4 ヴィオレット/ルイ
資格勉強終了しました。最近、機種変更をしました。いくつかある乙女ゲームのうちの一つなんですが、パスワードを忘れてしまいデータ移行ができなく泣く泣く初期化することになりました…。先月2万ほど課金していたのに……また貢ぎ直したいと思います。
ペース上げたいところですが、体調不良の為、今月は体調をみながら、投稿していきたいと思います。
車輪の揺れる音や馬の蹄が地を蹴る音が聞こえる。
馬車の窓の外、晴天の夏空を見上げ、暖かな日射しに私は顔を綻ばせた。
「折角晴れたのに、お兄様が来れなくて残念だわ」
ヴィオレットの向かいに腰を掛けているルイは読んでいた分厚い本を閉じて、苦笑した。
「ヴィンスはヴィオレット嬢と外出するのを一番楽しみにしていたはずだからね。きっと彼も残念がっているんじゃないかな」
今日は本当であれば、3人でお出かけをするはずだったのだ。兄が珍しく2日前に体調を崩してしまったため、中止にしようかと思ったが、「あまりない機会だから楽しんでおいで」と兄に言われ、ルイ様と2人で出かけることになった。
「ええ、そうだと思うわ。家でもお兄様と会えないから、手紙を送り合っているのだけれど、身体の辛さよりも私に会えないことを悔やんでいるようだったわ」
「…………ヴィンスの悔やんでいる姿が想像つくよ」
お兄様の体調は心配だし、気分が優れない時に外出するのは気が引ける。けれど、今日は滅多にない外出なのだ。ほんの少し、いやかなり楽しんでいるのは内緒よ。
それから暫く過ごしていると、ゆっくりと馬車が停まって目的地に到着した。
ドアが開けられ、ルイ様が降りたあと、手を差し伸べてくれたルイ様の手を借りて馬車から降りた。
「まあ…!とても綺麗…夢みたいだわ」
馬車が停まった先は郊外の少し小高い丘にある花畑だった。穏やかな風と共に花々の甘い香りが運ばれ、心が凪いでいく。
「気に入ってもらえたようで良かった」
「ええ!ルイ様、ありがとう!」
溢れる喜びを笑みに浮かべ、ルイ様を見上げると、彼は眩しそうに目を細めて微笑んだ。
「慣れない馬車で疲れただろう?お茶を用意させるから、少し休もうか」
ルイ様はそう言って、手を差し出したので、ヴィオレットはそっと自分の手を重ねる。大きな木の下に敷いた敷物へ案内されて、ワンピースがしわにならないように座った。
「今日は私の母が焼いたクッキーを持ってきたんだ。ヴィオレット嬢にって張り切っていたようでね…」
まさか、公爵夫人自らが焼いたクッキーを頂けるとは思わなかったため、ヴィオレットはとても驚いた。
「まあ、私のためにわざわざ…。とても嬉しい!勿体無くて食べれないくらいよ」
「そう言ってもらえると、母も喜ぶよ」
「いただくわ」
茶葉を混ぜたクッキーは甘すぎない上品な味わいで、咀嚼をするたびに紅茶の香りが鼻へ抜けていく。マリーが入れたレモンティーと共にルイ様との会話を楽しんだ。
ルイ様とお茶を飲んだあと、ヴィオレットは来れなかった兄の気分が少しでも優れるようにと願いを込めながら、花を摘んでいた。ルイは馬車の中で途中まで読んだページを開いたまま、そんなヴィオレットの様子を穏やかに目を細め、眺めていた。
鮮やかな色合いの花を摘み終えたヴィオレットは、何気なくふと顔を上げると、ルイが大きな木に背を預けて眠っていることに気づいた。兄に贈る花束の他に、花を摘みとって眠っているルイ様の隣に座り込んだ。
寝ていても、あどけない印象とは程遠い。
まぶたを閉じていても、涼しげな顔立ちなのね……
可愛らしい天使から甘い色気だだ漏れに成長した兄も眠ると、少しあどけない可愛らしい顔立ちになるけれど、こんなにも違うものなのね。
まじまじ見つめていると、コテンと肩に重みを感じ、今までにない距離感にドキッとした。
起こすのも可哀想だし、もう少しこのままでいよう。
ルイ様の温かな重みと穏やかな風を感じる。
私はこの時間がとても心地よく思えた。
◇◇◇
「……ふふ」
ヴィオレットの声?
