アルルーナ、お仕事をする
ここはサンドラ大陸北西、アガート王国。
そこには書籍館と呼ばれる、大陸いち大きな書庫がある。
冷涼で乾燥した気候が本の保管に向いていたのか、数百年前にとある本マニアがこの国に住み着き、大陸全土から本を集めに集めた結果、途方もない量になってしまったものである。
書籍館は今でも本を集め続けている。
本マニアの子孫が思いを受け継いで運営している、というより、本マニアの子はまた本マニアであった。
生まれた時から書籍館で過ごしていることで、さらに拍車がかかり知識欲の亡者と化した一族に成り果てている。
かく言うこの私、アルルーナもその一族の末席に名を連ねているが、父や兄ほど本馬鹿にはなりきれなかった。
「ルルおじょーさまは客観視って知ってます?」
「そうねえ、例えばメイサン侯爵令嬢が私のことを『傲慢で浪費癖のある書籍館の令嬢に相応しくない女』と呼んでいたけれど、それも客観的よね」
侍女のカンナは黒髪の頭を振りながら大きくため息をついた。
「そーっすね、おじょーさまをよく知らない人はよくそんな事を言いますよね。でも私からしたらねえ、ず〜〜〜〜〜〜〜っと館に籠もって本を読んでる令嬢は、本馬鹿って言うんです!」
あっ馬鹿って言ったわね?仮にも雇い主に向かって。
「違うわよ。私はお父様みたいに食事中まで本を読んだり、お兄様みたいにお茶会に文庫を持参したりしないもの」
「でもおじょーはトイレに本を持ってくじゃないすか!より悪いです!」
「だってトイレって暇じゃない?」
「トイレでは排泄に集中してください!」
カンナと日課のバカバカしいやり取りをしながら、私は手元の本のページをめくった。
カンナはと言えば、無駄口を叩きながらも私の身の周りを整えてくれている。
特にクルクルと巻いている私の髪の毛には悪戦苦闘しているようだ。
クルクルなんて生易しいものではない。訂正する。グルングルンの髪の毛。
黄色味の強い金髪が竜巻のように何本も巻いている。
そしてそのうねりはカンナの手によって、「これは癖毛ではなくてあえて巻いているのですよ」とばかりに偽装されていく。
普通であれば、腕の良い理髪師が数名がかりで作り上げるような髪型だ。
「今日も相変わらず豪勢な髪ね。自分のことながら」
「豪勢というか……豪奢というか……ルルおじょーさまは髪色も染めているように見えますもんね」
この髪型が、初対面の人間などには『金遣いの荒い令嬢』という印象を与えるようだ。
だが、この癖毛を直す髪型のほうがお金がかかるし、そんなお金があるなら本を買いたい。
ああ本が買いたい。
「ダメですよ、こないだ買ったでしょう」
カンナ、心を読むんじゃない。
「たかが本にこれだけお金を使うってのも、本をさっぱり読まない人間からしたら見たら浪費に見えるんすよねぇ……」
「カンナも読めばいいじゃない。うちの本は読み放題よ?」
「わたしはいいです。本って頭痛くなるから」
カンナとのおしゃべりに花を咲かせていたら、部屋のドアがノックされた。
「レイザンです。お嬢様、そろそろ……」
護衛騎士のレイザンがドアの外から声をかけてきた。もうそんな時間か。
「はーいレイ兄。もうすぐ終わるからちょっと待っててね〜」
「カンナ、言葉遣い!」
レイザンはカンナの兄であるが、カンナと違って礼儀正しい。
しかし妹の教育には難航しているようだ。
「待たせたわね、レイザン。カンナに少し叱られてて遅くなったわ」
支度を終えて部屋を出ると、黒髪の騎士が膝をついていた。
「お嬢様を叱るなんて身の程知らずは、後程成敗しておきます」
レイザンは立ち上がると山のように大きい。背が低めの私と話すときは膝をついてくれる。
私ももう少し伸びるかと思ったが、もう15になった。
レイザンに似て背が高めのカンナを見下ろす夢は叶わないだろう。
