5:旅立ち
5:旅立ち
「この化物め! いったいこの短剣をどこから盗みやがった。 これはそんじょそこらにある品じゃねぇ」
鍛冶屋の主人は、透けて、下の砂粒まで見えるようになった顔を、容赦なく踏みにじった。 右手の鉈を首筋に押し当てると、さらに激しく罵り、短剣の出所を問い詰めた。
なおも答えないでいると、主人は顔を執拗に踏み躙った。
耳の先まで真っ赤になった主人の背後から、通いの小女が、おそるおそる寄って来ると、消え入るような声で来客があることを伝えた。
「こんな朝っぱらから誰かは知らんが、帰ってもらえっ。 今は客どころじゃねぇっ」
主人の剣幕に怯えた小女が、慌てて母屋に戻ろうとすると、その客人は既に中庭の入り口にまで来ていた。
「ちょ、ちょっと、お客さん、困ります!」
小女は止めようとおろおろしたが、客人の方は、気にかける様子もなく、中庭の中央へと歩みを進めていた。
――あの時の、白い人だ――
客人の青年は、オーレンではほとんど見ることのない、やや暗い金色の髪をしていた。
鮮やかな青色の瞳と、透けるように白い端正な顔立ちは、明らかに他国の人間のものだった。 青年は何も言わず、顔を踏まれたままの少年をまず見つめ、次に、顔を踏んでいる肥満の男の手に握られた、銀の短剣に目を止めた。
「あなたが、ダーストン殿か?」
肩に羽織るフードつきの外套も、身体を包む全身の衣も真っ白だった。 襟元や腰紐などの濃い鮮やかな青と、手袋や剣帯・長靴の黒茶が、その姿をきりりと引き締めている。
青年は腰に、高名な〈方円の騎士団〉の徽章である〈八芒日月〉の紋が箔押しされた、しなやかな黒革の剣帯を締め、見るからに質の高い長剣を帯びることで、〈正騎士〉の身分であること暗示していた。
レーゲスタにおいて、〈正騎士〉(一般には〈騎士〉と称される)の称号を得られるのは、〈方円の騎士団〉という騎士・剣士の組合に、その資質を認められ、課された過酷な試練を克服し、正式な叙任の儀を受けたごく一部の者だけである。
〈正騎士〉となった者は必ず、その身分を示す、騎士団の徽章〈八芒日月〉を、身の何処かに着けておかなければならない掟がある。
青年の剣帯にある、大小二重円に、八芒の星と古代ユール語を配し描かれた独特の文様は、物語の中でも幾度となく語られており、自分なりにその図形を想像していたが、本物を目にするのはこれが初めてだった。
――こんな若い人が、騎士、なんだ――
踏みつけにされている痛みも忘れ、目の前に現れた青年の姿に、素直に見惚れた。
大人びた、沈着な雰囲気を纏ってはいるものの、その青年はどう見ても、トランと大差ない年齢に見える。
主人達の動揺と反し、場にそぐわないほど落ち着き払った青年の肩には、猫の倍はある黄金の毛並みの獣が座り、光る緑黄色の瞳で、獲物を狙うようにこちらを見ている。
驚くことに、その獣は嘴を持ち、背には一対の大きな翼を広げていた。
鍛冶屋の主人は、ようやく踏みつけていた少年の顔から足をはずすと、青年の上から下までを撫し付けに見た。
「ふん。 お前さん。 ただの騎士じゃなく〈獣騎士〉か。 その獣。 彫刻などでは見たことがある。 いまじゃ、滅多にお目にかかれねぇ、〈聖なる獣〉ってやつだ」
青年は、鍛冶屋の主人の言葉には答えず、トランに近付くと、その焦茶の目を見据えた。
「放しなさい」
青年の声は、決して威嚇的なものではなかったが、トランを圧する力があった。
