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転生令息と前世の婚約者  作者: 千花
4/11

3 ヴィオレット視点

一部修正しました。

「ヴィオレット嬢、久しぶりだね。もう体調は良くなった?」


「ルイ様お久しぶり!!とても元気よ。今日はお茶会を楽しみにしていたの。だから気分もいいわ」


そう。本当に楽しみにしていたのだ。

ルイ様とお友達になって5回目のお茶会。

いつものように熱を出して寝込んでいたが、その後に風邪をこじらせてしまい、2ヶ月半前に予定していたお茶会が延期になってしまった。だから、3人でお茶会をするのは2ヶ月半ぶりになる。


「ヴィー、途中で具合が悪くなったりしたら遠慮なく兄様に言いなさい。いいね?」


はあい、お兄様と答えたが、ヴィンセントは心配げな様子でヴィオレットを見つめていた。

無理もない。

風邪だと思っていた時は自分も然程心配していなかったが、2週間程経った後から咳が止まらなくなり、呼吸をするのもやっとだった。夜間に症状が酷くなるため、十分な睡眠も取れなく、日中も伏せっている状態だったのである。


ヴィンセントはそんな私が心配で堪らなかったのか、看病するだの、何かあったら大変だから一緒に寝るだの、扉の前で叫んでいた。ぼんやりする頭で、マリーと母がヴィンセントを宥めている声が聞こえた気がする。


母も幼い頃に同じ症状に罹ったことがあるらしく、一度その病気に罹ったら免疫がつくから大丈夫だといって、私の体調が良くなるまで傍にいてくれた。

1ヶ月半程苦しい思いをしたけれど、寝る時間も母を独占できて嬉しかった。

父も私の様子を看ようと部屋に入ろうとしたが、母に止められたせいか、代わりにと、毎日一輪ずつ可愛らしい花を贈ってくれた。


全快した日は、母が大丈夫だと言うのにも関わらず、ヴィンセントと父がまだ油断できないと言い張るので、母と父、ヴィンセントと4人で寝る羽目になった。


「本当に大丈夫よ、お兄様。体調が悪くなったら伝えるわ。私、ずっと今日のお茶会を楽しみにしていたの。だから、今は楽しみましょう?」


「…わかったよ、ヴィー」


「風邪をこじらせたと聞いて、心配したいたけれど…少し痩せたね…。本当に無理はしてはいけないよ?」


ルイが心配そうに私の顔を覗いた。

今は彼と友人になったけれど、初めてお茶会をした時、彼は私とあまり目を合わせようとしなかった。

私も今までは友人がいなかったし、どのような話をしていいのか分からなかったから、緊張と人見知りで頭の中がパニック状態だった。けれど、陽気な兄が話題を振ってくれたため、彼と会話をすることができ、打ち解けることができたのである。それから、こうして彼が、我が侯爵邸に訪れた時は、3人でお茶会を開くようになったのである。


「ええ」


「食欲も無くて、あまり食べれなかったと思ったから、今日はヴィオレット嬢が好きそうなお菓子を持ってきたんだ」


侍女のマリーが焼き菓子を皿に載せてその場に現れた。


「まあ、嬉しい。ありがたくいただくわ」


優雅に皿に取り、焼き菓子を口に入れた。

バターの芳醇な味わいに、甘いドライフルーツが口一杯に広がり、思わず笑みが溢れる。

そんな私の様子を見て、ルイは静かに微笑んだ。


「お気に召したようで何よりだよ。…君はそういった焼き菓子が好きだね」


「本当、とても美味しかったわ。…あら?でも前に言っていたかしら?」

お菓子の好みを伝えた記憶がなくて、思わず首を傾げた。


「……前回のお茶会で、貴方は美味しそうに食べていたから、そう思ったんだ」


「そうだったの。…見られていたなんてちょっと恥ずかしいわね」


お兄様はよく私の変化に気づくけれど、ルイ様もよく人を見ていると思う。気分が優れない時もそうだけど、私が何が好きで、何で喜ぶのかも知っている気がする。


食べ終わりにお茶を飲んでいると、ヴィンセントの指先が私の口の横に伸びてきた。


「ふふ。ヴィー、口元に砂糖がついてる」


「え!」

慌てて、ハンカチで口元を拭う。


「砂糖がついているヴィーも可愛いね。あーまだ取れていないよ。そこじゃなくて、こっち」

ヴィンセントは自分の口元をトントンと指を当てる。


あさましい姿を晒しているのに可愛いとか言わないでほしい。

いつから付いていたのだろうか。ルイと話している時からだろうか。口の周りに砂糖をつけた状態で笑顔を振りまいていたのか。


ハンカチを口元に当て、ルイの顔を見ると、ふっと少し困ったように微笑んだのだった。


恥ずかし過ぎるわ!!

よく見られているなんて、あまり良いことないのね!