「カンナ、今日の予定に変更は?」
「ありません。朝食のあとユリス博士のご来館があり、午後はリーズレーブ伯爵夫人のご相談対応、お茶の時間にマツリカ男爵家のユナお嬢様がご報告にいらっしゃいます」
「ユリス博士ね……正直時間の無駄だからすっぽかしたいけれど、ダメ?」
「お気持ちはわかりますがダメです」
朝から憂鬱だ。仕事に行きたくない。部屋で本を読んでいたい。
「お嬢様のお仕事ぶりは、私が館長に確かにお伝えしますから」
「その後にお小遣いをねだりに行くわ。頼んだわよレイザン」
少しやる気が出てきた。やはり対価は大事よね。
ちなみに館長は私のお祖母様で、お祖父様はアガートの王宮に宮仕えをしている。
お祖父様も本は好きだったがなにぶん婿のため、お祖母様や息子のお父様ほどの本馬鹿ではなかった。
私は書籍館の受付に座り、高齢の男性と対峙している。
「今日こそは『わかりません』と言わせてやるぞ小娘め!」
「館内ではお静かに願います」
ユリス博士は「本当に新しい知識はまだ本になっていないのだから、書籍館というのは凡才が見聞を広めるためにあり、儂のような賢者には不要なのだ」と言って憚らない頑固爺だった。
しかし、自宅内で紛失したという本がどうしても必要になり、書籍館に借りに来たところ書名をど忘れしたため、受付にいたアルルーナに無茶振りをし、そして的確に必要な本を持ってきたアルルーナを敵対視している。
なんでなのよ……感謝されこそすれ、恨まれる覚えはないのに。
まあこの頑固爺と話していて、だいたい考えていることはわかったのだが、『この娘は賢い』『しかしこんな小娘が賢いわけがない』『この世で一番賢い儂との差をわからせてやる』という、なんとも小さい理由だった。
私は賢いわけではなく、この書籍館に詳しいだけだ。
どこにどんな本があるかだいたい把握しているから、本の内容までは記憶していないが、必要に応じて巨人の肩を引っ張り出してくるだけなのだ。
カンナに言わせると「それも一般人には持ち得ない特殊技能なんですけど……」とのことだが、自宅のどこに何があるくらいは誰だってわかるのだから、それが少し広いくらいの話だ。
「今日は魔人大陸についてだ。さすがに魔人大陸についてなんて、何もわからんだろう?」
「魔人大陸ですね。エミリオ・ペローの『航海記』の他ですと、近年ではバンデルシュットの『魔人大陸はゴティス帝国の陰謀だった!〜捏造された幻の大陸〜』などの本がありますが……」
「そんな嘘まみれの本を読むとは、やはり小娘は小娘だな!儂が聞いているのは魔人大陸に関する正確な情報だ。確たる裏付けのある情報を、答えられるかね?」
この爺、ついに自分だってわからない問題を持ってきたわ。
魔人大陸とは、このサンドラ大陸のはるか西にあると言われている大陸だ。
そしてそこには、魔人という神話上の存在が住んでいるらしい。
魔人大陸に行った事があるのは、エミリオ・ペローの船ただ一隻のみだ。
それも大嵐に巻き込まれ、生きて魔人大陸に漂着できたのは数人で、そのうちペローのみがサンドラ大陸に帰還した。
その顛末を記したのが『航海記』である。
ペローは世間的にはフィクション作家として扱われている。
彼の話は荒唐無稽で、裏付ける証拠はなにもなく、妄想を本当のことのように書いたか、もしくは気が触れたかと言われていた。
しかし『航海記』は非常に描写が細かく、特に魔人大陸に関する設定は豊かな発想に溢れており、それを元にファンが書いた創作小説が多く出ているほどである。
「…………少々お待ちください」
勝ち誇ったような笑みを浮かべるユリス博士に背を向け、後ろに控えていたレイザンを伴い目的の書棚に向かった。