解放された少年の、手の戒めを解き立ち上がらせると、青年は視線を鍛冶屋の主人に向けた。
「その短剣。 それは、あなたの物ではないはずだ」
鍛冶屋の主人も、青年の言葉に一歩後ずさったが、踏みなおし、鉈を持つ手を青年に向け、嫌悪に満ちた目で二人を睨みつけた。
「騎士ってのは、何より礼節を重んじるものだって聞いている。 実際、おれの所に剣を求めに来る者は、あんたらより下の剣士でさえも、まず名乗り、剣を鍛える鍛冶に敬意を払う。 それがどうだ? あんたは、見ず知らずの他人の家に許しもなく勝手に入り込み、訳の分からねぇことを言いやがる。 騎士は騎士といっても、所詮、獣を操る獣騎士には、そんな礼儀もないってわけか?」
嘲るような笑いを浮かべながら、主人は相手の反応を待った。 青年の肩の獣が低い唸り声を上げ、翼を広げた。 しかし、青年は肩の獣にそっと手を上げただけで、主人の顔を見つめたまま何も言葉を発しなかった。
すぐに反応が返ってくると思っていた主人は、さらに顔を赤くし、声を荒げた。
「お前さんには、耳も口もあるだろう? なんとか言ったらどうだっ」
「――名乗らぬは、確かにこちらの非礼。 侘びを申しましょう。 私は、アラスター=リージェス。 ティルナの〈精霊王殿〉に仕える獣騎士」
鍛冶屋の者達は、皆一様に驚きの表情となった。
〈ティルナ〉は、レーゲスタに神の御子エランが降り立った最初の地とされ、現在でも〈聖都〉と神聖視される、許された者しか立ち入れぬ神聖不可侵な古王国の都だ。
〈ティルナ大神殿〉(精霊王殿)は、〈ティルナ〉の心臓であり、大陸全土に影響力を持つという、《精霊王》の住まう最古の神殿であった。
アラスターと名乗った青年は、淡々と言葉を続けた。
「ダーストン殿の職人としての技量の高さは耳にしている。 確かに、技、だけならば一級の腕の持ち主であろうとお見受けする。 だが、職人としてのあなたと、人としてのあなたは違うようだ。 その違いは、剣にも少なからぬ影響を与えるものだと、私は思っている」
静かなアラスターの物言いに、鍛冶屋の主人はさらに激し、鉈を振り上げ怒りを顕にした。
「お前さんが何者だろうと、ここはおれの家で、そいつはおれの使用人だ。 勝手なことはさせねぇ。 そのガキを置いてとっとと出て行きやがれっ」
「そ、そうだ。 そいつは盗っ人の化物だ。 そいつは裁かれなければならないっ」
トランが師匠の横に歩み出て、自己主張を始めた。 他の二人の弟子達も、その後ろに続き、何やら喚いている。
「盗み――。 この少年が何を盗んだと?」
「そいつは、これまでにも色々なものをくすねようとしていたさ。 そしてこの短剣だ。 こんな品、どこかの金持ちの蔵から盗み出さなけりゃ、こんなガキが持っているわけがねぇ」
アラスターはしばらく何も言わず、男達の様子を見ていた。 そして、静かに腰の剣を外すと、鞘の表面が見えるように差し出した。
「この剣の鞘に書かれている文字と、その短剣の鞘の文字は同じ。 刀身にも同じ文字がある。 これは〈精霊王殿〉に仕える者に与えられる神聖文字。 その短剣の所有者は私。 そして、それはこの少年に私が渡したもの」
主人達は、短剣と長剣の鞘、そして刀身の文字を訝しげに見比べた。 しかし、文様のような字の一つ一つが、全く同じだった。
「だ、だが、あんたが本当にティルナの獣騎士か、おれには判断ができん。 それに、そいつが化物であることに変りはねぇ。 あんたにも、そいつの身体が透けて消えかけているのは分かるはずだ。 消えかけているにも関わらずだ、気味の悪ぃことに触れられる身体を持ってやがる。 もともとそいつの目は、あんたの獣のように光りを――」