心を落ち着かせるために、お茶を飲み込む。

チラッとヴィンセントとルイの方を見ると、微笑ましそうにこちらを見ている2人と目が合い、慌てて目を逸らした。


「……ところで、お兄様とルイ様は2人でいつも何をしていらっしゃるの?」


「おおっぴらには来れないから、お忍びで市井に出かけたり、ルイは魔法が得意だから教えてもらっているんだ」


「まあ、市井に!」


驚いて2人を見る。内緒だよ、とルイが口元に人差し指を当てたので、声を出さずに頷いた。

市井の話はまた今度にしよう。

それよりも……


「私は魔力のコントロールが難しくて、魔法は使ったことはないけれど、ルイ様はどんな魔法ができるの?」


「そうだね…。それなら、ヴィオレット嬢こちらに」


「?」


ルイは立ち上がり、ヴィオレットの隣に来ると手を差し出した。反射的に手を取り、立ち上がると手を引かれる。疑問に思い、椅子に腰掛けたままのヴィンセントを振り返ると、微笑んで手を振り、優雅にお茶を飲んでいた。

ルイに手を引かれたまま、中庭に出る。

花壇の前まで来ると、ルイは足を止め、こちらを振り返った。


「見てて」


花咲くにはまだ早い多くの蕾の前で、ルイは何かの詠唱を紡ぐ。詠唱が終わると、光が弾け、キラキラとした粒子が風に運ばれ舞い上がった。

驚きと感動で言葉が出ない。その光景を見た後には、あたり一面花々が咲き溢れていた。


「まあ…!凄い!」


太陽の輝きと魔法の光を、浴びながら咲き誇る花々は、なんて美しいんだろう。澄んだ緑と咲き誇る花の甘さが香った。こんなに美しいと思えたのは今までにないと思う。


それなのに、おかしいわね。前にこんな光景を見たことある気がする。

感動で胸がいっぱいなのに、こんなにも懐かしく、切なく胸を締めつけられるのは何故だろうか。


花々から目を離さないでいると、隣から視線を感じた。


「…君はやはり、あの彼女なんだろうか」


ルイがぽつりと何かを呟いた。


聞き取れなくて、聞き返そうとすると、一際強い風が吹き、花びらが舞う。

反射的に目をつむり、乱れないよう髪を抑える。

風が止み、目を開けると、橙色に染まった一輪の花を差し出された。


「これを貴方に」


「綺麗な橙色…。ルイ様ありがとう。これは…金盞花かしら?」


「よく知っているね。その花は…私みたいなものだから」


「ルイ様みたいなもの?どういう意味かしら?」


「…いや、なんでもない。深い意味はないよ」


「…そう。私だったら…ルイ様に花を贈るなら金盞花じゃなくてネモフィラを選ぶわ。ルイ様の髪色と瞳の色にとってもお似合いだと思うの」


「…っ」


ルイは一瞬顔を強ばらせ、泣き出しそうな、切なそうな微笑みを浮かべる。そして、金盞花を私の髪に挿し込んだ。


「貴方の瞳と同じだ。よく似合っているよ」


顔を覗き込まれ、夜空を映した瞳で、じっと見つめられる。苦しげな微笑みに、目が逸らせなくなり、ルイを見つめた。


「…そんなに熱い視線で男を見つめ返さないで。大抵の男なら勘違いをしてしまうよ」


「ルイ様が見つめてきたのに?」


「私はいいんだよ。貴方がいつ体調が悪くなるか、心配で目が離せないんだ…困るくらいに…。君は…私を困らせる趣味でもあるのかな…?」


「その言葉…」


『ーーは本当に可愛い。可愛すぎて困るくらいだ。君は…私を困らせる趣味でもあるのかな…?』


いつかの夢で聞いた言葉。金色の髪の彼と、目の前の彼は別人のはずなのに、夜空を映したような髪、青色の瞳と重なって見える。


「え?」


「いや、その…。その言葉…夢の中でも聞いたような気がして、ルイ様と夢の中の男性が重なって見えたの」


彼を見上げると、泣き出しそうな表情をしていた。なんだか、見てはいけないような気がして顔を俯く。


「きゅ、急にごめんなさい。こんなこと言われても、困るわよね」


「…もし、それが夢じゃないとしたら?」


その言葉に反応して彼を見上げると、私の頬に手を添えられる。触れた指先はどこか震えている気がした。


「え?」


彼から目を逸らせなく、身体が動かなかった。

指先が口元に触れ、思わずピクっと肩が跳ねる。


「………ふふ」


「?」


「さっき風が吹いたせいかな。髪に可愛らしい髪飾りがついているね」


「あ……」


そう言って、彼が花を挿した反対側の髪に触れて、ついていた花びらを払った。


頬から離れた手が差し出される。


「さぁ、そろそろ戻ろうか。ヴィンスが心配しているかもしれない。…それに、妹を奪われたとか言われそうだ」


「…そうね、そうしましょう」


ルイの変化に違和感を感じたが、何もなかったかのように振る舞う彼に合わせる。

珍しい彼の冗談にクスッと笑い、差し出された手を取り、ヴィンセントの元へ戻った。




金盞花の花言葉は「別離の悲しみ」「寂しさに耐える」

ネモフィラ「あなたを許す」

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