「そもそも、そんな情報があるなら大発見よね?魔人大陸を本気で信じている人なんて……冒険者のうちには居るかもしれないけど、普通は与太話として分類するわ」
「しかしお嬢様、あの博士が自分でもわからないことを聞いて、満足するとは思えないのですが」
「確かに……何かをつかんだのかしら。だとしたら、まだ本になっていない情報の可能性が高いわね。前回博士が来館したのはいつだったかしら?」
「先月の半ばっすね」
別の棚を見ていてくれたカンナが、棚の裏から現れた。
「その間にあったこと……魔人大陸……証拠……、先月の末に西海岸で大きな嵐があったわね?」
「ありましたね、過去最大級の被害だとか何とか」
「その後に、王都で臨時のオークションがあったわね」
「………なんでそんな事まで知ってるんすか?あれは一部の貴族にしか招待状が行ってないはずですけど」
「カンナが知ってるのもおかしいと思うけど……それは置いておいて。引きこもりの私に、世の中の噂を教えてくれる有り難い親友がいるのよ。でも何が出品されたかまではわからなかった。おそらくそれは、魔人大陸からの漂着物だったのではないかしら」
カンナとレイザンはよく似た焦げ茶の瞳を同じように瞬いた。
「それをユリス博士が落札したと?」
「毎月のように来館してる博士にそんなお金ないと思うわ。落札した人が漂着物の鑑定を博士に頼んだというところかしら。一応、この国で一番知識があるとされている人だから」
「じゃあそんなのわかりっこないじゃないすか!」
カンナがプンスカしながら地団駄を踏んでいる。棚が揺れるからやめなさい。
レイザンは静かに考えたのち、カンナに私の護衛を頼みどこかへ消え、しばらくすると紙の束を持って現れた。
「お嬢様が思い至ったのはこれですね?」
「さすがレイザン。なんて優秀なのかしら。いい子いい子」
膝をつくレイザンの黒髪をナデナデしてあげると、恥ずかしさに耐えられなかったのか、無理矢理私に紙の束を押し付けて離れてしまった。
「え?え?レイ兄にはわかって私にはわからないってなんだ〜!?おじょーさまそれなんですか!?」
「カンナは見たことなかったかしら。これはお父様の図書貸し出し簿よ」
近くの机に紙束を広げ、一枚一枚確認していく。
「おじょーさまは本持ち出し自由ですよね?」
「私はね。お父様は若い頃よく食事で本を汚したから、お祖母様が貸し出し簿を作らせて汚れたぶんはお小遣いから弁償する仕組みを作ったのよ」
「食事中は本を読まないって教育することはできなかったんすか……」
「お祖母様自身が食事しながら本を読む人だったから説得力がなくて……お祖母様は少食だし所作も優雅だから、本を汚すことがなかったんじゃないかしら」
私の手にある紙に目的のものが見つかり、無駄話は中断した。
「……『世界言語辞典』『顕微鏡による素材分析図録』『マイヤーズ式抽出手法』……このあたりかしら」
「そのこころは?」
「まず、いくらユリス博士が博識だと言っても、彼の専門は歴史学だから、高度な他分野の専門知識はないでしょう。だから新たに資料を集める必要があるはずよ。買える本は買えばいいけれど、このあたりの本はやたら高かったり、もう手に入らないものばかりなのよ」
「それを借りに来たってことすか」
「私にバレないために、お父様にわざわざ頼んでね。レイザンはお父様の護衛をしていたことがあるから、この貸し出し簿を知っていたのね。レイザン、お父様は何がおっしゃってた?」
「いえ……特に何も聞かれず、すぐにお渡しいただけました。あ、ただ独り言のように、『やっぱり僕が見たほうが早いんじゃないかな……どうでもいいけど』と仰っていました」
「そうね。ほんとにどうでもいいわ」
「というわけで、魔人大陸の実在可能性を高める証拠があるけれど、見たこともない言語が記載された、見たこともない素材の物体であることまではわかりました。ユリス博士もご承知の通り」