シュッという声を上げ、アラスターの肩を離れた有翼の獣は、すり抜けざま鍛冶屋の主人の頬に傷を負わせ地に下りた。 主人に向き直ると、再び毛を逆立て威嚇の声を上げた。
「ガーラン。 止めるんだ」
アラスターに制止され、ガーランと呼ばれた有翼獣は、再びその肩にふわりと戻った。
「失礼をした。 これは昨夜獲物を逃し、気が立っている。 侮辱等には敏感だ」
頬に流れる血を拭い、手に着いた赤を目にすると、主人はいきなり鉈を振り上げ、わけの分からぬ叫びを上げながらアラスターに突進した。 あまりの怒りに、主人の顔は赤黒くなっている。
巨体のわりに、主人の動きは素早かった。
太く力のある腕から振り下ろされた鉈は、鋭い唸りと共に、眼前の二人を襲った。
しかし、鉈は空を切った。
アラスターは、庇護をしていた少年の肩を押し脇に退かせた。 するりと半身を引き、主人の鉈を間際でかわすと、主人の後首を逆手で軽く打った。
突進の勢いがついていた主人の身体は、大きな音を立て、地面に突っ伏した。
倒れた際に、主人の手から放り出された短剣を静かに拾うと、アラスターは呆然と見ている少年の手に握らせた。
短剣を手にすると、消えそうに透けていた身体が、幾分しっかりとした色を取り戻した。
「この少年は連れて行きます」
一度ならぬ屈辱に、主人の目は血走り、身体は激しくわなないていた。 顔中にべっとりと浮かんでいた汗に砂埃が張りつき、その形相は歪み、異様な凄みを増していた。
「そ、そ、そんなことは――」
「もちろん。 あなたにはそれなりの対価を払わせていただく。 この少年をこれまで養って頂いたことへの謝礼と――そう、支度金、と言っておきましょう」
言いながら、アラスターは剣帯に下げていた皮袋を外し、困惑した様子で成り行きを見守っていたおかみに手渡した。
おかみは、口を縛っている革紐を解き、中身を覗くと、悲鳴に近い声を上げた。
「あ、あんた。 こ、公用通貨だ。 ガラムだよ。 二十五、いや、三十はある!」
広大なレーゲスタには、各地方独自の地域通貨があったが、大陸全土で通用する公用の通貨も存在していた。 ガラムは公用通貨最高額の金貨で、オーレンあたりでは滅多にお目にかかれないものだった。 一ガラムで、平均的な家庭の一年分の収入に近い額となる。
おかみの言葉に、弟子や小女達も騒然となった。 鍛冶屋の主人も呆気に取られている様子だったが、ただトランだけが、険しい表情で、去ろうとする二人を睨みつけた。
「支度金って、なんだ? そのうすのろのチビを、弟子にでも取るって言うのかい? お偉い獣騎士さんとやらは」
挑発するようにせせら笑いながら、トランは言葉を投げつけた。
「――そうだ」
さらりとアラスターは返答した。
その言葉に一番驚いたのは、共にいる少年だった。 空想の中でだけ描けた自分――騎士になること、が本当になる? にわかには信じられないことだった。
トランの衝撃もまた大きかった。 自分は親の後を継ぐ立場になく、仕方なし田舎の鍛冶屋の跡継ぎになることにを、取りあえずの目標に立てていた。 それが、よりによって最も見下していた奴が、騎士の見習〈従騎士〉になる? そんなことがあってよいものか――。