そっと瞼を持ち上げると、夕日と同じ色の瞳が笑みを浮かべて私を見つめていた。
「……ヴィオレット…?」
寝起きのせいか、声が掠れている。
声を出すと、ヴィオレットは益々笑みを深めていた。
「……ごめん。私は随分眠ってしまっていたようだね。他にもヴィオレット嬢に喜んでもらえそうな所に行こうと思っていたんだけど……本当にごめんね」
「いいの、気にしないで?気持ちよさそうに眠っていたいから、起こすのが勿体ないと思って起こさなかったのは私よ。…………っ……ふっ」
「ヴィオレット嬢?」
「っ…ふふふ!ルイ様、可愛すぎるわ!!」
「…ん?」
ヴィオレットに申し訳ないことをしたと気落ちしていたが、肩を震わせて笑うヴィオレットが不思議になり、首を傾げた。ずるっと何かが頭から落ちそうになり、その何かを掴んで顔の前に持っていくと、綺麗に編まれた花冠が視界に入った。
「ふふふ!駄目よ、今日は罰としてずっと被って過ごして?ええと、決して怒っているわけじゃないのよ?」
掴んだ花冠をそっと手に取られ、再び頭に乗せられた。戸惑って黙っていると、彼女は顔を綻ばせた。
「ルイ様とても似合っているわ」
「…私は男だよ」
「ふふ、でも罰は罰よ?」
「……罰は受け入れなくてはね…。それにこれは貴女から贈り物だし、大切にするよ」
彼女の柔らかな笑みに目を細める。夕日に照らされた彼女のクリーム色の髪は、銀糸のようにも見えた気がした。
夕空はすっかり紅掛空色に移り変わり、太陽の光を盗んだ月が姿を現し始めた。そんな様子をヴィオレットは静かに馬車の窓から眺めている。読んでいても内容の入ってこない本をめくり、私は彼女を盗み見ていた。
彼女と出会ってから5年の月日が経った。ヴィンスと同じ髪色と瞳を持つ彼女は、ヴィンスと同様に色香が尋常でないほどの美少女に成長した。兄と反対の右目尻にある黒子が艶めかしさを際立たせている。魔力のコントロールができるようになり、体調を崩すことなく過ごせているようで、ようやく安堵できたのは最近のことだ。
ヴィオレットを盗み見ていると顔をこちらに向けられた。見つめていたことを悟られないよう、読んでもいないページをめくり自然に見えるよう微笑み、言葉を紡ぐ。
「……そういえば、今度のデビュタント出るみたいだね」
「ええ、今度こそは出られると思うわ」
デビュタントの王宮舞踏会は15歳以上の貴族子女が社交界デビューをする。ヴィオレットは体調を崩したため、一年見送ることになっていた。
「お兄様がエスコートしてくれるみたい」
「はは、張り切っているヴィンスが目に浮かぶよ。しかも、他の男を牽制しそうだ」
「そ、それは勘弁してほしいわ…。良い縁を結びたいもの。お兄様だって婚約者がいないのだから素敵な御令嬢に出会ってほしいわ」
「…………はは……、その願いは難しそうだ」
ヴィオレットの何気ない言葉に心を抉られる。私には彼女を幸せにする権利はない。傷つく資格もない。それでも、それでも、ヴィオレットの声で、彼女に似た眼差しで、私以外の男の手を取ることを告げられたくはなかった。美しい彼女はきっと、王族の者と踊ることになるのだろう。そして、目を奪われた男は彼女を欲するのだろう。
嫌だ、彼女を誰にも奪われたくない。
私だけの彼女のはずだったのに。
「ルイ様?」
ヴィオレットの声にはっとする。顔を上げると、私が何も発さないことを不思議に思ったのか、ヴィオレットが私の顔を覗き込んでいた。
「ん、なに?」
「ルイ様、私はルイ様とこうして過ごすことができて嬉しいし、心地良いと思うわ。でも、いつかルイ様も素敵な御令嬢と巡り会えるかもしれないでしょう?ルイ様はとても素敵な殿方だもの。…きっと寂しくなるけれど、素敵な方を見つけたら、私とお兄様と過ごすのではなくて、愛した方と過ごす時間を大切にしてほしいの。……約束よ?」
………君じゃ駄目なのか。
君が私の最初で最期なんだ。
心が苦しくなることも、心地良さを感じるのも貴女なのに。私はきっと一生、君に…貴女に囚われたままなんだ。
愛してる、愛してるんだ、私のーーー。
「…ああ、ヴィオレット嬢約束するよ」
口に出た言葉と微笑みとは裏腹に、私の心は鉛のように沈んでいった。
次話は小話を2~3話程度投稿する予定です。
今後もよろしくお願いします!