「……全く可愛げのない小娘だ。女は多少馬鹿な方が可愛いというではないか」
「あいにく我が家の家訓は『知識こそパワー』なものでして」
ユリス博士は顎の白髭を弄りながらイライラと貧乏ゆすりをしたあと、観念したように懐から包みを取り出した。
「その証拠がこれだ」
「……開けてよろしいのですか?」
「開けたからには、有益な知識をくれるんだろうな?」
うるさいので無視して包みを開いた。見たことのないものと聞くと弱いのだ。我が一族は。
包みはとても軽く、中には白い容器が入っていた。
こんなに軽いとは、ハリボテか何かだろうか?しかし触った感じは違うようだ。
蓋は引っ張っても取れなかったが、ふと思いついて回してみたところ外れ、中身はからだった。
表面には未知の言語が印字されているが、荒波を超えてきたというのに文字ははっきりと残っている。
「金属でも木製でもないですね。もちろん陶器でもない。恐らく、我々の未知の技術で作られたものに見えます……職人街テザネスに確認した方が良いですが」
「言語はサンドラ大陸のどれにも似ていなかった。魔人大陸のものだと儂は確信しているが、決め手がない。誰かがお遊びで作ったものだという可能性を排除したいのだ」
そこにカンナがボロボロの本を持ってきた。本当にボロボロなので、手袋をして慎重に運んでいる。
「おじょーさま、これでよかったですか」
「ありがとうカンナ。問題ないわ」
「なんじゃそのゴミは?」
私はゴミのように見える本をめくり、目的のページを探しながら答えた。
「ペローの『航海記』は出版のために書かれたものです。これは、その元になったペローの『航海日誌』ですわ」
頭のおかしい人間を見る目で、ユリス博士が私を見た。
気にせずページを繰る。
「航海日誌はペローの日記になっています。魔人大陸への漂着前の分は海の藻屑となったようですが、これは漂着したその日からの日記が書かれています」
「なぜそんなものがこんなところにあるのだ!?」
「ここになかったらどこにあると言うんですの?ここは書籍館ですよ」
「それがあれば……魔人大陸の存在が証明できるのでは?」
「いいえ。この本はサンドラ大陸製のただの日記帳ですし、内容は『航海記』を口語にして読みにくくしたようなものです」
ユリス博士はわからないというふうに眉をひそめる。
「じゃあなぜわざわざそれを取ってこさせた?」
「『航海記』に入らなかった、読みにくい捨てられたゴミのような情報の中に、探しているものがあるかもしれないからですわ」
そこからはユリス博士を完全無視して、内容の読み解きに集中した。
この日誌、存在は知っていたけれど読んだことはなかった。何しろボロボロだし、『航海記』は読んで「夢はあるけれど、ヤマも落ちも無い無感動な小説だったな」という感想だったからだ。
この書籍館の本を全部読めるとは思っていない。お祖母様くらいになれば、半分は読んだのだろうか。
短い人生、何を読んで何を読まないのか、それが問題だ。
もうすぐ昼食か、という時間になって、その一文は見つかった。
「ユリス博士、これを見てください」
「字が汚すぎて読めん」
「気合で読むのですわ。『今日は暑かった。◎◆▷×が飲み物をくれた。見たことのないものでできた器に入っていた。叩いても割れず、とても軽い。なんだろう。◎◆▷×に聞いたがよくわからなかった。』って書いてあります」
「それだけか」
「それだけですわ。だから省かれたのでしょうね」
ユリス博士は腕を組んでうなっている。
「言いたいことはわかる。しかしこんなもの、どうしろというのだ」
「そうですね。ペローの『航海日誌』なんてとてもうさんくさいですものね。ただ、ここは書籍館です。管理番号を見たところ、これは『航海記』が発行された年から管理されているもののようです。また、ペローの筆跡鑑定も行われておりますので、この日誌は本物であると書籍館が保証いたします」