「は! その化物を騎士に? そりゃあいい! しかし、あんた。 いったいそいつに、どこでその短剣を渡したんだ? そいつは一日のほとんどをこの家の敷地内で過ごしている。 あんたみたいな客があったら、嫌でも目につく。 ひょっとして、あんたも闇森に入っているんじゃないのか? あの化物の森で、そいつと会っていた。 そうさ、その肩の獣だって、聖獣とか何とかいって、本当は闇森の化け物の一種じゃ――」
トランの言葉は、終わりきらぬうちに悲鳴へと変った。
ガーランは、その主人の肩を離れると、トランの顔に覆いかぶさるように舞い下り、鋭い爪をトランの日焼けした顔に食い込ませ、地に押さえつけた。 トランの顔を覆うようにたたまれた翼の間から、引き攣った悲鳴が上がる。
「私は先程警告した。 ガーランは気が立っている、と――」
ガーランの名を呼び肩に戻すと、アラスターは地に伏し、両手で顔を覆っているトランの傷を確かめた。 そして、他の者には聞こえぬ声で、トランの耳に囁いた。
「そなたも、闇森に入っている。 森の臭いが、身に染み付くほどに。 何用あってのことかは知らぬが、ダーストン殿達も、知らぬ行為であろう――」
うずくまったままのトランを一瞥すると、アラスターは少年の側へ戻った。
「加減はしていたようです。 この薬で治療を。 傷の治りが早いでしょう」
おかみに石の膏薬入れを手渡すと、短い去辞を残し、二人は中庭を出て行った。
***
どこへ向かっているのかは聞けなかった。
アラスターは、鍛冶屋を出てから一度だけ、名を尋ねてきた。 答えることが出来ず、ただ首を横に振った後は、沈黙の連続だった。
上目づかいに時折、ちらりちらりと白い横顔を見たが、何となく言葉が切り出せない。
陽はすっかり高くなっていた。
大地には木々の葉の濃い影が、あちらこちらに落ちている。 その影を見て、自分の身体に起こっている様々な変化を思い出し、手に視線を向けた。
手はやはり透けて、その先に在る物が見えた。 足元に、自分の影はあった。 しかし、それは、となりの青年のものとは比べ物にならないほど薄く、ないに等しいものだった。
暗く沈んだ少年に気付いてか、アラスターは道をそれた丘の上にある大樹を指差し、休もうといった。 そこには、背の低い石垣が這うように、東西に伸びている。
古い時代の名残だという。
丘の上を渡る風は、爽やかで気持ちがよく、 上に広がる空も、穏やかな色をしていた。
木陰の石垣に腰を下ろし、少年は、改めて自分の透けてしまった手足や身体を、確認するように見た。 光が直接当たらないためか、多少しっかりとして見える。
「あの……アラスター、さん?」
俯いたままの姿勢で、ようやくぼそぼそと口を開いた。
「ラスター。 親しい者はそう呼んでいる」
「僕、あの……昨日の夜のこと……」
「昨夜、君は自分が何を行ったか、知っているか?」
こちらを見ず、ラスターは言葉を続けた。
「君は自らの意思で、あれに自分の命を差し出し、呪いを受けた」
思いがけない言葉だった。 自分の意思で命を渡した? そんなはずはない!
「そんなっ。 僕が〈闇森の主〉に渡したのは《名》と《影》で――」
「それは即ち、君自身。 《名》は光、《影》は存在。 この世界に存在する者にのみ《名》は与えられ、この世界に存在する者にしか、光は注がず、《影》は生まれない」
ラスターの言葉の意味は、半分も理解できなかった。 しかし、心臓は痛いほどに激しく打ち、酷い眩暈が襲った。
「だって、〈闇森の主〉は――」
あの時の〈主〉の言葉を思い起こした。
言わなかった!
