーゼルエンジンであることが分かる。

今どきの船にしてはやけに旧式、何か特別な意味があるのかと思い始める。そもそも今どきの貨物船で肉眼での見張りなどナンセンス、各種レーダー、ソナーなどの装置で監視を行なうのが当たり前のはず。

「小隊長、すいません、質問があるのですが」「2人きりの時は叔父さんでいいぞ、残りの2人知っているし。」「はい、叔父さま。いろいろあるのですが、まずゼロ戦が飛んでいることです。先の大戦での飛行機ですよね。もうそろそろ100年、1世紀前の飛行機ですよ。叔父さまは現役の航空自衛隊の自衛官でイーグルドライバーですよね、酒田さんも北沢さん同じだと思います。現役のバリバリのパイロットが集められて、なぜゼロ戦なんですか?また、そんな貴重な人材を移動とは言え、この船は装備が古すぎます。しかも単艦での航海です、危険すぎると思うのですが?」

「まあ、おいおい分かるが。今説明できるのは、私物のコンピュータやゲーム機などある程度の制御機能がある機械・機器は、船の出航時に電源を落とし指定の保管箱に収納し、任地到着まで出しては行けないと言われたよな、それが一番の根っこの理由だ。」

「指定の保管箱に収納したのは荷物を整理するのが理由ではなく、収納しておかないと機械・機器に動作不良か異常動作が発生する可能性があるから」「そしてその異常が発生する状態は、ゼロ戦が哨戒飛行を始めた場所辺りから始まっている、もちろん現時点の場所もそうだ。」

「質問の答えになっているか分からないが、この場所は半導体などが異常を起こす地域になっている、細かい理屈は俺も分からん、したがって半導体などのない先の大戦時代以前の機械・機器装置しか安定動作の保証が無いということ。だからゼロ戦を製造し、貧弱な装備の貨物船を製造して運用している」

「そしてその原因となる構造物/装置が任地にある」「もちろんこの異常動作になる状態は、任地からの距離に比例する、いまは半径300km以内が異常動作地域としているが、正直言って解析しての数値では無く実績ベースだ、歯切れ悪くてすまんが、俺にも分からないことが多い」

翌日の昼頃、部屋でも暑ちいぜ、空調聞いているのかと思っていたら、館内放送。「艦長から船内の諸君に通達する、我が輸送船は目的の場所である「日本名:光島」に間もなく到着する、各自下船の用意を始めて欲しい、いろいろ不自由があったが、事故も無く到着できることに感謝する」

岩崎小隊長が「さて下船の準備、いや任地到着だ。下船時の荷物は私物のみで良い。みんなも任地を見たいだろうから、甲板に上がろうか」

北沢さんが「一番見たいのは岩崎さんだぜ」と耳打ちしてくる。「何か言ったか北沢、任地の状況を把握するのは、これから監視・警備・防衛を行なう我々に必要な準備作業と思うが」「はい、小隊長のおしゃる通りです」と答えながらも、こっちを見て舌を出す。

この人は本当に規律規則を叩き込まれた現役自衛官だろうか?お調子ものにしか見えない。「狂犬」の2つ名の由来は何だろうと考えながら、タラップを上り甲板に到着する。

「島影見えますね、しかし予想以上に何もありませんね。」「本当に平らだな、真ん中の山の標高は100mあるかな、で、右側の平らな場所が受信パネルだけだから、その隣の建物らしきものが実験設備、山の向こうが飛行場でいいのか」「はい、そのはずです、桟橋はまだ見えませんね」と酒田さんと岩崎さんが話をしている通り、ほぼ平らな島だった。

伐採されたのか、森林場所も少ない様に見える。チャートを広げて確認すると、細長い楕円形に見える。本当は任地に到着した高揚感に溢れてくると思っていたが、建物設備がほとんど無いただの島に唖然としたのが感想だった。

船員が小走りで甲板に集合している4人に向かって小走りでやって来た。岩崎さん向かい完璧な敬礼をし、答礼後に「船長から伝令です。本船は飛行場設備に先に接岸するとのことです、上陸準備お願いします。」だけを言い切ると見事な回れ右をして帰っていった。

「さて、いよいよ上陸だ。荷物を最終確認と作業服に着替えて各自部屋で待機、甲板での作業は接岸中の迷惑にならないように」と岩崎小隊長からの指示で解散となった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