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転生令息と前世の婚約者  作者: 千花
9/11

8 ヴィオレット/ルイ

ブクマ、評価いつもありがとうございます!


わたくし事で大変恐縮ですが、4月から投稿のペースが落ちてしまいます(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)

なるべく早めの投稿頑張りますので、これからもよろしくお願いします!

「ルイか。……お前から声をかけるなんて珍しい」


「…そんなことないよ、ノア。私は可愛らしい幼馴染と踊る予定だったのに、君が連れて行ってしまったからね。君は踊ったのだし、ヴィオレット嬢を連れ出しても構わないね?」


私の腰に添えている手に軽く力が入り、ルイ様との距離が近づく。

己からヴィオレットを引き離そうとするルイにノアは目を細めた。


ルイ様の父・アルフォード公爵は宰相であり、ルイ様は次期宰相としてアルフォード公爵と共にしばしば登城しているらしい。それに幼い頃から、王太子と第二王子の友人として親しくしていたようだ。私は2人の砕けた口調に、殿下とルイ様の間柄を思い出していた。


「……惜しいが、次の約束がルイならば仕方あるまい」


ルイから私に顔を向けた殿下は、優美な動作で私の手を取り、扇情的な視線で私を見つめ、その甲にゆっくりと口付けた。


なっ……!?


「で、殿下…私のような者の手に口付けだなんて、恐れ多いですわ」


突然のことに驚いたが、先程とは違いなるべく平常心を保つように意識する。そんな私に気づいたのか殿下は口角を上げて、こちらを見つめていた。そっと取られた手を外そうとすると、手首を掴まれ、ぐっと身を寄せられる。バランスを崩しかけそうになり殿下に支えられる形になった。


「あまりに可愛い反応をされると、君を暴きたくなるな」


あ、あ、あばっ!?

暴くって一体なにを!?


引き寄せた耳元で囁けば、赤みが消えないヴィオレットの耳元が視界に入り、ノアは満足げに笑みを深める。そして、ヴィオレットの後ろにいるルイに挑発的な視線を向けた。

それに気づいたルイは、人が良さそうな笑みをノアに向ける。


「ヴィオレット行こう。それでは失礼するよ」


「あ…」


ルイ様に再び腰に手を回されると、殿下は私の手首を掴んでいた手をすんなり解いた。そして先程よりもルイは力強くヴィオレットの腰を引き寄せて場を後にした。






「ルイ様、先程はありがとう」


流れ始めた曲に合わせて、ルイ様とダンスを踊る。優美に見えるように意識して、ステップを踏む。助け舟を出してくれたお礼を伝えると優しげに目を細めて、こちらを見つめていた。


「いいんだよ、ヴィオレット嬢。それにノアも強引な手を使ってきたからね。普段は堅物な男なんだ。女性に迫るところを見たことは無かったから驚いたよ」


「そうなのね……私も少し驚いてしまったわ。今まで殿方からの口説き文句など聞いたことがなかったんだもの」


「……今夜の貴女は、誰よりも美しいからね」


「え…」


初めてルイ様に美しいと言われた。


サラリと告げられた言葉に、私は驚いて彼をまじまじと見つめる。私の視線に気づいたルイ様は視線を彷徨わせ、頬を赤らめた。

そんなルイ様の照れた表情と、彼の「美しい」という言葉に嬉しさとほんの少しの恥ずかしさが混じり、私の頬もじわじわと熱を持ち始める。

兄に言われ続けて慣れてしまった「美しい」がこんなにも嬉しいだなんて。


今までにない、くすぐったいような雰囲気になり、お互い口を閉ざしてステップを踏むことになった。


 