姿は変らない、といったが、命の保障は、最後まで明言しなかった。
「――僕、このまま姿が薄くなって……死ぬの?」
少年の震える言葉に、ラスターは初めてその姿へと視線を向けた。
「《名》と《影》を失ったものは、この光ある世界から闇の世界へと誘われる。 これを死、と取るかは考え方次第。 ただ、君はまだ完全にふたつを奪われてはいない。 君に渡した短剣の石の力もあるが、君の姿は衆人に目視できる。 完全にふたつを失った者の姿は、光の下では見えず、触れることも出来ない」
「短剣の石、の力?」
「〈オスティル〉黄輝石。 光を生み、影を繋ぎ、命を護る光の貴石」
腰紐に挿していた短剣を取りだした。 石は、変らない暖かな光を揺らめかせている。
少年の横に腰を下ろすと、ラスターは木彫りのペンダントを少年の前にぶら下げた。
飴色の木で出来た、古いものだ。
「これ――どこでっ?」
少年はペンダントを受け取ると、両手で覆い包むようにし、胸に押し当てた。
「それは、昨夜君がいた付近に落ちていた」
少年は、目を輝かせた。
「そうだっ。 このペンダントには僕の名が彫られているって、尼僧様が言ってた。
ほら、この裏側に――」
しかし、少年の喜びは瞬時に消え去り、ふたたび薄暗い沈鬱な表情となった。 少年の手から、ペンダントを受け取ったラスターは、その細部にまでしっかりと目を向けた。
「それ……それの裏側に、僕の名前が彫ってあるって、尼僧様は言ったんだ。 でも、その字も……なくなっちゃってる……」
ペンダントの裏面は、鑢で削りでもしたかのように磨り減り、何も読み取れなかった。
「〈変らぬ光と風の護りを わが子カラの幸せを ただ望む〉――古い北方の文字だ」
ラスターは再びペンダントをカラに手渡し、側面に彫られた小さな模様を示した。
「カラ。 “息吹”という意味の北方の古語だ。 おそらくは、君の呼び名だろう」
カラ。 カラ――確かに、自分はそう呼ばれていた気がする。 はっきりとした自信は持てなかったが、耳が、心が、知っていると反応をしている。
じわりと暖かな気持ちが胸に満ちた。
名も顔も知らぬ両親の存在を、初めて、確かなものに感じた。
「しかし、完全な《名》ではないだろう。 《名》は欠けてはならない。 完全なものを持っていなければ、その持つ意味は取り戻せない。 しかも君はあれの呪いを受けている。 周囲の者は、誰一人、君のその呼び名すら、記憶に留める事は出来ない。 君、自身もだ」
カラは大きく息を吸った。
「僕は……僕はどうしたらいい? どうしたら、元に、元の姿に戻れるの?」
すがるようにラスターを見つめた。 しかし、ラスターは前を見つめたまま、しばらく何も答えなかった。
「君は、どうすればよいと考える?」
ラスターの声は、とても静かだった。 目に映る足元の黄花草が、風に吹かれ緩やかに揺れている。
「――返してもらう。 〈闇森の主〉から、《ふたつの宝》を、《名》と《影》を……取り返して、呪いを解いてもらう――」
カラは、自分の言葉に自分で怖れを感じていた。
〈闇森の主〉から取り返す? あの虚ろで不気味で怖ろしい〈闇森の主〉に、自分のような子供が、どうやって挑めばよいというのか――?
「でも、そんなこと……僕に――」
どこに行っていたのか、ガーランが鋭い鳴き声と共に、大きく羽ばたきながら戻ってきた。 ラスターの肩にふわりと下りると、主人に向かい数回、何かを告げるように鳴いた。
「あれは、北に向かったようだ」
ガーランの喉元を優しく撫ぜながら、ラスターは静かに立ち上がった。
「私と共に、来るか?」
ラスターの髪が、風になびき輝いている。
青の瞳が、真っ直ぐにカラを見た。
「僕を、騎士の見習にしてくれるって、本当? 騎士になったら、僕は、〈闇森の主〉と闘って――《名》と《影》を、《ふたつの宝》を、取り戻せる?」
不安な、すがるような気持ちで、カラはラスターを見上げた。 ラスターは、カラの視線を静かに受け止めると、その金の瞳を確かめるように、長い時間見つめていた。
「――まずは、旅の支度を。 先々の話は、それからだ」
ラスターは、ゆっくりと丘を下り始めていた。
驚きに固まっていたカラは、慌ててペンダントを首から提げると、ラスターの後を追い、転げるように、坂を駆け下りていった。
――― 第一章 終 ―――
次回、〈第二章『聖獣狩り』〉に、話は続いてゆきますが、この第一章『ふたつの宝』は、この回で終了となります。
お疲れ様でした。
ここまで読んで下さり、本当にありがとうございました。