私にできるのはここまでである。あとはユリス博士がどうするかだ。
「ペローは魔人大陸で叩いても割れなくて軽い謎の器を見た……そして、謎の言語が書かれた、叩いても割れなくて軽い謎の容器が西から流れ着いた……フム……日誌に、言語のことは書いていないのか?」
「私もそれを期待したのですが、ペローは『早く帰りたい』と何度も書いており、言葉を覚える気は一切なかったようです」
「これだから向上心のない凡愚は……」
ユリス博士は舌打ちをして、八つ当たりのように私を睨みつけた。
睨み返したらひるんだので、少し胸がスッとした。
「ふ、ふん。では、そのペローの『航海日誌』を半年儂に貸出せ。金額の見積もりはいらん。請求書だけ送ってこい」
「いえ、この本は保存状態が悪いため貸出せません。館内での閲覧のみとなります」
「何ぃ??生意気な!いくらでも払うと言っとるのだぞ!」
「決まりですので」
ユリス博士は真っ赤になって頭から湯気を出し始めた。
これはかなり怒ってるわ、耳栓をしておきましょう。
「こっっの……儂を誰だと思っておるのだッ!!!!!小娘がッ!!!!貴様などッ!!!!!いつでも投獄できるのじゃぞ!!!!!づべこべ言わずさっさとそれを渡せ!!!!!!」
館内ではお静かにぃ………あーあ、さすがにお祖母様まで聞こえたかしら。
他の来館者は今はいないが、一人分の足音が受付に近づいてくる。
「おや、やかましいと思ったら師匠じゃないですか」
「お母様、いらしてたのですか」
高齢の祖母にしてはキビキビした足音だと思ったら、軍服を着た母だった。
母は軍事史学者であり、アガート王国軍に軍師として招かれている。
学者である前に軍マニアをこじらせており、普段から軍服を着ている変な人だ。
「少し参照したい事項があってね。ちょうどいい、師匠の意見も聞きたいから軍司令部に一緒に行ってくれませんか?」
「師匠と呼ぶな!お前は破門にしたはずだ!人殺しなんぞになりおって!」
そんなユリス博士の罵倒を、全く意に介さない母。
私の肝の座り方は母に似たとよく言われる。
「そりゃまあ戦争なんで人は死にますけれど、できるだけ人的損失なく勝つために私は研究を続けているんですよ。さあさ行きましょう師匠、人生残り少ないんだから早く歩いてください」
母は私にウインクしたあと、ユリス博士を押し出すように館を去っていった。
助けてくれてありがとう、お母様。
でもわかった。ユリス博士はあの母に振り回された恨みを私で晴らそうとしているのだ。やっぱり先程のありがとうは取り消させてもらう。
「魔人大陸については、どうなるのでしょうか……」
静かになったのを見計らって、レイザンがつぶやいた。
「まあ、この件でユリス博士がまたここに来るとは思えないから、さっきの漂着物は貴族の間で少し話題になって、冒険者が何人か海に消えて終わりでしょうね」
「そんなものですか」
「魔人大陸に行く術はまだないわ。大西海を西に進んでも寄れる小島すらないし、潮の流れも悪いし風向きも悪い。行けないものは、ないものと同じよ」
本当にあるなら行ってみたいが、私が生きているうちには難しいだろう。
「さ、うるさいじじ、いえお年寄りもお帰りになったことだし、お昼にしましょうか」
「おじょーさま、昼食ですが、館長と旦那様がご一緒にと仰ってました」
「あら、今日はお二人とも昼食の時間を覚えていたのね?珍しい」
祖母も父も本に熱中すると、従者が声をかけても聞こえないので困ったものである。
祖母と食事なんて久しぶりだ。今はどんな本を読んでいるのだろうか。聞くのが楽しみだ。
午前の仕事は疲れたが、少し疲れが取れるような気がした。