2 ヴィオレット視点
なんて美しいんだろう。
見上げれば青空が広がっていて、花々は太陽からの恩恵を受け、咲きこぼれている。
私はガセボで、この美しい光景を眺めるのが好きだ。
「ーー、君は本当にここの庭園が好きだよね」
低く、甘い声で名を呼ばれ、ゆっくりと視線を動かす。
あら?
私はようやく、自分の思い通りに体を動かせないことに気づいた。
ああ、これは夢なのね。
でも…今、声をかけてきた方は誰かしら?
ゆっくり動かした視線の先に、日の光に輝かく金色の髪が揺れる。その顔ははっきり見えない。
「私は、君といるからそこ、世界は美しいと感じるようになった…。君と過ごす時間が好きだよ。…だが、今は私といるのだから、私にも構っておくれ」
「ーー、おいで」
彼が両手を広げた。
自分の意思とは裏腹に身体が動く。
彼の胸に飛び込むと、抱きしめられ、額に口づけられた。恥ずかしい気持ちと嬉しい気持ちで、胸が締めつけられ、彼の胸に顔を埋めた。
「ーーは本当に可愛い。可愛すぎて困るくらいだ。君は…私を困らせる趣味でもあるのかな…?」
彼の耳が赤く染まっている。
その様子が可愛らしくて、思わず彼の金色の髪に手を伸ばし、戯れに髪を触った。
「君は本当に私を喜ばせるのが上手だね。私が触れたいと思うのも、触れられたいと思うのも君だけだよ」
彼を見上げると、幸せそうに微笑んだ気がした。
小鳥の囀りが聞こえ、ヴィオレットは目を覚ました。
大きな窓にかけられたカーテンから、朝の光が差し込んでいる。
今日も知らない殿方が出てくる夢だった。
もう少し眠っていたら、彼の顔を見ることができたのかしら。
私は兄・ヴィンセントの幼馴染であるルイを散歩中に偶然見かけた頃から、知らない殿方が出てくる夢を見るようになった。
初めてお会いしたけれど、ルイ様は夜空を映したかのような艶やかな髪色の方だから、彼じゃないのよね…。
一体彼は誰なのだろうか。
本当に不思議である。
ヴィオレットが不思議に思っていると、ドアからトントンと軽やかな音が聞こえる。
上体を起こし、「はい」と返事をすると、仲の良い侍女のマリーが扉を開けて入ってきた。
「おはようございます、お嬢様。今日は顔色もよろしいようですね」
マリーは、ほっと息をついて微笑んだ。
「ええ、そうなの。最近は体調が良いみたい。寝込んでいる間に筋力も衰えたみたいだから、今日は散歩に行きたいわ」
「畏まりました。久しぶりの外になりますね!お嬢様の好きな砂糖菓子もご用意いたします!お嬢様がお元気になられて、なによりでございます」
マリーは嬉しそうに、笑みを浮かべた。
マリーが私の体調を気遣うのも無理はない。
兄のヴィンセントと私は膨大な魔力を持って生まれた。兄と違って、私は魔力を支えるだけの体力を有していなく、身体が魔力に耐えきれなくなって、熱を出して寝込むことが多かったのだ。
だから、外に出る機会は少なく、自室で過ごすことが多かった。
まぁ、お兄様が「私の可愛い妹を他の男になど、会わせる訳にいかない!」といつも言ってくることも理由の1つになるのだけれど。
幼い頃は、兄とはそういうものだと思っていたし、それが苦痛になることはなかったのだ。けれど、毎日私が眠るまで、枕元で友人の話をする兄は楽しそうで、友人と過ごせる兄を羨ましく感じていた。
私を想う気持ちは嬉しいけれど、私だって体調の良い日は庭で散歩したいし、友人だってほしい。お兄様は、幼馴染であるルイ様とよく遊んでいるのに…。
というわけで、兄への反発心もあり、兄の友人がいる時に、庭で散歩をすることにしたのだった。
庭でばったり会った時のお兄様は、むすーっとしていた。ルイ様がお帰りになった頃に「お兄様が大好きだから、お兄様と同じように外に出たり、お友達と過ごしてみたかったの。大好きなお兄様の真似をしたかったの…」と上目遣いで言ってみることにした。「大好き」を強調したり、兄を真似る妹を演じてみると、兄はデレデレ顔になっていた。その日から、監視の目が緩々になった。
他愛もない。
散歩する前に、マリーが殆ど考えた“お兄様の手玉を取ろう作戦”は成功した。
興奮気味にマリーに報告すると、マリー曰く「お嬢様ラブな坊ちゃんの御考えは手に取るように分かります」らしい。
ーーそれなら、もっと早くに手玉取り作戦を知りたかった。
手玉を取ることに成功した私は、今日もマリーと庭で散歩をする。
私には、3歳下の妹がいます。私もシスコンと周りから言われますね笑
幼い頃から私の後を追いかけていた、私の可愛い妹をとらないで〜という思いがあります…。なので、妹に好意を示す男性が現れると、気が気じゃないんですよね(´-д-)-3
ヴィンセントほどシスコンではないと思うのですが、妹からは面倒がられている気がします。