ステップを踏むことに集中することで、心の落ち着きを取り戻りたあと。


ーーああ、懐かしいわ。


初めてルイ様と踊るはずなのに、私はそう感じていた。ルイ様の相手に合わせたリードはとても上手く、私を導き、私を抱き寄せるその手先足先は美しい。


殿下と踊っている時は、夢の中の彼と重ねているだけだったけれど、ルイ様に懐かしさを感じるのは何故だろう。


何故か涙が溢れそうになり、慌てて顔を上げる。

そんな私に気づいたルイ様は驚いたように目を見張る。そして、その夜空を映した瞳を切なげに揺らした。


腰を添えていた手に力が入ると、ルイ様と顔の距離が近づく。

きっと周囲の者に気づかれないように、私の顔を隠してくれたのね。

そんな彼の優しさに感謝しつつ、私はその心地良い体温に身を委ねたのだった。





曲が止み、ダンスを終える。

ルイ様と踊った後、複数の男性からダンスの誘いを受けたが、緊張による疲れもあり丁寧に断りを入れた。

兄を探せば、兄は令嬢とダンスを踊っている最中であったため合流を諦める。

ルイ様を見上げると、私の視線に気づいた彼は穏やかな笑みを浮かべた。彼の笑みを見ていた令嬢たちは、頬を赤らめているのが視界に入る。

次期宰相であり、次期公爵であるルイも人気が高い。爵位だけではなく顔立ちも良いのだ。夜空のような髪色と瞳は、光の角度によってはキラキラと輝き、夜空に散りばめた星々のような美しさを見せ、周囲を魅了する。

踊り終えた後、他の令嬢が期待した目で彼を見つめていたが、私の休憩に付き添ってくれるようだった。初めての舞踏会に1人は心細いので、その気遣いに甘えることにした。


テラスで夜風に当たり、ダンスによって火照った身体を冷ます。「飲み物を取りに行ってくるよ」と言ったルイ様はまだ戻ってこない。取りに行った時間的に、もうそろそろ戻ってくるだろう。


王宮のテラスは外灯があるものの薄暗い。テラスの手すりから庭園を眺めると月光に照らされた桃色の薔薇が咲き誇っていた。


「綺麗ね…」


「咲き誇る幾千の花々に比べて、あんたはいつ見ても醜く、憎たらしい女だわ」


突如地を這うような低い声が後方から聞こえる。コツコツと足音が鳴り、私に近づいてくる気配がした。控え室で感じていた視線をヒシヒシと感じ、私の体は何故か動かなくなった。


足音が静かになったことに私は恐怖を覚える。私の真後ろに誰かが立っているのだ。



逃げなければならない。



そんな警告が頭の中をグルグルと支配する。

心臓がドクドクと早く波打つ。竦み上がる足を懸命に動かし、私は後ろを振り返った。

薄暗い視界の中、月光を浴びてその姿を現す。

真っ白なドレスで着飾った14、15歳の少女。

縦ロールに巻かれた青銀の髪、漆黒の瞳。小動物のように可愛らしい目元は今はきつく吊り上がっており、瞳の奥には憎悪に満ちていた。


「あ、あなたは…」








「久しいわね、クリスティーナ。私が誰だか覚えていないのかしら?」




◇◇◇





「ーーー失礼ながら、ノア殿下。ヴィオレット嬢の次のダンスは私が誘っていたのです」


気がついた頃には、私はヴィオレットの腰に腕を回し、ヴィオレットをノアから引き離していた。


ヴィオレットの真っ白なドレスは蝶のように舞い、黄白色の緩やかな髪は宙に円を描く。

そして情熱的な瞳で彼女を見つめるノア。

前世の私と同じ金髪を持つノア。

令嬢から申し込まれれば断ることはないが、決して自らダンスを申し込んだりしないと有名なノア第二王子。

そんなノアと踊っているヴィオレットを見て、何も思わないわけがない。


「ルイ様…」


腰を引き寄せたのが私だと理解したヴィオレットは私に身を委ねた。先程まで嫉妬と焦り、切なさでない混ぜになっていた私の心は、それだけで喜びと優越感で満たされる。

優越感に浸った私に向ける彼の挑発的な視線も可愛いものだと思えた。


ヴィオレットの優美に舞う動作に合わせてリードする。私の腕の中にいる愛らしいヴィオレットを見つめながら、私は過去を思い出していた。


アルメリア王国のデビュタントは15、16歳の令嬢が対象となる。大体は淑女としての振る舞い方を十分に得た者から社交界デビューを果たすため、16歳になった頃にデビュタントを迎える令嬢が多い。

王妃教育を受けていたティナは15歳でデビュタントを迎えた。私が選んだドレスで着飾ったティナは誰よりも美しく、誰もが目を奪われる愛しい婚約者が私だけを愛おしそうに見つめることに、悦びを感じていた。


過去を思い出していると、突如ヴィオレットが顔を上げた。突然のことにヴィオレットの顔を覗き込むと、その瞳は潤んでおり、私は目を見張る。

そして私は顔を歪めた。

ヴィオレットの切なげな瞳がティナの最期と重なるから。

もし()が前世を思い出したら、()()は私をどう思うんだろうか。

できるのであれば君が愛してくれた私を思い出してほしい。

できるのであれば君を殺した愚かで醜い私を思い出さないでほしい。

そんな矛盾した思いが心の中を渦巻く。


今だけは私のヴィオレットでいてほしい。

そう願って私は彼女を引き寄せた。


ダンスを終え、ヴィオレットとテラスに出る。

夜風に当たると気持ち良さそうにしていたヴィオレットを見て、彼女に何か飲み物を持ってくるのを忘れていた事に気づく。


「飲み物を取ってくるよ」


それが私の間違いだった。夜風に靡く彼女の髪を耳に掛けた私はテラスを後にした。


飲み物を取りに会場へ戻ると、私が1人であることに気づいた令嬢たちに囲まれてしまった。

令嬢たちは私の次期宰相、次期公爵という肩書きに魅了されているのだろう。令嬢たちの瞳の奥に見せる色はいつも同じだ。

アルメリア王国は王族に限り、側室を持つことが許されていた。あわよくば側室に、と考える令嬢も少なくはなく、私には寵愛するクリスティーナがいるというのにも関わらず、側室に召し上げられたい、という願望が垣間見えているのが不快であった。

過去も今も何も変わらないな、と内心ため息を吐いたが、それをおくびにも見せず、笑顔でやり過ごした。


漸くして令嬢たちの輪から抜け出した後、飲み物を取りテラスへ向かう。

テラスには幾つか外灯はあるものの、会場とは比べものにならない程薄暗い。見えるか見えないかの明るさであり、会場からはテラスに誰がいるのかは把握するのは難しいが、私がヴィオレットを見間違える筈もなく。どこにいようが見つけ出せる、愛しい彼女はテラスの手すりから庭園を眺めていた。


テラスにもう1人、デビュタントを迎えた少女がいたらしい。真っ直ぐヴィオレットの方へ向かった少女は、彼女に何かを話している。

体調を崩してしまうことが多かったことや、ヴィンスが愛する妹を外に出そうとしなかったこともあり、彼女に友人と呼べる者は少ない。

私は今回の舞踏会を機に、ヴィオレットに友人ができると良いと考えていた。しかし、テラスに足を運び、彼女たちとの距離が徐々に近づいていくと、穏やかな雰囲気というわけでもなく、少女が一方的にヴィオレットを悪罵しているようだった。

それに気づいた私は顔が強張るのがわかった。


早足で彼女のもとへ向かい、声をかけようとした瞬間。



少女が手すりに背を向けたヴィオレットを突き落とした。






「ヴィオレット!!!!」







グラスの割れ落ちる音が後方で聞こえる。

詠唱を紡ぎながら、私はテラスから投げ出されたヴィオレットに手を伸ばした。




ご拝読ありがとうございました!

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